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【POINT.1】薬物治療上の患者の訴え聞き「共同意思決定」(SDM)に参画
神林 志穂 氏クオール薬局福島東店(福島県福島市) / 管理薬剤師
SDMで薬物治療上の問題点探し薬学的視点で解決策提案
クオール薬局福島東店が応需する院外処方箋のおよそ9割が、近隣の精神科・心療内科専門の医療機関からのものです。患者さんは統合失調症の方が最も多く、双極性障害やうつ病のほか、発達障害やアルコール依存症など、さまざまな疾患を抱えた患者さんが来局します。また病院近隣には、関連施設としてデイケアのほか心の病気で休職中の方の復職支援、リワークプログラムを実施するセンターも併設されるなど、当薬局周辺は精神医療関連のサポート機能が充実しています。
今、医療の現場では、患者さんとより連携を強めるコミュニケーションモデルとして、「共同意思決定」(SDM : Shared Decision Making)という概念が推奨されています。これは、患者さんと医師が協力して医療に関する「意思」を決定するという考え方で、具体的には、治療が目指すゴールをどう設定するか、そのためにはどのような治療を行うかなどについて、患者さんと医師が話し合い適切な治療を見つけ出すこととされています。とりわけ統合失調症をはじめとする精神疾患においては、患者さんが納得した上で主体的に治療に取り組むことが重要になってきます。SDMで患者さんは薬や治療方法について納得した意思決定ができることで、良好な治療成績が得られるとともに治療への満足度も向上します。
SDMにおける薬剤師の役割
SDMにおける薬局薬剤師の役割は、患者さんへの薬物治療の説明と評価に加え、薬物治療上の患者さんの訴えや問題点を探し出すことにあります。そうした問題点に対しては、医師をはじめとする多職種チームと情報を共有しながら、薬学的視点に基づく解決策を提案することが大切な役目だと考えています。
精神疾患患者との対話には「沈黙」を活用する
患者さんとの良好なコミュニケーション構築は薬局業務には欠かせない要素ですが、精神疾患を抱えた患者さんとのコミュニケーションでは一歩踏み込んだ対応が薬局薬剤師に求められます。
精神科医である井上真一郎氏の著書「しくじり症例から学ぶ精神科の薬」によると、会話の中で、精神疾患患者さんは、精神疾患でない患者さんと比べると、知識量がとても豊富だと感じる場合が多いそうです。そして「感情」で動いており理屈だけでは納得しないことがあります。薬剤師がほしい情報を集めやすいように聴くのではなく、患者さんが「話したいことを話しやすいように聴く」ことが大切です。患者さんの話をじっくりと聴く「傾聴」、患者さんが言うことを受け入れる「受容」、患者さんが感じていることを自分のこととして感じようとする「共感」――精神疾患患者さんとの信頼関係は、これら三つを基本に形成されるという考え方です。
私が患者さんとのコミュニケーションで意識しているのは、言葉だけではなく、例えば何かに苛立っているようなら、その「背景にある感情」に焦点を当てることです。そして「沈黙」を利用します。患者さんの脳裏に何かよぎったかなと思ったら30秒間は黙る。患者さんが話し始めたら目を合わせ、傾聴の姿勢でそのまま沈黙を守る。服薬指導を行う最初の1分間は患者さんに話してもらう時間として、そんなふうに「沈黙」するようにしています。
また、なかなか話し出さない患者さんには無理強いしないことです。話しづらそうな患者さんには、「はい」「いいえ」で答えられるようなクローズド・クエスチョンを使い分けるなどの工夫をしています。さらには、気掛かりがあるとの前提で、今気掛かりなことはどんなことかと尋ねたりもします。定期的な服用や通院を順守してもらうため、受診・来局された際には「褒める」ことも必要です。さらには、細かなことではありますが、一包化や粉砕といった専門用語は使わないことも対話する上でのポイントになると思っています。
そのように患者さんとの信頼関係が形成された上で、「絶対に自殺しないと約束」をしていただくよう心掛けています。私には、かかりつけの患者さんが自殺されたという苦い経験があります。患者さんの変化に気付き、薬局薬剤師として、もっとできることがあったのではないかと悔やんでいます。患者さんとの信頼関係を深める中で、患者さんが困ったときに顔を思い浮かべていただけるような薬剤師でありたいとの願いが、そんな「約束」につながっています。