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【第2回】見直すべきは心の中に
三谷 徳昭氏一般社団法人 ミライ在宅委員会/委員長
予防医療の薬を見直す場合、エビデンスやガイドラインの理解が必要です。しかし多くの場合、ガイドラインには「始め方」は書いてありますが「終わり方」は書いていません。
では、どうすれば良いでしょうか?
一つの方法としては「一次予防と二次予防」で分ける考え方があります。まず、一次予防で服用しリスクが少ない患者さんから薬を減らしていきます。
例えば、骨折を予防するために服用している骨粗鬆症の治療薬を見直す場合を考えてみましょう。
骨折のリスク因子としては既存骨折・ステロイド内服(7.5㎎/日以上)・低骨密度・骨折家族歴・易転倒などがあります。これらのリスク因子を持たず、日中車いすやベッド上で生活をされていて活動性が低い方は転倒や転落の可能性が低く、内服中止等による不安感は少ないと推測されます。けれども高齢女性で1人暮らし、2階建て、杖歩行、先月一度転倒した、そんなエピソードがあれば一次予防でも減らす危険性が伴います。
このように、処方せんだけでは判断できない患者の周辺環境などを含むリスク因子を考える事が、処方見直しを行う際には必要となります。
予防医療の薬の見直しは、医師の経験・知識・判断により左右されますが、エビデンスや論文などの理論だけでなく患者中心のリスク因子を把握し処方提案に記載すると良いでしょう。
対症療法の薬を見直す場合に障壁となるのは、症状が安定している現状が①薬が効いている②症状が消失しているのどちらか誰にも分らない、という点です。患者側も「症状が安定しているから飲み続けたい」と思うし、医療者側も「安定しているならそのままで」となり見直しが進まなくなります。
ではどうすれば良いのでしょうか?
私はいつも二つの提案をしています。“減量休薬”あるいは“頓用”の提案です。「長期間症状が安定しているので一度減量あるいは休薬してみるのはいかがでしょうか?」「一度中止し、症状が出現したら頓用で使用するのはどうでしょうか?」と患者や医師に問いかけてみるのです。
例えば、鎮痛薬を見直す場合を考えてみましょう。
高齢者の場合、腰痛や関節痛などで服用している事が多いですが、痛みへの恐怖心から連日服用を止められない場合もあります。しかし、鎮痛薬の胃腸障害や腎機能障害の有害事象も高齢者には頻度が高く、できれば中止したい医薬品の1つです。
まずは、服用時点の減少(分3→分1)、そして用量の減量(2錠→1錠)、次に頓用または外用薬の頓用使用と段階的な漸減的見直しが効果的です。予防医療の医薬品と違い対症療法の医薬品の見直しの結果は、明らかに早急に判明します。そして、一度失敗すると、その後の見直しも困難になります。1日1回でも服用して、24時間効いているというプラセボ的効果も期待しながら、少しずつ着実に緩やかに減量していくと良いでしょう。
最後に、もっとも見直しに効果的な方法を話そうと思います。
それは、患者と医療者のヘルスリテラシーの向上です。現状、日本の場合、医療者のヘルスリテラシーが高く、患者が低い場合が多いです。医薬品の真の効果、選択、治療期間が患者にどの程度の利益をもたらすのか?あるいは、もたらさないのか?曖昧な医療が行われていないか?など、医療者が持つ知識を患者や他の医療者にわかりやすく伝えていく事で、処方見直しは劇的に楽になります。それが薬剤師の役割の1つでもあるのです。
何もわからず食事をするよりも、どんな人がどんな食材で、どんな調理方法で作り、今まで評判を得ているか?そんな事を知ると料理は格別に美味しくなります。薬物治療も同じで、メリットとデメリットの詳しい説明が相互の理解を深め、信頼関係を築き満足度の高い治療が選択できると考えています。
お互いが納得したうえで医療を継続・見直していくという事が、今後の日本のフリーアクセス・国民皆保険制度を持続可能にするためには必要なのではないでしょうか?
その人にあったオンリーワンのメニューを提供するため、常に医療知識も見直していきたいものです。