【第3回】薬局薬剤師は地域住民の口腔の健康維持にも貢献できる

山浦 克典氏慶應義塾大学薬学部 医療薬学・社会連携センター 社会薬学部門 教授 / 附属薬局 薬局長


歯周病は世界で最も患者数の多い非伝染性疾患としてギネス世界記録に認定されており、日本人成人の約8割が罹患していると言われる。

歯周病は、様々な全身疾患との関連が報告されている。例えば歯周病は糖尿病の第6の合併症とされ、歯周炎部位で産生されるTNF-αがインスリン抵抗性を惹起し血糖コントロールを悪化させる。そのため、歯周病を治療することで血糖コントロールが改善するという研究結果が多数ある※1,2。また歯周病は、脳梗塞、感染性心内膜炎、高血圧症、肺炎、認知症などの危険因子でもある※3,4

歯周疾患検診受診者のうち、9割で何らかの異常が見つかるため、歯周病の早期発見には定期的な歯科健診が不可欠である。現在、我が国の歯科健診率は50%程度に留まり、2023年に閣議決定された骨太の方針に「国民皆歯科健診に向けた取組の推進」が記されるなど、歯科健診率の向上は喫緊の課題となっている。薬局薬剤師は、「国民が予約なしで健康相談できる唯一の医療提供施設の医療職」として、地域住民に対する歯科健診勧奨を通じて歯周病の早期発見に貢献すべきである。

歯周病はプラークを病因とする細菌感染症なので、予防にはプラークコントロールが重要である。ブラッシングによる物理的なプラーク除去に加え、洗口剤による殺菌が効果的であるが、日本人の歯間ブラシや洗口剤の使用率は米国に比べ著しく低い※5

薬剤師による口腔セルフケアの推進は、薬局の物販機能を活かして歯間ブラシや洗口剤などの口腔ケア用品を販売することから始められる。歯磨剤や洗口剤には化粧品、医薬部外品又は一般用医薬品があり、近年商品の種類もかなり充実しているので、消費者にそれぞれの違いや特徴を説明することで、最適な商品選択を支援できる。

義歯の適正管理においても薬局薬剤師の果たせる役割がある。義歯安定剤を使用する人は約3割にのぼるが、洗浄不足で義歯に残留したり、除去せず再使用したりして、残留した義歯安定剤がカンジダなどの微生物の温床となるため、適正使用の指導が必要である。

また、義歯の洗浄は研磨剤を含まない義歯用歯磨剤と義歯用ブラシを用いる必要があるため、使用を勧められるように在庫しておきたい。装着時の痛みや義歯が密着しないなど、義歯の不具合について相談を受けた際は、早期に歯科受診を促す。

薬局薬剤師が地域住民の口腔内にも意識を向け、口腔内のアセスメントとトリアージを行い歯科医師にしっかり繋ぐハブの役割を果たすことで、口腔の健康問題の予防・早期発見を通じて口腔の健康維持に貢献できると思われる。

    [参考文献]

  1. Graziani F et al. A systematic review and meta-analysis of epidemiologic observational evidence on the effect of periodontitis on diabetes An update of the EFP-AAP review. J Clin Periodontol. 2018;45:167-187.
  2. Thakkar-Samtani M et al. Periodontal treatment associated with decreased diabetes mellitus-related treatment costs: An analysis of dental and medical claims data. J Am Dent Assoc. 2023;154:283-292.
  3. Sen S et al, Periodontal Disease, Regular Dental Care Use, and Incident Ischemic Stroke. Stroke. 2018;49:355-362.
  4. Del Giudice C et al. Infective Endocarditis: A Focus on Oral Microbiota. Microorganisms. 2021;9:1218.
  5. 五味一博. 歯科衛生士が知っておきたい洗口剤の応用. 日歯周誌. 2016;58:86-90.