第1回 ガイドライン 「第3章 抑うつエピソード」について

双極性障害の治療課題と今後を考える

『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』1)(以下、本ガイドライン)が2023年3月1日に公開されました。
本コンテンツでは、双極性障害診療ガイドライン改訂ワーキンググループのメンバーとなっている5名の先生にお集まりいただき開催した座談会(開催日:2023年3月10日)の様子をまとめた記録集の内容を、3回にわたりダイジェストでご紹介します。
第1回の今回は、ガイドライン「第3章 抑うつエピソード」について取り上げます。

開催日:2023年3月10日 ラツーダの双極性障害治療に関する座談会(会場:住友ファーマ株式会社 東京本社)

『第3章 抑うつエピソード』は、加藤先生ご司会のもと、高江洲先生よりご紹介いただいた内容を中心にご紹介します。

高江洲先生
 まず、CQ 3-2「抑うつエピソードの標準的な薬物療法とはどのようなものか」について、抑うつエピソードの標準的な薬物療法としては、第2世代抗精神病薬(クエチアピン[普通錠は適応外]、ルラシドン、オランザピン)および/または気分安定薬(リチウム[適応外]、ラモトリギン[適応外])が提案されています(ラツーダについては、後述のELEVATE試験を参照)。

加藤先生
 続いて、さまざまな特徴を伴う抑うつエピソードに対するCQについては、どのような提案となったのでしょうか。

高江洲先生
 『抑うつエピソードでみられる不安(不安症)に対しては、クエチアピン(普通錠は適応外)、オランザピン、ルラシドンの使用を提案する』としました(図1)。クエチアピンは2つの大規模試験をプール解析した結果から、オランザピンは大規模臨床試験の事後解析から、不安症状の改善が報告されています。一方、抗うつ薬の使用については、『SSRIの投与は慎重に判断し、BZP系抗不安薬は原則使用しないことを提案する』としました。
 また、混合性の特徴を伴う抑うつエピソードに対しては、「気分安定薬よりも第2世代抗精神病薬(特にオランザピンとルラシドン)の使用を提案する」としました(図1)。

 双極性障害を対象とした複数のRCTをpost hoc解析した結果、オランザピンは『混合性の特徴を伴う抑うつエピソード』および『混合性うつ病』に対してプラセボよりも有意に治療反応率が高かったこと、また、双極Ⅰ型障害を対象としたルラシドンのRCTをpost hoc解析した研究では、『混合性の特徴』を有する抑うつエピソードに対して、ルラシドンはプラセボに比べて有意に抑うつ症状の軽減と治療反応率・寛解率の改善を示したことが根拠となっています。一方、抗うつ薬の使用に関しては、『抗うつ薬の使用を避けることを提案する』としました。抑うつエピソードでみられる不安(不安症)に対しては、『慎重に判断してください』というニュアンスでしたが、混合性の特徴を伴う抑うつエピソードに対しては、『できるだけ避けてください』といったニュアンスになっておりますので、患者の状況によって、個別に判断していただきたいと考えています。

加藤先生
 日本の実臨床では、『CANMAT/ISBD 2018ガイドライン』2)(図2)や本ガイドラインで標準治療として推奨されていない薬剤が抑うつエピソード治療に広く使われています。この現状に関しては、今後どのように考えていったらよろしいでしょうか。

高江洲先生
 これは双極性障害治療の難しいところです。抑うつエピソード、躁病エピソード、維持期が明確に分けられるのなら、それぞれの病期に応じた薬剤選択ができるのでしょうが、実際は混合状態があったりしますので、臨床の先生方も薬剤の使い分けに悩まれているのだと思います。しかし、抑うつエピソードが長引いている場合に推奨されていない薬剤を使用しても、副作用が増えるばかりで改善は見込めません。したがって、抑うつエピソードが長引いている場合には、エビデンスがあり、本ガイドラインで提案されているルラシドン、クエチアピン徐放錠、オランザピンを使用すべきだと考えています。

 『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』における「第3章 抑うつエピソード」のCQ一覧は図3の通りです。

 また、効能又は効果が双極性障害の保険適用となっている薬剤一覧(2023年5月現在の電子添文をもとに作成(薬剤は一般名))は、図4の通りです。

「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください。

国際共同第3相試験(ELEVATE試験):検証的試験

ラツーダの検証的試験である「ELEVATE試験」については、こちらをご覧ください。

国際共同第3相試験(ELEVATE試験):検証的試験

 今回は、座談会記録集から、『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』における「第3章 抑うつエピソード」のポイントをご紹介いたしました。
 本座談会では、「改訂ガイドライン Introduction ―改訂の経緯と特徴―」、「躁病エピソード」、「維持療法」、「周産期」、「心理社会的支援」、「副作用とモニタリング」、「当事者・多職種の観点から」などにおける重要な項目について幅広くご解説いただいております。
 本資材のオリジナル版はお届け可能です。ご興味のある先生は、ぜひ担当MRへお申し付けください。
 本日の内容が、先生のご診療の参考になれば幸いです。

略語一覧
BZP Benzodiazepine(ベンゾジアゼピン系受容体作動薬)
SSRI Selective Serotonin Reuptake Inhibitor(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
CANMAT/ISBD Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments and International Society for Bipolar Disorders
(気分・不安治療に関するカナダネットワーク/国際双極性障害学会)

Reference

  1. 日本うつ病学会:日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023, 2023年3月1日作成
  2. Yatham LN, et al. Bipolar Disord. 2018; 20(2): 97-170.

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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