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【POINT.2】的確なトレーシングレポートでアドヒアランス低下防ぐ
神林 志穂 氏クオール薬局福島東店(福島県福島市) / 管理薬剤師
「何ができるか」ではなく「何をやるか」の目線で行動を
薬局薬剤師が精神医療の薬物療法に携わる上で大切な役割は、アドヒアランス不良を回避するためのフォローアップ、とりわけトレーシングレポート(TR)による処方医へのフィードバックが重要になってきます。
20代で統合失調症を発症した30代女性の例です。2種類の抗精神病薬が処方されていましたが、3~4カ月で残薬が各30錠あり、手の震えや便秘、口渇の副作用がみられました。アドヒアランスや副作用の状況から1種類を内服薬から剤型変更を提案して処方変更となったところ、TRの4カ月後には症状が安定し、もう1種類の薬剤の処方も中止になりました。剤形変更が副作用と薬剤減量につながり、患者満足度がアップした好例です。
統合失調症の20代女性から服薬指導中に月経不順の相談をもちかけられた事例では、処方されていた非定型抗精神病薬の副作用による高プロラクチン血症が疑われました。高プロラクチン血症は性機能障害の主原因となる可能性がありますが、患者さんは副作用だとは思っていませんでした。また、主訴の幻聴が落ち着いていることから、患者さんは処方変更まで望んでいるわけではないことを伝えた上で、TRでは採血実施等も含め検討をお願いしました。TRの1カ月後、「ブロモクリプチンメシル酸塩錠」が追加され、プロラクチン値の検査も実施されました。TRから2カ月後のテレフォンフォローアップではプロラクチン値が高値になっていることが分かり、非定型抗精神病薬の処方変更となり、さらにTRから3カ月後のテレフォンフォローアップでは症状が安定し、処方の切り替えによる精神症状の悪化もないことが確認されました。
時に薬局薬剤師は、自身が対応した患者さんのアドヒアランスは高いものと錯覚することがあります。服薬指導の際には、アドヒアランスはどうなのか、患者さんが気付いていない副作用が出ていないか、全身を総動員して患者様の訴えに耳を傾けることで、より深い情報を得ることができます。患者さんが言いづらい副作用などはこちらから投げかけてみる。そうした積極的な介入で多くの情報が得られ、良好なコミュニケーションが形成されます。そして処方医には、患者さん一人ひとりの異なる薬物療法に対する希望や意向も含め、情報をフィードバックする。それによって患者さんの治療への満足度はアップし、QOL向上にもつながるのではないでしょうか。薬局薬剤師には「何ができるか」ではなく、「何をやるか」という目線を意識して行動することが大切です。
薬局薬剤師にとって患者さんはたくさんのうちの一人でも、患者様からみれば唯一の頼れる薬剤師かもしれません。その唯一の薬剤師が患者様と強固な信頼関係を形成することで、患者さんは自身の体調や副作用なども伝えてくれるはずです。薬局薬剤師は医療機関を訪れた患者さんが最後に出会う医療従事者です。そこでのかかわりの中で、患者さんはどうなりたいのか、どうしたいのかを一緒に考えられるような存在になりたいと思っています。それが結果として、薬物療法の最適化や質の高い医療につながると信じています。
薬局薬剤師として精神疾患へのスティグマを減らす
私がクオール薬局福島東店に勤務したのは東日本大震災の2カ月後でした。すでに震災から13年が経過しましたが、今も避難し、苦しみ悩んでおられる患者さんがいます。そうした患者さんも含め、少しでも気持ちが軽くなるように、一人ひとりの近くにいるという安心感を感じてもらえれば、という思いが、精神医療にかかわる一つのきっかけでもありました。
残念ながら薬局薬剤師にはまだ、精神科の患者さんに対する偏見や苦手意識があると感じています。私は精神疾患に携わる医療人として、そうした精神疾患へのスティグマを少しでも減らしていきたいと考え、福島市を中心に仲間を増やすための勉強会などを開催しています。また、薬学生にも精神科や精神疾患患者に苦手意識があると聞いています。実務実習などを通じて、正しい情報を発信していきたい。さらには、患者さんを支える地域の皆さんの中にも、精神科領域がよく分からないとの声があります。正しい知識を患者さんだけでなく、そうした地域の人たちに伝える仲間を増やしていきたいと思っています。