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【第1回】「口腔ケア大阪宣言」で薬剤師の口腔ケアへの参画の重要性が示される
山浦 克典氏慶應義塾大学薬学部 医療薬学・社会連携センター 社会薬学部門 教授 / 附属薬局 薬局長
口腔健康管理は、歯科医療専門職が行う口腔機能管理および口腔衛生管理と、多職種が行う口腔ケアに大別される※1。
口腔ケアは、日常的に行われることが重要であり、広く多職種が関わって実施されるが、これまで薬剤師はあまり参画してこなかった。しかし、口腔ケアの対象となる口腔トラブルのうち、医薬品が原因となるものも多く存在するため、薬剤師も口腔ケアに目を向ける必要がある。
2022年に日本口腔ケア学会が発表した「口腔ケア大阪宣言」では、“薬剤師の臨床現場における口腔ケアへの参画”と、“薬学部の薬剤師教育における口腔ケア領域の充実”の二点が口腔ケアの発展に重要としている※2。(下図)
“薬剤師の臨床現場における口腔ケアへの参画”については、保険調剤における患者の処方薬の薬学的管理と、セルフケア・セルフメディケーションにおける地域住民の口腔の健康維持・増進支援の2つの場面が考えられる。保健調剤の場面では、医薬品が引き起す口腔内の副作用防止・早期発見が課題となるが、口腔乾燥症を引き起す可能性のある医薬品だけでも500成分を超え、この数は全医薬品の約3割に当たるため、その影響は大きい※3。
この他にも、医薬品が口腔内に引き起こす副作用として、顎骨壊死、口腔カンジダ症、口腔粘膜炎、歯肉増殖症、嚥下障害など枚挙に遑がない。医薬分業率が80%に迫る現在、外来患者のほとんどは薬局で医薬品の提供と服薬指導を受けるため、医薬品が口腔内に引き起こす副作用の予防と早期発見は薬局薬剤師が責任をもつべき業務である。
セルフケア・セルフメディケーションの場面においても、「薬局」が地域住民の口腔の健康維持・増進に貢献できることは多い。現在、我が国の歯科健診率は50%程度と低く、2023年に閣議決定された骨太の方針で、「国民皆歯科健診に向けた取組の推進」が記載されるなど、歯科健診率の向上は喫緊の課題である。健康な人でも予約なしで利用できる医療提供施設の「薬局」で、薬剤師が国民皆歯科健診に向けて歯科健診受診勧奨に取り組めば、歯周病の予防・早期発見に大いに貢献できる。また、歯間ブラシや洗口剤、口腔保湿剤、入れ歯安定剤などの歯科衛生材料の提供と使用法の指導によっても、口腔の健康維持・増進に貢献することができる。
2022年、文部科学省は医学部、歯学部、薬学部のコアカリキュラムを同時改訂した。改訂版の薬学教育モデル・コア・カリキュラムの中に、今回初めて「口腔ケア」の文字が記載された。今後、薬学部の口腔ケア領域の教育も充実していくことが期待される。
次回以降のコラムでは、本稿で触れた話題について具体的に述べたい。
- 櫻井 薫.「口腔ケア」に関する検討会の進捗と今後の展開. 日歯医師会誌, 2016; 69(4):286-7.
- 夏目長門: 歯科・口腔外科疾患 最近の動向. In: 今日の治療指針2023年版 (福井次矢, 高木 誠, 小室一成編), 医学書院 (東京), 2023, pp1608-1611.
- 山浦克典: 口腔関連副作用に注意を要する薬剤・対応. In: 今日の治療指針2024年WEB電子版 (福井次矢, 高木 誠, 小室一成編), 医学書院 (東京), 2024,
[参考文献]