- トップ >
- 学び >
- 薬剤師の介入 INTERVENTION >
- 精神疾患への薬剤師の介入 >
- Vol.8 指導者の立場から(4)薬学部学生に「精神医療実習」を提供、精神科に対する偏見を解消 >
- 【POINT.2】実習後には9割超の学生が精神科病院への就職も選択肢に
【POINT.2】実習後には9割超の学生が精神科病院への就職も選択肢に
黒沢 雅広 氏昭和大学附属烏山病院/薬局長
精神医療は薬物療法だけでないことを教える
2日目以降は、初日に座学で学んだことを実際に体験してもらっています。水曜日は、病棟に上がり副作用やアドヒアランス評価を通じて、実際に統合失調症の患者さんとコミュニケーションを取ってもらっています。ここで面談する患者さんは状態の良い方々ばかりです。ただし、カルテを読むことで過去に遡ってもらいます。そうすると、以前は今のように状態が良くなかったことが理解できます。治療効果を実感してもらうことで、精神医療のイメージを変えるように配慮しています。
3日目には、電気けいれん療法を見学します。精神医療は薬物療法だけと思っている学生が少なくありませんので、そうではないことを知ってもらっています。また、この日は精神科薬剤師の第一人者・前東邦大学薬学部教授・吉尾隆先生に、「精神科医療と薬剤師業務」と題した講義を行っていただいています。
更に、バーチャル機器で精神症状の体験もしてもらっています。今は「セデーション」、即ち抗精神病薬の服用により生じる過鎮静の状態や、統合失調症の急性期に見られる幻聴・幻覚症状「ハルシネーション」を疑似体験してもらい、幻聴・幻覚の辛さを理解してもらっています。

ECT見学

バーチャル幻覚体験
統合失調症の患者さんの中には独り言を話している方がおられますが、幻聴と話していることを理解すると、「幻聴のために辛い思いをしているのだな」という見方に変わります。更に、身体拘束体験も行い、ベッドに拘束された患者さんの思いを共感できるようにしています。最近、新しく導入したのがデポ剤(持効性注射剤)の調製と注射です。懸濁する手技を経験してもらい、臀部のどの位置・深さに打つかも疑似体験してもらっています。
学生は入院患者とのコミュニケーションに最も興味
5日間の精神医療実習を終えた段階で、学生にアンケートを取っています。例えば、今年1・2月に実習を行った51人を対象に行ったアンケートの結果をご紹介します。
実習の内容で興味が持てた上位3位の内容を尋ねたところ、入院患者と直にコミュニケーションを取ったDAI-10 評価に対し、86.3%の学生が興味を持てたと回答しました。次いで外来診療見学76.5%、電気けいれん療法見学66.7%でした。
一方、精神医療実習で他に体験・見学したかったことを尋ねると、「病棟薬剤師が実際に服薬指導している姿を見たかった」という声が多く聞かれました。それは、今後の課題と受け止めています。冒頭に申し上げたように、当院は外来院内調剤数が多いため、病棟業務に十分に時間を割くことができないという事情があります。従って、今後は外来院内調剤をと病棟業務のバランスを見直して、薬剤師業務を充実させたいと考えています。
また、精神医療実習を行った前後で心境の変化を訊いたところ、96.1%が「印象が良くなり、興味を持つようになった」と答えています。更に、精神科病院への就職についても、66.7%が「選択肢の一つになった」と回答したほか、25.5%が「他になければ選択もあり得る」と答え、両者を合わせると90%を超えています。即ち、「怖い」というイメージや偏った見方をされていた精神科の印象を、精神医療実習を行うことで変えられたのではないかと私は理解しています。
今後は、地域の薬局との連携を進め、薬局薬剤師を対象にした研修も検討していきたいと考えています。精神医療実習のエッセンスを集約し、薬局薬剤師に精神医療の真の姿を理解してもらえるような取り組みに繋げていきたいと思っています。