【第2回】低血糖は患者指導で予防ができる、低血糖予防ができるエキスパート患者を育てよう!

佐竹 正子氏クラフト株式会社 糖尿病領域顧問 / 星薬科大学薬動学研究室 / 博士(薬学)


低血糖は薬物療法中に起こる一番頻度の高い副作用となります。血糖降下作用を持つインスリン製剤、インスリン分泌促進系で血糖非依存性であるSU薬とグリニド薬およびこれらの配合薬が、低血糖を起こしやすく、「高齢糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」では、重症低血糖に危惧される薬剤に分類されてHbA1cには下限値が設けられています。また、日本糖尿病学会の「糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告」によると、インスリン製剤とSU薬による重症低血糖での救急搬送は約90%であることから、2020年4月より、薬剤服用歴管理指導料に調剤後薬剤管理指導加算として、薬剤師による調剤後のフォローアップが求められ、こちらの観点は低血糖予防となっています。つまり糖尿病患者の高齢化に伴い、低血糖に対する患者指導が急務になってきました。

低血糖は一般的には最初に交感神経症状が出てきます。この時に低血糖を認識してブドウ糖摂取という適正な対処をとれるように患者を指導することが一番重要となります。この症状を見逃すと、次は脳内のエネルギーが枯渇した結果に中枢神経症状が発現します。この時も、患者自身が、「自分はいま具合が変だ」と気付けるかどうかが鍵となり、これを察知出来ないと、無自覚性低血糖が発症しやすくなります。

無自覚性低血糖は、患者本人が低血糖の警告症状である交感神経症状などを察知できず、突然に意識障害を発症します。この原因として、日常の軽微な低血糖の適切な対処を怠ることで、脳を保護するための適応反応として、低血糖を察知する閾値の低下が原因と考えられています。無自覚性低血糖を防止するためには、患者は低血糖を察知したら適切にブドウ糖などで対処すること、本人が無自覚なので家族などが発見できるように、周りの人が低血糖症状の知識を持ち、認知行動と間違えないようにすることが大切です。

低血糖症状発現時の患者が行う対処法としては、ブドウ糖摂取かブドウ糖を含む飲料(果糖ブドウ糖液含有)の摂取となります。ブドウ糖1gで血糖値は5mg/dL上昇します。ブドウ糖5gで25mg/dLの血糖上昇となることから、交感神経症状発症時ではブドウ糖5gを摂取して、様子をみて症状改善がない場合に5gを追加していきます。低血糖時のブドウ糖摂取量は「5~10g」となっていますが、低血糖時のブドウ糖摂取のし過ぎで高血糖となり、これが原因で血糖コントロール不良になる患者も多くいるので摂取量も正しく指導していきましょう。

低血糖の正しい対処をせず中枢神経症状の進行や無自覚性低血糖などによる意識障害を重症低血糖といいます。重症低血糖は、日本糖尿病学会の糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会の定義によると「自己のみでは対処できない低血糖症状があり、発症時または受診時の静脈血漿血糖値が60mg/dL未満(毛細管全血50mg/dL未満)が明らか」とされています。最初に述べたように重症低血糖の原因薬剤の90%以上はインスリン製剤とSU薬となります。低血糖を起こさせない、低血糖が起きた場合の対処を適正に行い予防ができる患者支援が期待されています。

次回は重症低血糖の発症原因の、シックデイについてお話しします。