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【第2回】調剤情報共有システムと地域フォーミュラリ、その運用と評価
島貫 隆夫氏地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 理事長
2018年11月から山形県酒田地区では、期せずして地域フォーミュラリと調剤情報共有システムが同時にスタートした。導入の目的は別々であったがこの二つの組み合わせが、後に多くのアウトカムを導き出すことになり、また電子処方箋推進の動機となった。
1)地域フォーミュラリの運用
わが国では人口減少が進行する中、国民医療費が今後益々増加すると予測され、限られた医療財源の効率的な活用が求められている。地域フォーミュラリとは、最新のエビデンスや知見に基づいて有効性、安全性、経済性を踏まえて、地域の薬剤師や医師等で協議して作成し、さらに継続的にアップデートされるべき医薬品の推奨薬リストである。その際、地域で合意した決め事であるという前提が重要である。標準的な薬物治療の推進、医療の質の向上、安全な医療提供に必要不可欠であり、今後は全国に普及することが期待されている。
山形県酒田地区では地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」が主体となり、2018年11月から運用を開始した。当初、確立した方法はなく、皆で議論を重ねながら策定・運用してきた。実際の作成では地区薬剤師会薬剤師の貢献が大きかった。2023年現在、推奨薬カテゴリー分類では「推奨薬」と「オプション」にわけ、経済的な観点から、推奨薬は後発品/BS に限定し、その一方、オプションでは原則後発品/BSとし、必要に応じて先発品を採用している。2023年現在策定されている品目は12種類であり、定期的な更新を行っている。
2)調剤情報共有システムの導入
医療・介護の現場では薬剤に関して様々な課題を抱えている。常用薬把握、重複・併用禁忌薬剤の検知、服薬指導強化、ポリファーマシーの解消などを目的に、当地区で調剤情報共有システムを導入した。地区の59薬局のうち47薬局(80%)が参加した。薬局のレセコンPCから出力されたNSIPSデータを調剤情報クラウドに送信し、重複や併用禁忌チェックに役立てている。
一方、このシステムはデータ2次利用という観点で大きな威力を発揮することになった。同意の取れた約1万人の患者データを解析すると、重複投与の件数が年間4万件以上、併用禁忌も1,000件以上あることが判明した(図1)。今後は、地域で電子処方箋の導入が進めば、重複防止や併用禁忌がリアルタイムで検知され医療安全に大きく貢献するものと期待される。

図1 調剤情報共有システム(山形県酒田地区)における重複・併用禁忌の発生頻度
地域フォーミュラリ導入前後のアウトカム評価にも大きく貢献した。年間薬剤費用を比較したところ、9品目、47薬局において年間1億2,806万円の削減効果があり、北庄内(人口14万人)では年間2億円の削減効果と推計された。これを人口比率で全国規模として単純試算すると、年間約2,500億円の削減効果と推測される。4年間にわたる運用の結果、患者や保険者の負担軽減に貢献し、医療費の大きな節約効果が明らかとなった。