- トップ >
- 学び >
- 薬剤師の介入 INTERVENTION >
- 精神疾患への薬剤師の介入 >
- Vol.8 指導者の立場から(4)薬学部学生に「精神医療実習」を提供、精神科に対する偏見を解消 >
- 【POINT.1】単科精神科病院で実習できる昭和大学独自の取り組み
【POINT.1】単科精神科病院で実習できる昭和大学独自の取り組み
黒沢 雅広 氏昭和大学附属烏山病院/薬局長
精神科専門薬剤師3人が学生を指導
昭和大学附属烏山病院(以下、当院)は、大学附属病院としては珍しい単科精神科病院です。精神科病床296床、一般病床44床あり、総病床数は340床です。常勤職員数は精神科医師が48人のほか看護師159人、薬剤師が9人です。1日平均患者数(2019年度)は外来251.6人、入院257.1人、平均在院日数は114.8日(2018年度)でした。また、外来患者に対する院内調剤が1日平均75枚あるのも、当院の特徴と言えます。外来院内調剤を行うことで、入院中の患者さんとの係わりを退院以降にも継続することが可能です。
本学は、医学部・歯学部・薬学部・保健医療学部の4学部を持つ医系総合大学です。医学部・歯学部・保健医療学部は当院で実務実習を行っているのですが、薬学部の学生はごく一部の希望者のみが行い、全員が実務実習を受ける体制にはなっていませんでした。
精神神経疾患は、改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムの中で、実務実習において継続的に広く関わる必要のある疾患として、がん・高血圧症などと並び「代表的8疾患」に指定されています。また、2013年度からの第6次医療計画においては「精神疾患」が新たに追加され、その後、「5疾患5事業」として精神医療の連携体制が構築されてきました。精神医療を取り巻く環境が、このように大きく変わりつつあるにもかかわらず、薬学部の全学生に実務実習が提供されてこなかった。これでは、精神医療に対する正しい知識と理解を深めるための薬学教育として、とても十分とは言えません。
実際に、2009年に行われた「統合失調症患者への服薬指導に対する薬学生の意識調査」(日本社会精神医学雑誌)では、精神疾患や精神科医療に対する薬学生のマイナスイメージや誤解の多いことが報告されています。そのため本学では、実務実習の追加項目として全学生を対象に、精神科臨床の実務経験者による「精神医療実習」をスタートさせることにしました。こうした精神医療に関わる実務実習を行っているのは、全国の大学薬学部のなかでも本学だけです。
言うまでもなく、薬学部での病院・薬局の実習期間は22週間です。各施設11週間を原則としますが、22週間を下回らないことを前提に、大学が主導した上で病院・薬局と連携し、更に学習効果の高い方略や期間等を検討し、実習を行うことが可能となっています。また、病院実習1は調剤業務を中心に行われる一方、病院実習2は主に病棟業務を学びます。そのため、本学独自の精神医療実習は病院実習2に組み込むことにして、私を含む精神科専門薬剤師3人が指導する体制を整えました。
2020年1月、いざ実習を始めた途端に新型コロナ感染症が拡大し、2月には中断せざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。そこで、対面ではないもののオンラインで使用する教材を作成し、コロナ禍でも実習に近い体験ができるようにしました。私の考える精神科医療のイロハを整理し、学生はそれをオンラインで受講し、レポートを書いてもらうことで「オンライン実習」としました。
法律を教えることで「怖い」イメージを払拭
2023年の実習は、4年生の1月に始まりました。8~12人の学生を1グループとして、3月22日現在、全20グループのうち8グループが終了しました。烏山病院での実習期間は1週間、つまり実質5日間なのですが、月・金曜日は「臨床研究入門」の演習に充てているため、精神医療実習(臨地実習)は火・水・木曜日の3日間で行っています。当院には、治験ベッドがありますので、学生に治験のことも学んでもらおうと、臨床研究入門として科目が設定されました。治験実施計画書の用語を勉強するほか治験センターの視察、実際の治験実施計画書の読解、同意説明文の作成・説明することなどを学んでもらっています。
一方、残る3日間で行う精神医療実習(臨地実習)は、精神医療を正しく理解してもらうことが最大の狙いです。この3日間で、「精神科は怖い」と思っている学生の誤ったイメージ・印象を、正しい知識に戻すことが私たち教員の役割です。
初日の火曜日は、まず精神科のことを座学で学んでもらいます。内容は①精神科医療を知る、②精神科リハビリテーション、③電気けいれん療法、④精神科薬剤師業務、の4つで構成されています。
①の「精神科医療を知る」には、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」などの法律関係、あるいは時代背景によって変遷してきた結果として、現在の精神医療があることを理解してもらっています。また、隔離・身体拘束もただ漫然と行われているのではなく、精神保健指定医が法律に基づいて行っている処遇であることを、しっかり教えています。そうすると学生は「ああ、そうだったのか」と理解し、それまで精神科に持っていた「怖い」という印象が変わるようになります。