【第1回】わが国の災害医療提供体制

江川 孝氏福岡大学薬学部 救急・災害医療薬学研究室 教授


災害とはどの様な状態でしょうか?異常な自然現象や大規模な事故によって外部から多くの支援が必要な状態を災害といいます。

わが国では、今後30年間で70%の確率で発生する大規模災害として、活断層型の首都直下地震及び海溝型の南海トラフ地震が注目されています。首都直下地震の被害想定は、全壊家屋610,000棟、死者23,000人に上り、南海トラフ地震では、全壊家屋2,380,000棟、死者323,000人と推測されています。

このような大規模災害に対応するために、わが国の災害医療提供体制が、災害対策基本法(昭和36年11月15日法律第223号)と災害救助法(昭和22年10月18日法律第118号)で定められています。

災害対策基本法は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的としています。つまり、防災に関して体制を確立して責任の所在を明らかにするとともに防災計画を作成することを定めているのです。

その体系は、政府の防災対策に関する基本的な計画であり、防災分野の最上位計画である防災基本計画を基盤として指定行政機関の長及び指定公共機関が、防災基本計画に基づき、その所掌事務に関して作成する防災業務計画と各地方自治体の長が、それぞれの防災会議に諮り、防災のために処理すべき業務などを具体的に定めた計画である地域防災計画から成ります。

地域防災計画は、都道府県のホームページから閲覧が可能ですので、災害対応に備えて自分の地域の地域防災計画について知っておくことは大事です。

一方、災害救助法では、救助に要する費用(救助の事務を行うのに必要な費用を含む)は、救助の行われた地の都道府県が、これを支弁すると定められています。災害救助法の元での救助は、①平等の原則、②必要即応の原則、③現物支給の原則、④現在地救助の原則、⑤職権救助の原則の5つの原則で行われます(表1)。

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表1 災害救助法の5つの原則

内閣府 災害救助法の概要より抜粋※1

また、被災地であっても通常の保険診療等による医療が行われている場合には、法による医療を実施する必要はないとされています。災害救助法適用地域における医療の実施は、災害により医療の途を失った者に対してあくまでも応急的な処置が行われ、その救助期間は、災害発生の日から14日以内(特別基準の設定が可能)と定められています。大規模災害にて支援に関わる場合は、これらの法体制を理解した上で救援活動に臨むことが大事です。