【POINT.1】患者さんの支援とともに、付き添うパートナーへの心遣いが大切

成井 繁 氏湘南あおぞら薬局 藤沢店

抗うつ剤の服薬指導は4段階に分けて説明

藤沢市は人口40万人ほどで、行楽地が目立ちますが、大手企業の研究所や工場が6箇所以上あり、総合大学も2校抱えています。そのため、ストレスを受けやすい環境の人たちが多くいます。藤沢市は、精神科診療所の数が41施設あり、人口10万人あたりの施設数が9.38と、全国平均5.65と比較して高くなっています。当薬局でも抗うつ剤を調剤する機会が多いので、いかに服薬を継続してもらうかという点を重視して、服薬指導を行っています。

抗うつ剤の服薬継続率は、60日間で41%との論文があります※1。服薬を中止した場合の再燃率は約40%で、治療を継続した群と比較して、有意に高かったとのメタ解析の論文があります※2

そこで抗うつ剤の、SSRI、SNRIを処方された患者さんには、私たちはパンフレット等の視覚的な資材を用いつつ、段階を追って、1年間の薬物治療の流れをお話ししています。

第1段階として、「服薬を始めて吐き気が出る可能性がありますが、10〜14日間くらいで改善します。そこまでは薬に対して体を慣らす期間なので、症状が改善する実感はありませんが、お薬は続けていただくことが大切です」とお話しします。

第2段階として、「症状が良い時と悪い時とがはっきりします。ご自身でも、症状に振り回されたり、周囲の方も心配して声かけたり、疲れてしまうと思います。この期間が、2〜3週間かかりますので、その期間を乗り越え、薬を飲み始めて1ヶ月後には、「良くなってきたかな」という実感が湧いてくると思います」とお話します。

第2段階の患者さんの気持ちは、自分では活動したい気持ちがあっても、実際には動けず、他人から指摘されるとショックを受けます。この時期が一番辛いと言われる人も多く、いわゆる危険域です。服薬指導では「この時期を乗り越えるまで、服薬開始して1ヶ月前後かかります。ご自身が回復したという実感を得るには、さらにもう1ヶ月、服薬を開始して2ヶ月くらいかかりますので、2ヶ月は継続して飲みましょう」と、先を見通せるよう明確なビジョンをお伝えするようにしています。

留意点としては、第1段階で、患者さんに休むことの大事さを理解してもらうことです。服薬開始当初は、薬剤の効果の実感が分からないかもしれませんが、「徐々に効いてきますので続けましょう。不安があっても一人で抱えないでくださいね」と伝え、困ったときには、医師や薬剤師とつながれることをお伝えします。

また患者さんには、ご自身の気分の状態を、(1)良い、(2)まあまあ、(3)悪いと、自己評価チェックシートに記録してもらいます。そのチェックシートは診察時、先生に提出してもらいますが、「最初は自己評価がアップダウンするかもしれませんが、薬の効果が出て来れば次第に目に見えて良くなってきますよ」とお伝えしています。

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自己評価チェックシートの項目例

第3段階は、夜はしっかり寝て、朝はきちんと起きるという適正な生活リズムが大切、やりたいことの半分を目標に

第3段階として、服薬を開始して約1ヶ月ほど経つと、「調子が良いな」と感じる場合が多く、患者さんは「自分はもう大丈夫だ」と思い込んでしまうこともあります。治療開始前までと、同じパフォーマンスを求めて無理な行動をしてしまう可能性があります。睡眠不足や夜更かし、徹夜は、生活リズムを狂わせますので、特に男性には、「夜はしっかり寝ましょう。朝はきちんと起きましょう」とお話しします。

また、「やりたいことは半分で」と伝えています。症状が改善していても、実際には薬で状態を持ち上げているので、無理すると心身のエネルギーは切れてしまいます。そこで、例えば女性の場合には、「街中にお買い物に行って、本来なら、ショッピングの後に、夜は食事をしたいところと思いますが、ショッピングの後は、2時か3時くらいにカフェに寄って、そのまま帰りの電車に乗るくらいのゆとりを持つことをお勧めします」とお話します。

第4段階からは、再発再燃の防止に向けた指導、「疲れたら休む」という勇気を持ってもらうことが大切

第4段階として、服薬を開始して2ヶ月が経過すると、効果の実感が得られ、通常の生活(復職、復学等)に戻ることを目標に生活します。どうやって状態を維持するかが重要です。日本には四季がありますが、昨今は、猛暑だったり急に冷えたりと、天候の変化も激しいです。春は人の出入りが激しく(人事異動や新生活、新入社員の入社等)、変化が多く感じられます。スギ花粉症をお持ちの方は、鼻炎のストレスもあります。また、秋には、夏の暑さの疲れが、冷え込みによって出やすく、1日の寒暖差によるストレスで、疲れやすい状態になりやすいです。10月になると、多忙になる職業の方も多いです。その変化をうまく乗り越えることが大事です。患者さんには「1年を通じて、症状に変化があっても上手に越えられれば、薬が減らせる一つの目安になるので、これから1年は続けるつもりで、気長に治療を受けましょう」と、指導しています。そして、「疲れたら休む勇気を持ってください」とお伝えしています。

このように最初の段階から、順を追って患者さんを支援することで、薬物治療の継続の支援をしています。当薬局で、新規処方され、調剤する機会の多い抗うつ剤におきまして、2022年1月から2023年3月までに、服薬開始した患者さんの、6ヶ月間の服薬継続率を調べましたところ、38例中29例が継続していましたので、服薬継続率は、76.3%でした。今後、さらに検証をして学会等で発表したいと思っています。

  1. Therapeutic Research Volume 36, Issue 6, 571 - 580 (2015)

    http://www.pieronline.jp/content/article/0289-8020/36060/571

  2. 関西医科大学 “Discontinuation of antidepressants after remission with antidepressant medication in major depressive disorder: A systematic review and meta-analysis.”

    https://www.kmu.ac.jp/news/laaes7000000d5jn-att/20200814KMUPress_Release.pdf