【第4回】これからの薬剤師フォローアップ業務について

益山 光一氏東京薬科大学薬学部 医療薬物薬学科薬事関係法規研究室 教授


第3回でお話しした『薬剤使用期間中の患者フォローアップ(研究班版)~適正な薬物治療共同管理計画に向けたフォローを実施するために(仮)~』は、服薬フォローアップを着実に実施して欲しいという想いを具現化するための「はじめの一歩」となればと考えており、その一歩ずつの積み重ねが、フォローアップの概念図(図1)の完成に近づいていくと考えております。

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図1 フォローアップの概念図

では、フォローアップ実施の先、薬剤師業務はどのような進化が可能だと思いますか?

すぐに思いつく内容としましては、フォローアップの中での、ポリファーマシーの対応、アドヒアランスの向上、さらには、メディケーションレビューの実施やフォーミュラリーへの貢献などかもしれません。もちろん、それらが重要であることは言うまでもありませんが、現在、薬学部に通って、数年後に薬学部を卒業し、薬剤師として長年に渡って働くであろう学生にも期待の持てる薬剤師業務への進化につなげられないかという、中長期的な視点からの調査研究についても、今回の厚生労働科学研究で実施いたしました。その調査研究が、本学の若手の先生方も分担研究者として参加いただき、海外の状況等を参考にした『質の高い薬学管理・評価指標の検討』です。その一部(BMQとCARE)について簡単に紹介いたします。

BMQとCAREというワード、聞き慣れない方も多いかもしれません。BMQとは、医薬品に対する信念の測定尺度である Beliefs about Medicines Questionnaireです。医薬品に対する信念(beliefs)を評価するために、英国で Horne らが開発した尺度です。医薬品に対する信念は服薬アドヒアランスに関連することが知られており、現在、世界各国の研究で BMQ が使用されております。図1のフォローアップ概念図の最初のところに記載しております、「患者特性」にも関係しますが、自分の服用している薬を全く信用していなかったり、過信していたり、不安だったりする内容等を数値化して見える化し、その内容を参考にしながら服薬アドヒアランス向上に向けたフォローアップにつなげることが可能になると思います。

CARE(CAse REport)は、症例報告の書き方に関するガイドラインで、症例報告の正確性、透明性などを向上させる目的で、国際的な専門家グループによって作成されたものです。CAREに関しては、checklist、writing outline、e-learning等のコンテンツが公開され、様々な言語に翻訳されております。本研究で重視したポイントは、CAREのchecklistは複数の学術誌が投稿要件として採用している点です。本邦において、薬剤師が症例報告を書く際に参考にできる資料は限られているのですが、こういったCAREのコンテンツの日本語版の普及等についての対応も行い、フォローアップでの症例について、医薬品の有害事象・副作用に関する症例報告の質向上のみならず、学術誌等に投稿することもこれからの薬剤師の重要な任務になるのではないでしょうか。

BMQとCAREの日本語版等については、今回の分担研究者である東京薬科大学の川口先生と藤宮先生が、今後、徐々に学会等で発表し、研究を発信していく予定ですので、もう少しお待ちください。

取材等で「これからの薬剤師業務はどのように変わっていきますか?」という質問を受けることがあります。そのような質問には、「どのように変わっていくかではなく、どのように変えていくべきか、そしてそのためにどのような対応を行うかが重要」であることからお答えさせていただいております。どのような対応を行うかの方向性の1つとして、薬剤使用期間中の患者フォローアップを個々の患者さんに丁寧に対応し、さらには、その対応事例や症例等の学術誌に報告を実施することで、医学薬学の学問の発展にもつなげていくことが挙げられると確信しております。

最後のコラムまでお付き合いいただき感謝いたします。この第1回から第4回のコラムを見てから、厚生労働科学研究成果データベースにある「薬剤師の職能発揮のための薬学的知見に基づく継続的な指導等の方策についての調査研究」の報告書(※1)を読んでいただくとわかりやすいかなと思っております。ご興味ありましたら、是非、報告書の方も参考にしてください。

終わりにあたりまして、皆様の患者フォローアップを通じたご活躍を祈念いたします。どうもありがとうございました。

  1. 「薬剤師の職能発揮のための薬学的知見に基づく継続的な指導等の方策についての調査研究」の報告書

    https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/165522