レビー小体型認知症の臨床診断基準
レビー小体型認知症の診断では、「日常活動に支障を来す進行性の認知機能低下(必須)」に加えて「中核的特徴」および「指標的バイオマーカー」の該当数により「Probable DLB(ほぼ確実)」または「Possible DLB(疑い)」と診断します。
レビー小体型認知症の臨床診断基準(2017)
- Probable DLB(ほぼ確実)
- 「2つ以上の中核的特徴が存在する」または「1つの中核的特徴が存在し、1つ以上の指標的バイオマーカーが存在する」(Probable DLBは指標的バイオマーカーの存在のみで診断するべきではない)
- Possible DLB(疑い)
- 「1つの中核的特徴が存在するが、指標的バイオマーカーの証拠を伴わない」または「1つ以上の指標的バイオマーカーが存在するが、中核的特徴が存在しない」
McKeith IG et al. Neurology 2017; 89(1): 88-100
日本神経学会 監修. 認知症疾患診療ガイドライン2017(医学書院)
認知機能障害
- アルツハイマー型認知症と異なり、病初期には記憶障害が目立たない場合も多い1)。
- 健忘の自覚は初期からみられるが、簡便な検査※では初期には比較的正常に近い値を示す1)。
- 記憶障害は進行とともに顕在化し、他覚的にも明らかとなる1)。アルツハイマー型認知症と区別し難い記憶障害や、失見当識、健忘失語を呈するようになる1)。
- アルツハイマー型認知症と比較して、初期から視空間認知障害とともに注意障害、構成障害などの症状が強く出現するのも特徴で、他の認知機能と比較して不釣合いな遂行能力や問題解決能力の低下を生じる1,2)。
- 認知機能の変動は初期に目立つことが多く、比較的急速に起こり、数分から数時間、時に数週から数ヵ月に及ぶことがある1,3)。
- ※
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)など
1)藤城弘樹. 老年精神医学雑誌 2016; 27(Suppl. 1): 96-102
2)Tiraboschi P et al. Brain 2006; 129(Pt3): 729-735
3)Ballard CG et al. Neurology 2002; 59(11): 1714-1720
パーキンソニズム
- 寡動、筋強剛、振戦がみられ、小刻み歩行、前傾姿勢、姿勢反射障害、構音障害、仮面様顔貌など、パーキンソン病でみられるものと差異はない。
- ただし、初期には下肢脱力と易転倒性がみられる程度で、進行しても寡動と筋強剛のみで振戦は末期まで目立たない場合がある。
- 振戦がみられても安静時振戦は少なく、末期になって四肢・体幹の筋強剛が急速に進行する場合がしばしばみられる。
- 抗精神病薬に対する感受性の亢進により、幻視や妄想の治療に抗精神病薬を少量使用したときに、嚥下障害やパーキンソニズムが増悪、ときに悪性症候群を呈することがあるので注意が必要である。
- 精神症状が前景化し向精神薬を使用した場合、薬剤性パーキンソニズムが生じる場合もあり、鑑別が必要となる。
藤城弘樹. 老年精神医学雑誌 2016; 27(Suppl. 1): 96-102
幻視・誤認など
幻視や誤認は認知機能が比較的保持された初期から認められることが多く、アルツハイマー型認知症との鑑別に有用とされています1,2)。
<幻視>
- 反復性に現れる幻視は、比較的認知機能が保持されている病初期から出現することが多い1)。
-
典型的な幻視は、人物や小動物が家の中に入ってくるというもの1)。
(例) 知らない子どもが部屋の中に座っている
虫やヘビなどの小動物が床をはっている、壁から出てくる
これらは明瞭で生々しいものから人影のようにあいまいなもの、色彩のあるものからないものまで様々1)。 - 幻視は目を離すと消えてしまい、多くの場合、不安感や恐怖感を伴う1)。
- 繰り返し現れ、せん妄下の幻視と異なり明らかな意識障害を伴わず、あとになって家族や医師に詳細に語ることができる1)。
- 認知機能障害が進行するに伴い、幻視は目立たなくなる1,3)。
<錯視・変形視・誤認>
- カーテンの影や吊るされている洋服を人と錯覚する錯視、物や人物の形や大きさが見ているうちに変化する変形視、明らかな幻視ではないが気配として感じる実体的意識性に近いものがみられる1,3)。
- 家族や友人の顔を他人と見間違える人物誤認や、自宅にいても自宅ではないと主張する場所誤認がみられ、家の中に他人が住んでいるという「幻の同居人妄想」、親しい者が瓜二つの偽者と入れ替わってしまったという「カプグラ症状」、同じ自宅が複数あるという「重複記憶錯誤」など、妄想性誤認症候群に発展することがある1)。
1)藤城弘樹. 老年精神医学雑誌 2016; 27(Suppl. 1): 96-102
2)Ferman TJ et al. Parkinsonism Relat Disord. 2013; 19(2): 227-231
3)井関栄三. 精神医学 2007; 49(7): 691-697
睡眠・覚醒の障害
レム期睡眠行動異常症(RBD)は2017年に改訂された臨床診断基準では中核的特徴として位置づけられました1,2)。
RBDはレム睡眠期に出現すべき抗重力筋の筋活動抑制が欠如し、夢内容に伴う精神活動が行動化を示し、患者本人や家族にけがが生じる危険性がある病態です3)。
- RBDはレビー小体型認知症発症の数年~数十年先行することが多く、臨床病理学的検討では全経過を通じて約75%に認められる、とされている3-6)。
- RBDは臨床診断基準の必須症状である認知機能の低下、中核的特徴である幻視およびパーキンソニズムの出現に比べて先行することが多い3)。
- 他の症状として日中の傾眠や覚醒時の混乱がしばしばみられるが、経過中にせん妄をきたすことも多く、その区別が難しいことがある3)。
1)McKeith IG et al. Neurology 2017; 89(1): 88-100
2)日本神経学会 監修. 認知症疾患診療ガイドライン2017(医学書院)
3)藤城弘樹. 老年精神医学雑誌 2016; 27(Suppl. 1): 96-102
4)Boeve BF. Ann N Y Acad Sci 2010; 1184: 15-54
5)Ferman TJ et al. Neurology 2011; 77(9): 875-882
6)Fujishiro H et al. J Neuropathol Exp Neurol 2008; 67(7): 649-656
自律神経障害
レビー小体型認知症ではアルツハイマー型認知症と異なり、中枢神経系のみならず、末梢自律神経系にレビー病理が早期から出現することが明らかとなっています1)。
失神や自律神経障害は臨床診断基準の支持的特徴として挙げられています2,3)。
- 頑固な便秘(3日以上)や寝汗などの発汗異常、起立性低血圧が出現し、認知症発症前に出現する頻度も高く、アルツハイマー型認知症との鑑別診断に有用であることが報告されている1,4)。
1)藤城弘樹. 老年精神医学雑誌 2016; 27(Suppl. 1): 96-102
2)McKeith IG et al. Neurology 2017; 89(1): 88-100
3)日本神経学会 監修. 認知症疾患診療ガイドライン2017(医学書院)
4)Chiba Y et al. Dement Geriatr Cogn Disord 2012; 33(4): 273-281