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【POINT.2】資格取得で得た知識やエビデンスを生かして的確に対応・薬学的介入へ
前原 雅樹 氏杉山薬局 小郡店
有害事象では特に悪性症候群を念頭に錐体外路症状を丁寧にチェックする
振り返ると精神科薬物療法を中心とした業務に携わるまでは精神科の病識や薬識が不十分であったと思います。講習会等に参加して、医師や他の薬剤師の先生方の考え方を教わることや、実臨床での経験を積むことなどで、少しずつ磨かれてきたと感じています。
しかしながら、勉学には終わりはなく、ガイドラインや最新の論文を読むことなど新たな情報のアップデートも欠かせません。これらの学んだエビデンスを基に服薬指導を行い、薬学的な介入をすることが重要です。実例をいくつか紹介いたします。
非常にまれですが、患者さんから相談を受けるケースにセンシティブな有害事象である性機能障害があります。ある日の午後、男性の患者さんが来局された際に、性欲が無く、勃起不全と射精障害があると訴えられました。処方内容を見ると抗精神病薬による性機能障害の可能性が疑われました。そこで処方医にTRによる処方変更提案を行った結果、被疑薬が徐々に中止となり、よりリスクの少ない薬剤へと処方が変更となりました。その後、患者さんは次第に性欲も出てきて、射精障害も改善されました。
その他では、抗精神病薬による錐体外路症状があらわれた患者さんがいました。ある休日前の夜9時頃に薬局から転送電話が入り、患者さんから「体が動かない」「飲み込みが悪い」との訴えがありました。患者さんは諸事情により病院に行けないため、私から病院の担当医に連絡し、被疑薬やその発現機序などについて説明しました。その結果、一旦薬を中止し、休み明けに受診することになりました。服薬の中止で、症状は改善され、幸い事なきを得た事例です。
私が錐体外路症状で注意している点は、放置しておくと悪性症候群につながる恐れがあることです。ですから、錐体外路症状を丁寧にチェックしています。特に体の強ばりや発熱を伴うケースには注意が必要です。また、抗精神病薬が新規・追加された時や抗コリン薬が急に減量される場合には、発症を助長する可能性があり、状況に応じて、服薬指導の時に悪性症候群の症状などについて説明することもあります。
その他、有害事象の発現では、薬物動態学的な観点からも被疑薬を推測し、いかに早く発見して対処するかがポイントになります。特に向精神薬の相互作用に注意で必要な発現機序は、CYPの強力な阻害薬に加え、CYPで代謝される薬剤(CYP1A2、CYP2D6、CYP3A4など)が多くあります。実際、有害事象の発現時に相互作用が関与していることは少なくありません。
また、精神科の薬では過食や体重増加などの副作用が多くみられるため、アドヒアランスの低下につながる恐れもあります。実際、当薬局で実施したアンケート調査では、体重増加がもっとも多かった有害事象でした。薬学的介入としては、被疑薬の減量や体重増加が起きにくい薬剤への変更をTRで提案しています。その結果、過食や体重増加が抑えられた事例はよくあります。
睡眠や薬剤誘発性の性機能障害への介入、薬局薬剤師に向けた情報発信が、次に挑戦したいテーマ

薬局は基本的に患者さんに満足してもらうことが第一ですが、薬局薬剤師がどのような薬学的介入をしたら、どういう効果(アウトカム)が得られるのかを明らかにすることは、薬剤師の介入に関するエビデンスの構築、さらには薬剤師の存在価値の向上につながると思っています。
そこで現在は、患者のアドヒアランス不良に薬学的介入を実施した際の影響について研究をしています。例えば患者さんに残薬があるか否か聞き、残薬がある場合の理由も聞く。その理由として、「つい飲み忘れてしまった」など意図的でない飲み忘れによる残薬と「○○を飲むと眠くなるから飲まない」など、意図的に飲まないことによる残薬なのかを確認した後、薬学的介入を行っています。その結果、患者の残薬状況や服薬態度がどのように変化するかについてデータをとっています。
また、新たに挑戦したい研究テーマは、睡眠と性機能障害に対する薬剤師の介入です。睡眠の質と量、位相(リズム)を評価する3DSS(3次元型睡眠尺度)チェックシートを用いると、例えば、ある患者さんの睡眠は、量は足りているが、質が悪いなど分かります。もし、位相が悪ければ、「朝できる限り朝日をしっかり浴びましょう。休日も平日と同じように起床しましょう」などと指導し、これが習慣づくと位相が改善するケースもあります。このように、薬剤師による睡眠衛生指導への介入は睡眠の改善に十分貢献できると感じています。また、このような介入はベンゾジアゼピン系薬剤の減量時のサポートなど多くの場面でも活躍できるかもしれません。
一方、性機能障害については、当薬局で実施したアンケート調査から、抗精神病薬を服用している患者さんの約3割に性機能障害が認められました。通常の服薬指導では、患者さんが積極的に性機能障害を訴えられることはほとんどありません。つまり、会話ではなくアンケート用紙を用いた副作用のチェックはセンシティブな有害事象の発見につながるかもしれません。今後、アンケート調査票などを利用した性機能障害のスクリーニングや薬学的介入に関する研究ができれば考えています。
最後になりますが、残念なことに薬局薬剤師において、精神科の患者さんや精神科薬物療法に対する偏見や苦手意識が未だあることが報告されています。薬局薬剤師に実際の現場の事例や患者の対応、薬物療法のポイントなど情報発信し、少しでも地域の薬局における精神科薬物療法の発展に貢献していきたいと思っています。