【POINT.1】オープンクエスチョンとYes/Noのクローズド・クエスチョンを使い分け生活背景を導き出す

前原 雅樹 氏杉山薬局 小郡店

社長の理解と指導・支援などを受けて認定、専門薬剤師を取得

私は大学を卒業してすぐに杉山薬局に就職し、山口県萩市の店舗に配属されました。内科から精神科まで幅広い診療科の患者さんが来る店舗で、薬物相互作用や服薬指導などの修行・勉強させていただきました。2015年に精神科メインの小郡店に異動となり、精神科薬物療法のスペシャリストになろうと決意し、2018年に日本病院薬剤師会の精神科薬物療法認定薬剤師を取得しました。

その後、更に学会の専門薬剤師を目指しましたが、学会発表や学術論文の作成が不可欠であるため簡単ではありませんでした。薬局薬剤師がいきなり研究し、論文化することはかなりハードルが高いことです。しかし、杉山社長が、症例報告の書き方や研究、論文作成について丁寧に指導して下さいました。

また、認定に向けた勉強や症例報告作成については業務で空いた時間を活用しましたが、これも杉山薬局で共に働く薬剤師の先生方の理解や励ましがあったからです。そして幸運にも精神科専門薬剤師の取得に至りました。とにかく環境に恵まれていたといえます。

患者さんとのコミュニケーションは学んだことを現場で生かし、信頼関係を築くこと

専門薬剤師になった目的のひとつには、患者さんとのコミュニケーションと薬物療法の充実です。そのためには、後述しますが、勉強したことをいかに臨床現場とリンクさせるかが重要です。例えば、ムスカリン受容体遮断作用を有する薬剤では「口渇、便秘、認知機能低下など」、ヒスタミン受容体(H1)遮断作用では「傾眠、過食、体重増加など」、アドレナリン受容体(α1)遮断作用では「低血圧、鎮静、立ちくらみなど」―といった抗精神病薬の有害事象に関与する受容体プロファイル(特徴)について学んだ場合、これらの症状を必ず服薬指導時にインタビューして確認するようにします。また、学んだ薬物動態学的・薬力学的な相互作用についても、特に注意しながらモニタリングを行っています。

一方、患者さんからの質問や相談がきっかけとなり、文献などで情報を収集することが、新たな知識の習得(答え)につながることもあります。つまり、患者さんが何でも相談できるように信頼関係を築くことも、専門性の向上につながると思います。

処方医とのコミュニケーションは基本的に文書化して、確実に情報共有

門前の病院の処方医への情報提供は主に看護師さんや病院の薬剤部を介して行っています。また処方医から直接問い合わせの電話もあります。薬局からの主な情報提供は、患者さんの副作用、飲み忘れ、残薬調整などのほか、患者さんの希望による剤形変更等もあります。急ぎである場合は、直ちに電話連絡しますが、そうでない場合は、言い間違いなどを避けるため、トレーシングレポート(TR)で文書化しています。また、いまは医薬品の出荷調整・停止が多くありますので、定期的に薬局から在庫状況などの情報を文書化して処方医に提供しています。

特に薬の副作用を発見した場合、電話やTRを用いてできる限り早期に行っています。副作用がなく、安心して薬物療法を継続できることが重要なポイントなので、情報提供時には薬の減量や変更などの対応策も必ずコメントするようにしています。

初めて来局する患者さんへの服薬指導は時間を長めに取って対応

入院していた患者さんの退院後は、基本的に当薬局に来局されるので、退院後の初の来局時にはお薬手帳とご本人との話を含め、基本的な患者情報を詳細に確認しています。患者さんとの会話の中で、持続性注射薬を使用している可能性がある場合などは、念のため、処方先の病院の薬剤部に問い合わせをしています。

基本的に、退院後や新患など初めて来局された時の服薬指導は長めに時間をとって、よくお聞きする様にしています。

服薬指導時の患者さん個々の対応は様々です。例えば、話してくれそうな患者さんは雰囲気で分かりますし、声を出してくれる患者さんはコミュニケーションがとりやすいです。ご自身のことを話したがっていれば、「体調はどうですか?」などオープン・クエスチョンでお聞きします。患者さんによっては自分から入院に至る経緯や症状(幻聴・幻覚など)について話してくれます。

しかし、なかには「○○という薬が出てますけど・・・」などと聞いても頷くだけで、話したがらない患者さんもいらっしゃいます。その場合、Yes/ Noのクローズド・クエスチョンを用います。病気のことを話してもらうにはハードルが高いので、まずは、お薬に関する話や生活習慣の話などを中心にクローズド・クエスチョンで聞き、少しずつ症状を確認します。

このように、患者さんの個々のキャラクターによって質問を変える必要があり、表情を見ながら質問は選ぶようにしています。実は、患者さんにとってもYes/Noであれば返答が楽なので、例えば「眠れないことはありますか?」などと聞いて、「Yes」であれば、「眠りに入るのに時間がかかりますか?」と質問し、具体的に少しずつ少しずつ深堀していく方法がおすすめです。

薬については、薬効発現機序、服薬意義、用法用量、服用期間、副作用などの基本的なことはもちろんですが、生活習慣、嗜好品、食品が関係している薬物相互作用(喫煙[CYP1A2誘導]や飲酒[中枢神経抑制、CYP2E1誘導]、カフェイン[中枢神経興奮]など)や、消化管吸収が食事の影響を受ける薬剤などについては、初回の服薬指導時にその機序(理由)まで、詳しく説明することを心掛けています。

服薬指導時の最後は、「何か分からないこと、気になることはありませんか?」という形でクロージングしています。