【POINT.2】「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」において、薬局・薬剤師も医療に限らず幅広くつながり顔が見える関係が大事

成井 繁 氏湘南あおぞら薬局 藤沢店

トレーシングレポート、「精神疾患患者のための多職種連携用紙」で共有

私は湘南あおぞら薬局藤沢店が開設された2018年に、管理薬剤師として転職しました。同じビルの上階で同時に開業した精神科クリニックの先生は、精神科薬物療法認定薬剤師のことをご存じなく、当初は半信半疑でした。しかし、薬剤師ならではの聞き取りや、患者が医師に話せなかった情報をお伝えすることで、次第に連携が取れるようになりました。

最近は服薬情報提供書(トレーシングレポート:TR)が使われていますが、当初からTRでの情報共有をしていました。日本精神薬学会では2023年9月に精神科専用の服薬情報提供書フォームを作成しています。私たちもそれに近い内容で情報提供していましたので、医師も貴重な情報と感じ、診療に活用していただいています。

ps_vol10_04
拡大

精神科専用の服薬情報提供書フォーム(日本精神薬学会)

https://www.js-pp.or.jp/tracing-report/

また、薬局から少し距離は離れていますが、精神科病院の藤沢病院と連携を行っています。実は、同院の薬剤課長の先生とは以前から学会を通じて知り合いで、多職種での交流を深めています。藤沢病院は、法人の関連施設として、訪問看護ステーションや介護施設、グループホームなどがあります。また、グループの施設だけでなく、地域の介護施設や福祉施設の担当者と、定期的に勉強会や症例検討会を行う「地域協働会議」が開かれています。私は、講師として招かれ参加する機会がありました。出席した介護や障害福祉の担当の皆様は、とても熱心に聴いていただき、薬局の活用について、積極的にご意見をいただいています。

一方、藤沢市内には精神科疾患の方々の集合住宅、グループホームが、約30施設くらいあります。そのなかで市内のグループホームの管理者の研修会に呼ばれて講演する機会もありました。「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」において、薬局薬剤師を活用して、施設の利用者様(患者さん)の薬剤管理や多職種連携の重要性をお伝えしています。講演をきっかけに、薬剤管理が必要な患者さんをご紹介いただくことが増えてまいりました。

「精神疾患患者さんのための多職種連携用紙」を用いグループホームのスタッフと情報共有

「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」において、左上に「医療」、右上に「介護・障害福祉」、下に「地域」が記載されています。それぞれが連携していくことが理想としています。しかし、医療機関・医師とグループホームとの関係性のなかでは、患者さんも施設スタッフも医師に伝えきれていなかったことがよくあると聞いています。それらの情報を含め、患者さんが医療機関へ受診する前のタイミングで、私たちが、施設のスタッフからいただいた、症状の情報、生活状況の情報を、医療的に必要な情報を選択し、TRでお伝えするようにしています。

ps_vol10_07
拡大

精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築(イメージ)

厚生労働省資料より

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chiikihoukatsu.html

また、スタッフとの情報共有では、「精神疾患患者のための多職種連携用紙」を用いています。スタッフの方々には、副作用、特に錐体外路症状はなかなか気づかない、実際にどう表現してよいか分からないと思います。そのため多職種連携用紙では、単純に「○○の症状はありますか?」「ある/なし」でチェックしてもらっています。

ps_vol10_08
拡大

精神疾患患者のための多職種連携用紙

私たちはスタッフの気付きを参考にし、錐体外路症状と推測される情報があれば、DIEPSS (Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale:薬原性錐体外路症状評価尺度)を用いて評価します。患者さんが苦痛に感じるならば、TRに減量など処方変更の提案をいたします。処方医は、TRの情報をもとに診断していただき、直後に対応してくれることもあります。客観的な評価がTRに記載してあるからこそ、対応してくださるのだと思います。

グループホームでの患者さんの症状や生活状況が改善すると、薬剤師に対する評価も上がります。関わりの少なかったスタッフさんからも「○○さんは、副作用でしょうか?」など、気になっていたことが告げられ、それを他のスタッフとも情報共有するきっかけにもなり、幅広いスタッフとの話しやすい関係性にもつながっています。

医療のなかの薬薬連携、医薬連携だけでなく、障害福祉・介護、就労支援など含めた地域のサポートが、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」のなかで、薬局・薬剤師も、多職種とつながり、顔の見える関係になることが、精神科疾患の患者さんが、街で過ごし、仕事をし、楽しく生活できるベースになるのではないかと思います。