【第1回】経口糖尿病薬が8系統に!アドヒアランスをあげると血糖コントロールが改善

佐竹 正子氏クラフト株式会社 糖尿病領域顧問 / 星薬科大学薬動学研究室 / 博士(薬学)


1921年トロント大学でバンティングとベストにより、インスリンが発見されました。翌年には1型糖尿病の男児に投与され、それまで飢餓療法や死病と言われていた糖尿病の薬物治療が始まりました。今日に至るまでインスリン製剤は超速効型や持効型インスリンなどが開発され、インスリンデバイスも高齢者や視覚障害者などにも扱いやすいタイプも製造されて、注射療法により生理的なインスリン分泌に近い治療が可能となりました。経口薬もインスリン分泌非促進系や血糖依存性インスリン分泌促進系薬剤により、低血糖の発症が少ない製剤も販売されています。また、今年になり注射薬が添加剤により経口薬となった製品や、ファースト・イン・クラスとなるミトコンドリアに作用すると想定される独創的な新薬も登場しています。

このように糖尿病薬物療法は選択肢も増えて、患者に最適な治療ができるようになってきましたが、その反面、糖尿病薬は残薬が多い薬剤でもあります。その原因として、糖尿病の薬物療法は食事による血糖上昇を抑制するために、食事の前後で服用したり注射したりする製剤が多く、服薬タイミングが複雑であることが考えられ、残薬理由として食前薬は43%という報告もあります。

一般的な健康スタイルの食事は、1日に3回で、それは朝昼夜の3回と考えられています。糖尿病治療は、朝食後の血糖上昇を抑制することで、1日の血糖推移を右肩上がりになることを防ぐようにしています。そのため「1日1回朝服用」という処方が多く、それに合わせて服薬指導を行っていると思います。糖尿病患者の3分の2は60歳以上という報告もあり高齢化が進んでいます。高齢者への在宅訪問で朝の10時頃にお伺いすると、いま起きたばかりという患者さんも少なくありません。起床してから食事の準備が終わる頃には昼前になり、朝服用の薬は飲まずに昼の薬から服用開始となることも多くあります。その結果、飲まない朝の薬が残薬として増えていくことになり、在宅の高齢者の欠食による残薬理由は約50%という報告があります。

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図1:残薬発生の理由について

出典:平成25年度厚生労働省保健局医療課委託調査「薬局の機能に係る実態調査」(速報値)

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図2:在宅高齢者における残薬の理由

出典:高見千恵., 川崎医療福祉学会誌 2000; 10: 373 より改変

糖尿病治療の基本療法は食事と運動療法であり、1日3回のバランスの良い食事は大切ですが、起床時間が遅い方、夜勤など不規則勤務の方へは、1日1回朝服用の薬は「その日の最初の食事の時」という服薬指導のほうが、アドヒアランスも良くなり、血糖推移の右肩上がりを抑制することが期待できます

残薬を処方日数変更により調整しても、再度残薬が発生することが多くあります。これを防止するためには、患者の残薬理由を確認して、理由に適したアドヒアランス向上ができる服薬指導を薬剤師が行うことで、残薬を約98%改善できた報告もあります。

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図3:残薬に対する薬剤師の指導

出典:くすりと糖尿病 3(2)、163-170、2014

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図4:個別の理由に応じた薬剤師の介入後の残薬の状況

出典:くすりと糖尿病 3(2)、163-170、2014

筆者は、HbA1cが0.5%以上改善した糖尿病患者に、コントロールが良好化したと考えられる理由を確認した結果、指示通りの服薬や注射をした結果が上位となりました。

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図5:HbA1cが0.5%以上改善した生活スタイルの理由(2012年3月から4月の来局患者へアンケート)

出典:東京都渋谷区 薬局恵比寿ファーマシー 佐竹正子 第1回日本くすりと糖尿病学会学術集会にて発表

新薬も登場した糖尿病薬が適正使用されるように、患者の生活背景や社会支援を把握してアドヒアランスを上げることが、糖尿病治療に貢献する薬剤師の責務と考えています。