三谷 徳昭氏一般社団法人 ミライ在宅委員会/委員長


日本の高齢者医療は、皆保険制度・介護保険制度の充実、病院へのフリーアクセス等により世界に誇れる医療です。しかし、在宅医療の現場はどうでしょうか?通常、患者さんは、在宅医療を受ける前は地域の診療科を複数受診し、専門医がそれぞれの疾患に対し質の良い医療を提供しています。

けれども、在宅医療では、在宅医が1人で全ての診療を引き受ける事となり、医師への負担は非常に大きくなります。まるで、僻地医療に携わる医師のようにジェネラルな視点が求められ、必要となる知識は大幅に増えるわけです。

在宅医療の患者さんは年々増え続け、高齢者の疾患は複雑化し、多疾病併存(Multimorbidity:マルモ) の患者さんも多くいます。一方、在宅医は不足しており、1人の専門医で多疾病併存の患者を何人も担当することもまれではなく、よりスピーデイーに質の良い医療を提供しなければならず困難を極めます。

そんな状況を解決できるのが、「薬剤師の存在」です。

薬剤師は良い意味で専門性がなく、広く薬物治療を知るジェネラリストでもあります。どんな薬の知識でも身につけている事が強みでもあります。そんな薬物治療辞典のような医療職がそばにいれば通常診察の強い味方となりえるのです。

全国各地で、施設往診に薬剤師が同行する往診同行が行われています。医師の苦手とする分野、不安な薬物治療のサポート、多剤併用の患者の相互作用の確認など、薬剤師が多くの処方提案を行い活躍しています。

もちろん、同行する薬剤師の技量や知識により医師への貢献度は様々ですが、薬剤師の活躍により、在宅医療を標準治療に近づける事が可能ではないかと考えています。特に活躍できる領域は、精神科(認知症・不眠・BPSD関連)、皮膚科(掻痒・感染・褥瘡)、排泄(便秘・頻尿)などが考えられます。間違いなく在宅領域で訪れるトラブル領域であり、匠でなければいたずらに薬が増えていく分野でもあります。非薬物治療を含め、適切な医療を提供する事が無駄に薬を増やさないコツでもあります。

医師と薬剤師がタッグを組んで共同薬物治療を行っていく事で、在宅医療の脆弱性を打破できるのです。そのためには、薬剤師が病態生理を理解し、薬物治療の選択知識やガイドラインを熟知して「医師に処方提案できる薬剤師になる」事が求められています。

在宅医療における薬剤師への大きな期待は、薬剤師のやりがいにもつながるのではないでしょうか。在宅医療に、処方提案をするジェネラリスト薬剤師が標準化されるのも、近い将来なのかもしれません。