【POINT.1】医師は患者のためになる薬剤師の話を必ず聞く

竹内 尚子 氏湘南医療大学 薬学部 医療薬学科 地域社会薬学/准教授(博士<医学>)薬剤師

得意になれば精神科の苦手意識は払拭される

北里大学東病院が1986年4月に開院するのに伴い、私は北里大学病院から東病院の薬剤部に異動しました。東病院は消化器と神経難病、そして精神疾患を対象とした大学病院でしたが、消化器と神経難病には病棟薬局がありながら、精神疾患には薬剤師が配属されていませんでした。そのため薬剤部の判断で、翌1987年から私が精神神経科病棟の担当となりました。私が本格的に精神科医療に携わることになった端緒です。

当時はまだ、精神科領域に薬剤師が介入することに難色を示す病院は山のようにあった時代ですが、教授のお墨付きがあったこともあって、私が病棟で活動することに誰も反対しませんでした。北里大学病院には積極的に薬剤管理指導業務に取り組むなど、いろんなことにチャレンジしてみればよいという医療スタッフが多かったことも、私自身が経験値を蓄積することにつながりました。

医薬分業が本格化するのは全国の分業率が30%を超えた1998年以降とされますが、同じ頃、精神科クリニックが増え始めました。精神科クリニックの多くは院外処方箋を発行しており、換言すれば薬局薬剤師は日常的に当たり前のように精神科の処方箋を応需しているという現実があります。よく薬局薬剤師は精神科薬物治療に苦手意識があるといわれますが、精神科が「得意」だという薬局薬剤師が少ないだけのことで、精神疾患患者と接していない薬剤師は多分いないでしょう。

ところが多くの薬局薬剤師は、精神科は苦手だとか患者は特別だという言い方をする傾向にあります。私自身は初めて病棟活動を開始した診療科が精神科でしたので、患者が特別なのかどうかは分からないし、特別だと思ったこともありません。自分で先にバリアをつくるから、そのように感じてしまうのだと思います。これは私が所属する日本精神薬学会でもよく聞く話で、皆がそう聞かれ、同じような答えを返しています。精神科医療に「特殊」な側面はあるかもしれませんが、決して「特別」ではありません。

心折れずにチャレンジすることが大切

30年ほど前、精神科病院に従事する医師と薬剤師に病棟活動についてアンケート調査をしたことがあります。薬剤師からはマンパワーの問題もあり、多忙なため病棟活動どころではないというネガティブな回答が多かったのですが、医師は薬剤師による服薬指導を求めていることが分かりました。想定外でした。医師が求めているのに薬剤師にその気がない。これが現実かと驚くと同時に、放っておけないという思いを強くしました。そのことを思うと、ずいぶんと状況は変わってきたといった印象があります。

以前は治療方針や効果判定が医師ごとに違い、薬剤師も患者にどのように対応すればいいのか、よく分からなかったかもしれません。しかも精神科医にとって、「薬」は自分自身にとっての「刀」でした。そこに口出しするなという雰囲気も確かにありましたが、今は違います。ガイドラインに沿って新薬を使い、薬剤師が打ち合わせをしたいといえば躊躇なく応じる医師が圧倒的に増えてきました。

病棟業務が始まったころ、どこの治療領域もそんな感じだったのではないでしょうか。特に内科系なら薬は同じように「武器」だし、薬剤師から指摘されたくないとの意識も医師にあったかもしれません。しかし、精神科医療に限らず、チーム医療が求められる領域では薬剤師もその一員です。医師が皆でやろうと思ってくれたところから、精神科のチーム医療も始まっているのではないでしょうか。

私が在籍した北里大学病院はコミュニケーションが取りやすい環境にありましたが、精神科医療に携わろうとする薬剤師には、心折れずにチャレンジしてほしい、頑張ってほしいと思っています。最初の取っ掛かりで心が折れてしまえば、そこで終わってしまい相手にはされません。継続して、この薬剤師の言うことは聞く価値があると評価されるところまで踏ん張らないと、ただの無駄話には付き合ってくれません。それが患者にとって大切な話だと理解してもらえれば、医師は必ず薬剤師の話を聞いてくれます。