【第3回】処方提案は結論と情熱

三谷 徳昭氏一般社団法人 ミライ在宅委員会/委員長


処方提案を考える時間がない。トレーシングレポートを作成する時間がない。日常業務が忙しすぎてそれどころではない。これは、日本の医療業界全体で起こっている問題で、何も我々薬剤師だけが時間不足に悩まされているわけではありません。医師も同じで、とにかく多忙であるためタスクシフトできる仕事は多職種に振り分け、ICTやDXなどを利用し、簡略化して患者の診察・治療時間を捻出しているわけです。

そんな相手に、長い時間の問い合わせや長文のトレーシングレポートが果たして効果的でしょうか?出来るだけ簡略化しわかりやすく、重要な点が伝わるように提案はしなければなりません。TVやSNSの10∼15秒の広告のように短時間で効果的にするべきです。

処方提案を対面・口頭で行う場合を考えてみましょう。

  1. 「先生、Aさんは1年以上抗アレルギー薬を継続中ですが休薬はどうでしょうか?」

    ―内服状況と提案をまず伝えます。

  2. 「現在かゆみなどのアレルギー症状は見られません。」

    ―現状把握と中止できると考えた理由を伝えます。

  3. 「本人も一度止めてみたいと話しています」

    ―患者本人の同意は必須です。

これで15秒程度でしょうか。合格点な気がしますが、今回の一番重要な点は、患者さんが「アレルギーの薬を止めてみたい」と考えているという事です。症状が安定していて、必要ないのでは?と考えている。対症療法の薬は、本人の訴えにより開始になる事が多い。つまり、“本人がやめる事を希望している”という事実が処方を見直す時の最重要因子です。

そうなると全てを集約して「先生、Aさんが抗アレルギー薬を止めたいということですが、一時休薬はどうでしょうか?」の一文で良いと思います。

書面や文書の場合、私は提案内容を最初に記載するようにしています。

  1. ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬10㎎→5㎎ 1錠 分1 朝食後

    ―処方提案の内容を始めに記載する。用法・用量なども具体的に。

  2. 最近1~2か月、血圧の平均値が低くなってきています(BP100~90/70~60)

    ―血圧の低下の事実。点ではなく経過を記載しましょう。

  3. めまい・立ちくらみなどの症状が頻度は少ない(週1回)ですが見られます。血圧の薬の減量を考えてみたのですがいかがでしょうか?

    ―血圧低下による症状の有無と提案の姿勢。

(1)の提案の前に、「低血圧症状の出現と血圧数値について」と題名をつけてみるのも効果的だと思います。一目見て、何のためのレポートなのかわかりやすくなり読んでもらえるようになるでしょう。

対面でも文書でも、治療に介入するには不安が伴います。薬剤師が口を出して良いものなのか?伝えている理由や事実は提案の根拠となるのか?強力なエビデンスがあったとしても目の前の患者さんに何が起きるかは誰にもわかりません。

でも、1つだけ確実なものがあります。それは、患者さんに良い治療をしたいという情熱があるという事です。提案・会話を経て、今よりも良い治療の選択肢を提示する。それが、成功しようとも失敗しようとも私たちの情熱は確かに伝わっているはずです。何も行動せず、危険があったとしても黙認することが最大の失敗です。沈黙こそ罪だと私は思います。

では、情熱の熱量を保つにはどうすれば良いか?一番効果的なのは、燃やし続ける事です。常に処方提案を考え、患者と会話しトレーシングレポートを送る。医師と目線を変え、患者さんを観察する。医療職と疾患についてディスカッションする。患者さんの為に、熱い日々を送れるよう行動し続けていきましょう。