第9回 実臨床における統合失調症に対するラツーダ処方のポイント

小田 康彦先生

出演・監修

小田 康彦先生(一般財団法人みやぎ静心会 国見台病院 副院長)

本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針、ラツーダへの期待などをお伺いします。
今回は、国見台病院 副院長の小田 康彦先生に、実臨床における統合失調症に対するラツーダ処方のポイントをご解説いただきます。

国見台病院の特徴と地域における役割

 当院は、宮城県仙台市に位置する289床を有する精神科単科病院です。急性期治療病棟を有しており、急性期治療に力を入れています。さらに、リハビリテーションにも積極的に取り組んでおり、作業療法、デイケア、訪問看護、統合失調症家族教室、病院レクリエーション活動などを専門スタッフがそれぞれ連携して、チーム医療として実践しています。
 また、私は特殊外来として、ストレス外来を担当しています。ストレス外来では、気分障害、不安障害、発達障害といった現代病を幅広く扱っています。
 統合失調症に関しては、病期は急性期から慢性期まで、年代も10代から60代まで幅広くいらっしゃいますが、10代から30代の、学生や就労をしている若年の患者さんが比較的多いです。

統合失調症治療のゴール

 統合失調症治療のゴールは、リカバリーだと考えています。リカバリーの概念にはさまざまあると思いますが、私は、症候学的な寛解が得られ、就労やひとり暮らしなどの自立した社会生活が送れること、さらに対人関係が良好であることが重要なポイントと考えています。これらの状態が少なくとも再発を防ぎ、3年以上持続することも重要です。
 リカバリー達成のためのステージとして、①アドヒアランスの維持、症候学的完解、②認知機能の改善、③社会機能の改善といった順でステップがあがるものと考えています。

統合失調症急性期の非薬物療法で重視していること

 薬物療法の効果を最大限に活かすために必要となるのが非薬物療法です。
 急性期の非薬物療法における最初のステップは、アドヒアランスを良好にすることです。アドヒアランスを良好にするためには、患者さんが自身の病気を理解し、受け入れることが重要となります。そのため、急性期の段階から心理教育を行い、病識を高める取り組みを重視しています。また、患者さんだけでなく、家族心理教育もアドヒアランスに影響してきますので、家族に対しても積極的に心理教育を行っています。
 急性期は、まず症候学的な寛解を目指しますが、維持期では認知機能が重要となってきます。長期を見据えた統合失調症治療では、急性期の段階から認知リハビリテーションなどを行い、認知機能を悪化させないこと(特に薬剤性認知機能障害を防ぐこと)が重要になってくると考えています。

統合失調症急性期の薬物療法で重視していること

 統合失調症急性期の薬物療法は、ここ10年ぐらいで随分変わり、非鎮静系の薬剤を使うことが主流となってきました。地域移行を見据え、過鎮静を回避し、認知機能を低下させない治療に重点が置かれるようになったことがその背景にあります。
 非鎮静系の薬剤のうち、何を選択するかは個々のケースによって異なりますが、ターゲットにする症状を考慮して選択しています。例えば、幻覚・妄想だけが強く出ている人もいれば、不安・焦燥感が強く出ている人もいますので、まずはそれらの症状を考慮して、その上で、長期を見据えて、良好なアドヒアランスを維持できるように、眠気や体重増加などを来しにくい、忍容性が高い薬剤を優先して選択するようにしています。
 大切なことは、患者さんが治療を継続できることであり、それを意識して個々のストラテジーを考えていきます。

ラツーダへの期待

 ラツーダは、「大日本住友製薬が心を込めて創ったお薬」という印象を持っています。本剤は、いわゆるセロトニンドパミンアンタゴニスト(SDA)ですが、ドパミンD2遮断作用を保ったまま、今まで患者さんの服薬継続を難しくしていたような副作用を最小限にすることが特徴です。加えて、セロトニン5-HT7受容体拮抗作用と5-HT1A受容体部分刺激作用を併せ持つ、ユニークな薬剤です。セロトニン5-HT7受容体拮抗作用による、認知機能改善が示唆されているため、認知機能への影響が期待できますし、セロトニン5-HT1A受容体部分刺激作用による気分症状改善も示唆されていますので、気分症状への作用も期待できます。
 また、JEWEL試験では、PANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ40mg群で投与2週目よりプラセボ群と有意差が認められました。私は、実臨床でラツーダを使用していますが、JEWEL試験で得られた有効性と同様に1、2、3週と直線的に症状が改善するといった印象を持っています。
 さらに、臨床検査値への影響が少ないという点からも、長期を見据えた統合失調症治療に適していると考えられます。特に、体重増加を嫌がる女性や、認知機能を低下させたくない学業や就労をしている若年の患者さんの選択肢になるのではないかと期待しています。

小田 康彦先生

実臨床におけるラツーダの使い方

 私は、統合失調症に対しては40mg/日から開始して、1週間程度で80mg/日へ増量することが多いです。特に、幻覚・妄想が強い患者さんや情動面の問題があるような患者さんの選択肢になると考えています。実際、そういった患者さんにラツーダを処方すると、表情が柔らかくなるような印象を受けますし、眠気や意欲低下といった患者さんが嫌がる副作用も少ない印象です。
 もし、先生がラツーダを初めて処方されるのであれば、まずは初発の患者さんや、怠薬しており薬がフレッシュになっている状態の患者さんに使用してみるのがよいのではないでしょうか。そういった患者さんの方が、罹病期間が長く、クロルプロマジン換算で高値になっている患者さんよりラツーダの有効性・安全性面の良さを発揮しやすい可能性があり、薬の評価もしやすいと考えるためです。

ラツーダを処方する際の注意点

 個人的には、悪心が出やすい印象があるので、その点は他の抗精神病薬と異なる副作用として注意が必要ではないかと考えています。他剤や他の副作用でも同様ですが、患者さんが副作用で自己中断してしまわないように、あらかじめ副作用が出る可能性があることや効果発現時期を説明しています。その際、アカシジアなどの専門用語ではなく、「足がムズムズする」といった患者さんに分かりやすい表現で説明し、副作用が出たときに対処可能なことを説明することも重要だと考えます。
 また、ラツーダは、1日1回食後に投与する薬剤ですので、食後に服用するように説明しています。特に、ひとり暮らしの患者さんなどは欠食してしまうことがあるので、服用前に最低350kcal程度*の軽食は食べるように指導しています。

*Preskorn S, et al. Hum Psychopharmacol. 2013;28(5) 495-505.

JEWEL試験

ここから、本邦において統合失調症の適応症を取得する根拠となった第3相試験、JEWEL試験をご紹介いたします。

 本試験の対象は、急性増悪期の統合失調症患者483例です。対象をプラセボ群またはラツーダ40mg群に無作為に分け、治験薬を1日1回、夕食時*は夕食後に6週間経口投与しました。
 有効性の主たる解析は、ITT集団を対象として実施しました。有効性の主要評価項目である6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、併合した実施医療機関、評価時期、治療群、治療群と評価時期の交互作用及び、ベースラインのPANSS合計スコアを共変量とする反復測定のための混合モデル(MMRM)法を用いて解析し、最終評価時(LOCF)に治療効果(反応)が認められた患者の割合をLogistic regressionで評価しました。
 安全性解析対象集団は、無作為化され二重盲検治療期に少なくとも1回治験薬を投与された患者として実施しました。

*本邦での承認用法は食後経口投与

 主要評価項目である6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−12.7、ラツーダ40mg群−19.3、投与群間の差−6.6と、統計学的に有意であり、ラツーダ40mgのプラセボに対する優越性が検証されました。また、effect sizeは0.410でした。
 副次評価項目である各来院時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ40mg群で投与2週目よりプラセボ群と有意差が認められ、その効果は6週時点まで継続しました。

 PANSS 5因子モデル別スコアのベースラインからの変化量については、急性期で特に問題となる陽性症状をはじめ、興奮、陰性症状、不安/抑うつ、認知障害のいずれの項目においても、ラツーダはプラセボに比べてスコアを有意に低下させることが示されました。

 副作用発現頻度は、プラセボ群57例(24.3%)、ラツーダ40mg群69例(27.9%)でした。発現頻度が2%以上の副作用は、プラセボ群では不眠症12例(5.1%)、統合失調症11例(4.7%)、不安9例(3.8%)などで、ラツーダ40mg群では頭痛、アカシジア、統合失調症が各10例(4.0%)などでした。
 重篤な副作用は、プラセボ群2例2件[統合失調症、自殺企図各1件]、ラツーダ40mg群1例1件[統合失調症1件]に認められました。
 投与中止に至った有害事象は、プラセボ群15例[統合失調症11例、手骨折、精神病性障害、敵意、自殺企図各1例]、ラツーダ40mg群14例[統合失調症7例、房室ブロック、肺結核、体重増加、不安、カタトニー、妄想、精神病性障害各1例]に認められました。
 試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。

 本試験では、臨床検査値への影響も検討されています。6週時点での体重、BMIの変化量や、HbA1c、コレステロールなど糖脂質代謝への影響、プロラクチンへの影響はこちらに示すとおりです。

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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