【第3回】薬局のデジタルトランスフォーメーション(DX)

赤池 昭紀氏和歌山県立医科大学薬学部教授、京都大学名誉教授


近未来における薬局薬剤師の役割は、社会の高齢化と医療DXにより大きく変わると予想されます。これまでの調剤業務に加えて、より高度な専門知識と技術が求められるようになります。特に注目されるのは、以下の三つの分野です。

【デジタルヘルスケアの推進】
電子版お薬手帳、電子処方箋などの普及により、薬剤師は患者の健康情報をリアルタイムで管理し、遠隔地の患者ともコミュニケーションを取ることなどの新しい役割が求められるでしょう。電子版お薬手帳に今後新たに実装が必要な機能として、医師・薬剤師と患者間のコミュニケーション機能が挙げられています(図)。アプリを通じた医師・患者との情報共有が実現すれば、服薬状況や副作用等のリアルタイムでの把握や対応が可能になります。実際、医療情報ネットワークを通じて医師・薬剤師・患者の情報共有が既に実現している地域もあります。さらに、デジタル治療の活用やAIを用いた薬物療法の最適化、患者ごとのデータに基づいた医療の推進にも薬局薬剤師が参画できるようになるでしょう。このような薬局DXが推進されれば、薬剤師は薬の提供者としての役割から、健康管理のパートナーへと進化することが可能になります。

【専門知識の深化と多職種連携】
限られた時間の中で、薬局薬剤師が患者の背景を把握し、継続的な服薬指導を行うためには、医療機関で取得される診察情報、検査データ、既往歴などを共有することを目的とした電子健康記録(EHR)や、患者個人の健康情報を正確に把握することを目的とした個人健康記録(PHR)へのアクセスが必要不可欠になるでしょう。また、医師や看護師、理学療法士など他の医療専門職との連携も一層重要になります。多職種チームの一員として、患者に最適な治療計画を立案し、実施するために、ITを駆使した協力体制を築くことが求められます。

【地域密着型のケア提供】
高齢化社会の進展に伴い、地域密着型のケアがますます重要になります。先述のPHRへのアクセスは薬局薬剤師の強力な味方になります。薬局は地域住民にとって身近な存在であり、薬剤師はその中心的な役割を担います。薬剤師は在宅医療や介護との連携を強化し、患者の自宅での薬物療法管理を行うほか、自治体等と協力して地域の健康の予防医療に貢献し、地域全体の健康レベルの向上を先導することが求められます。

近未来の薬局薬剤師は、技術革新と社会の変化に対応し、より高度で多様な役割を果たすことが期待されます。デジタルヘルスケアの推進、地域密着型のケア提供、そして専門知識の深化と多職種連携を通じて、薬剤師は患者の健康と生活の質を向上させる重要な存在となるでしょう。