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第3回 教えて渡邉先生!統合失調症に対するラツーダ早期増量の意義

ラツーダは、忍容性が確認され、効果不十分な場合に80mg/日まで増量することができます。しかし、増量を検討する際に参考になるデータは多くありません。
一方、本邦でラツーダが上市されてから4年が経過し(2024年6月時点)、この4年間で実臨床におけるラツーダのエビデンスが蓄積されつつあります。
そこで今回は、渡邉 佑一郎先生(医療法人社団玉藻会 馬場病院 副院長)に、統合失調症患者さんに対するラツーダの使用実態調査および臨床試験結果の双方から、ラツーダの80mg/日※への早期増量の意義をご解説いただきます。
※ラツーダ電子添文より抜粋
6. 用法及び用量
〈統合失調症〉
通常、成人にはルラシドン塩酸塩として40mgを1日1回食後経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は80mgを超えないこと。
7. 用法及び用量に関連する注意
〈統合失調症〉
7.1 忍容性が確認され、効果不十分な場合にのみ増量を検討すること。また、本剤の投与量は必要最小限となるよう、患者ごとに慎重に観察しながら調節すること。
1.背景
MR
渡邉先生は、以前の勤務先である倉敷仁風ホスピタルで統合失調症患者さんに対するラツーダの使用実態を調査し、本調査の中でラツーダの80mg/日への早期増量の意義についても検討されたと伺っています。こうした検討を行ったのは、どのような背景からだったのでしょうか。
渡邉先生
ラツーダは患者さんの状態に合わせて80mg/日まで増量することができますが、その増量タイミングは医師の判断に委ねられており、増量時期を考える際に参考になるデータはあまり多くありません。そこで、使用実態調査において、ラツーダを80mgまで使用した患者さんを、ラツーダの開始後1週未満で80mgまで増量した「早期増量群」と、1週以上をかけて80mgまで増量した対照群に分類し、PANSS合計スコアのベースラインからの変化量の推移を比較したのです。
2.調査概要
MR
使用実態調査は、どのような方法で実施されたのでしょうか。
渡邉先生
図1に調査概要を示します。対象は、2020年6月~2022年12月31日の期間において、私が主治医を担当してラツーダでの治療を実施し、少なくとも8週間以上ラツーダを継続した統合失調症患者50例でした。
本調査は後方視的に実施し、診療録から性別、診療区分、ラツーダ開始時年齢、罹病期間、導入方法、ラツーダの使用用量及び併用薬、社会参加状況等の患者背景に関する情報を取得しました。統合失調症の精神症状の評価にはPANSSを使用し、ラツーダ開始時及び導入後1週、2週、4週、8週の時点で評価を行いました。
図1
3.患者背景
MR
ラツーダが投与された50例の統合失調症患者さんについて教えてください。
渡邉先生
こちらが患者背景です(図2)。ラツーダ開始用量は全例40mg/日でした。ラツーダ使用最高用量の平均値は62.00±19.29mgであり、最高用量である80mg/日まで増量したのは26例(52.0%)でした。また、60mg/日までの増量が3例(6.0%)、40mg/日のまま維持が21例(42.0%)でした。
図2
4.早期増量群と対照群で解析したPANSSスコア
MR
では、早期増量群と対照群のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量を比較した結果について教えてください。
渡邉先生
まず、図3に全体集団の結果を示します。ラツーダ開始後8週までの検証は全50例が対象で、PANSS合計スコアの推移において、開始後1週時点から8週後まで継続して統計学的に有意な改善効果を認めました。
図3
渡邉先生
早期増量群と対照群でラツーダ開始後8週までのPANSS合計スコアの推移を比較した結果は図4に示します。まず、早期増量群と対照群でベースライン時のPANSS合計スコアに統計学的な有意差は認められず、ラツーダ導入時の診療区分も入院外来ともに両群で近しい値でした。ラツーダを80mg/日まで増量するに至った期間は、早期増量群で2.14±2.75日だったのに対し、対照群では27.08±14.49日でした。
その結果、PANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、早期増量群ではラツーダ投与開始後1週目で有意な改善を認めた一方、対照群では2週目以降で有意な改善を認めました。
図4
渡邉先生
早期増量群と対照群との間に有意差は認められなかったものの、特に急性期は診療区分によらず即応性のある治療が求められます。そのため、本結果からはラツーダ40mg/日で忍容性が確認され効果不十分の際には、ラツーダ導入後1週未満で80mg/日まで増量する臨床意義が示唆されたものと考えています。
5.副作用発現状況
MR
本調査における安全性はどのような結果だったのでしょうか。
渡邉先生
ラツーダとの因果関係が否定できない有害事象(副作用)は、52週時点において全身倦怠感(眠気も含む)が5例(10.0%)、パーキンソニズム、嘔気が各4例(8.0%)、アカシジア、流涎が各1例(2.0%)でした。なお、いずれも重症度としては軽度でした(図5)。
図5
6.国際共同第3相継続試験(JEWEL継続試験)
MR
では次に、ラツーダの国内最高用量である80mg/日が承認された根拠試験のひとつであるJEWEL継続試験から、ラツーダ80mg/日への増量効果を再考いただきたいと思います。
本試験の結果および渡邉先生の考える本試験のポイントを教えてください。
渡邉先生
JEWEL継続試験は12週にわたって行われた臨床試験ですが、この試験のポイントは、臨床医が必要と感じたらラツーダの用量を増減できたことで、そのプロトコルは実臨床に近似しているといえます。
本試験では、二重盲検下で行われたプラセボ対照無作為化であるJEWEL試験において、ラツーダ40mg群で十分な効果が得られなかった患者集団におけるラツーダ80mg/日への増量効果が検討されました(詳細な試験概要は後述)。
図6に示すとおり、JEWEL試験でPANSS合計スコアの改善率が20%未満だった患者集団において、ラツーダの最頻投与量である40mg群のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は-6.2だったのに対し、80mg群では-10.7でした。そして、改善率が30%未満の患者集団まで解析対象を広げても同様の結果が認められました。
図6
渡邉先生
副作用発現頻度は、JEWEL継続試験からラツーダが投与された患者群で36.9%、JEWEL試験からラツーダを継続投与された患者群で32.4%であり、主な副作用は図7のとおりです。また、本試験における重篤な副作用ならびに投与中止に至った有害事象は図8に示すとおりです。
渡邉先生
以上の結果から、統合失調症に対してラツーダ40mg/日で効果不十分な場合に80mg/日に増量する意義が示唆されました。
本試験はラツーダ40mg、80mgの可変用量で行われたため、本試験で報告された副作用がラツーダのどの用量によるものなのか、その解釈には一定の限界があります。そこで、本試験結果とあわせて、ラツーダ80mgの固定用量投与群を含む海外臨床試験PEARL#3試験の結果についても振り返るのがよいと思います。
7.海外第Ⅲ相試験(PEARL#3試験)(海外データ)
MR
それでは、PEARL#3試験の結果についても、渡邉先生の考える本試験のポイントとあわせてご解説いただけますでしょうか。
渡邉先生
はい。PEARL#3試験は、急性増悪期の統合失調症患者にラツーダ80mg/日または160mg/日を6週間投与した時の有効性と安全性を検討した試験です(図9)。
本試験はラツーダ80mg/日の固定用量群が設定されているため、ラツーダ80mg/日の安全性を検討する際の材料の1つになります。
図9
渡邉先生
図10に本試験の副作用発現頻度をお示しします。全体の副作用発現頻度はラツーダ80mg群で40.8%でした。
おそらく、多くの先生方が気にされるところが錐体外路症状(EPS)だと思います。本試験におけるアカシジア発現頻度はラツーダ80mg群で8.0%、160mg群で7.4%でした。
本試験における重篤な副作用ならびに投与中止に至った有害事象は図11に示すとおりです。
渡邉先生
あくまで参考的なデータになりますが、図12に本試験の有効性データをお示しします。ラツーダ80mg群におけるPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、投与開始4日目時点でプラセボ群との統計学的有意差を認め、その効果は6週まで維持されました。
本データにおけるラツーダ80mg投与による速やかな改善と、今回、私が観察研究より報告しているラツーダの早期増量の臨床的意義を示唆する結果(図13)は臨床の先生方の参考になるのではないかと思います。

いかがでしたでしょうか。ラツーダの実臨床での使用を考える場合、その増量タイミングは、これまで参考になるデータが十分でなくクリニカルクエスチョンの1つであるといえます。今回の使用実態調査では、ラツーダ40mg/日で忍容性が確認され効果不十分の際に、ラツーダ導入後1週未満で80mg/日まで増量することの臨床意義が示唆されました。
本調査結果を、実臨床でラツーダを使用する際の参考データのひとつとしていただけましたら幸いです。
本邦において、統合失調症に対するラツーダの国内最高用量である80mg/日が承認された根拠試験のひとつであるJEWEL継続試験についてご紹介します。