【第4回】国際人道支援における薬剤師の活動

江川 孝氏福岡大学薬学部 救急・災害医療薬学研究室 教授


わが国は、歴史的に地震、台風や火山等の自然災害が多く、これらの自然災害に対する豊富な経験と技術的な対応や知識を蓄積してきました。1970年代後半には、これらの知識・技能・対応を国外の災害に活かしたいとの想いから、医療チームの派遣を中心とする活動が始まりました。

このような背景から1987年に「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」が施行され、国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief Team: JDR)として捜索・救助を行う救助チーム、災害医療を専門とする医療チーム、災害応急対策・復旧のための助言を行う専門家チームおよび自衛隊部隊が被災国の要請に応じて派遣されることが決定されました。

現在、これら4チームに加えて海外での大規模な感染症の流行を最小限に抑えるための活動を目的として2015年10月にJDR感染症対策チームが新たに国際緊急援助隊として設置されました。JDR医療チームは、団長1名(医師1名)、副団長2名、医師3名、チーフナース1名、看護師6名、薬剤師1名、医療調整員5名、業務調整員4名の23名体制を基本モジュールとし、災害の規模や種類に応じて1〜2名の薬剤師が派遣されます。

このJDR医療チームは、2003年に発災したイラン地震に対する派遣を機に、近隣諸国における大規模災害の急性期に対応する必要性の高まりから、従来の診療機能に加えて手術・透析・病棟等、高度な診療を提供することが可能となるフィールドホスピタルとしての機能の拡充を進めてきました。

その後、2016年にJDR医療チームは、中国(1チーム)とロシア(2チーム)に次いで世界で4番目の緊急医療チーム(Emergency Medical Team: EMT)として、タイプ1(外来患者に対する初期医療および巡回診療を実施)およびタイプ2(外科的手術や入院機能)及びスペシャリストセル(透析および手術)の能力を有するチームとして世界保健機関(World Health Organization: WHO)の認証を受け、国際登録されました。

被災地に派遣された薬剤師は、薬局での調剤やDI活動のほかに、医療資器材の管理、受付でのフィジカルアセスメント、医薬品調達や避難所アセスメント等の業務を担います。時には、医師とともに巡回診療に同行して処方提案を行い、被災地の病院薬局内で諸外国から派遣された薬剤師とともに英語でコミュニケーションを取りながら病院内で調剤業務をします。

また、診療サイトの調剤業務では、チャック付ビニール袋にイラストで用法を薬札に記載して患者に手渡したり(図1)、加圧式定量噴霧吸入機(pressurized metered dose inhaler: p-MDI)のスペーサーとしてペットボトルで作成した即席のスペーサーを利用したり(図2)、調剤や服薬方法説明の工夫が必要となる場合もあります。

図1 ペットボトルを利用した吸入補助器具(ネパール地震,2015年)

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図2 イラストを活用した服薬指導の様子(ウクライナ避難民に対する医療支援,2022年)

被災地内の限られた医療資源の中で被災者に最適の医療を提供するには、国内災害と同様に薬剤の専門家としての能力に加えて薬剤師による医薬品管理・運用や公衆衛生、ロジスティックの職能を補完する能力が求められます。