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【第2回】薬剤師は医薬品が引き起す口腔内副作用の番人になるべき
山浦 克典氏慶應義塾大学薬学部 医療薬学・社会連携センター 社会薬学部門 教授 / 附属薬局 薬局長
唾液は、粘膜保護・創傷治癒作用の他、抗菌作用、浄化・排泄作用、消化作用、味覚促進作用、潤滑・嚥下促進作用、緩衝・脱灰抑制作用を有するため、水では代用できない。
高齢者の4人に1人が口腔乾燥を自覚するとされる。これは加齢に伴う唾液腺の脂肪変性や機能低下が一因であるが、他の要因として多剤併用による薬剤の影響がある。口腔乾燥症を引き起す可能性のある医薬品は500成分を超える※1(表1)。
健常人では1日約1.5Lの唾液が分泌されるので、3分間に1回空嚥下しているが、唾液分泌が低下すると空嚥下回数が極端に減少するため、嚥下関連の筋力が低下し、特に高齢者においてはオーラルフレイルさらには摂食嚥下障害の原因となる。また、唾液分泌低下により食塊形成が困難になることも摂食嚥下障害につながる。
薬剤も嚥下機能に影響を及ぼすが、特に抗精神病薬はドパミンD2 受容体遮断作用により錐体外路症状として遅発性ジスキネジアを誘発し嚥下障害に関連する。さらにドパミンD2 受容体の遮断は、嚥下反射に不可欠な咽喉頭のサブスタンスP 遊離も抑制するため嚥下機能が低下する。一般的に定型抗精神病薬の方が錐体外路症状を引き起こすとされるが、定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の両方が嚥下障害の病因となり得る※2。
唾液分泌量の減少は、口腔内の抗菌作用や浄化・排泄作用を低下させることから、口腔カンジダ症にもつながる。
口腔カンジダ症は口腔常在菌による日和見感染症であり、粘膜免疫の抑制が発症の原因となるため、吸入ステロイド薬、免疫抑制薬、生物学的製剤などの薬剤が原因となる。また、近年乾癬治療に用いられるIL-17阻害薬等の特徴的な副作用として高頻度に発現する。
医薬品が引き起す口腔関連副作用はこれに留まらない。
顎骨壊死は、骨吸収抑制作用のあるビスホスホネート製剤および抗RANKL抗体、骨形成促進作用と骨吸収抑制作用のデュアルエフェクトを有する抗スクレロチン抗体が誘発する重篤な副作用であり、ポジションペーパー2023で薬剤関連顎骨壊死MRONJ(medication-related osteonecrosis of the jaw)の呼称となった※3。
歯肉増殖症は、歯肉の肥厚や出血を症状とし、抗てんかん薬やカルシウム拮抗薬、免疫抑制薬が原因薬剤として知られる。発生頻度は低いものの、カルシウム拮抗薬は高血圧治療の第一選択薬の一つで服用者が多いため注意を要する。
薬局薬剤師は、患者が服用する全ての薬剤を把握している医療職のため、服薬指導の際に患者の口腔内の症状を確認することで薬剤性口腔内副作用の早期発見に努め、処方医師もしくは歯科医師に的確に繋ぐハブの役割が期待される。
- 山浦克典: 口腔関連副作用に注意を要する薬剤・対応. In: 今日の治療指針2024年WEB電子版 (福井次矢, 高木 誠, 小室一成編), 医学書院 (東京), 2024,
- Miarons Font M, et al : Antipsychotic medication and oropharyngeal dysphagia : systematic review. Eur J Gastroenterol Hepatol 29 : 1332 - 1339, 2017
- 顎骨壊死検討委員会:薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023
[参考文献]