第2回 ガイドライン 「第3章 抑うつエピソード」 と「第6章 周産期」について

双極性障害の治療課題と今後を考える

『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』1)(以下、本ガイドライン)が2023年3月1日に公開されました。
本コンテンツでは、双極性障害診療ガイドライン改訂ワーキンググループのメンバーとなっている5名の先生にお集まりいただき開催した座談会(開催日:2023年3月10日)の様子をまとめた記録集の内容を、3回にわたりダイジェストでご紹介します。
第2回の今回は、双極Ⅱ型障害の治療方針および「第6章 周産期」について取り上げます。

開催日:2023年3月10日 ラツーダの双極性障害治療に関する座談会(会場:住友ファーマ株式会社 東京本社)

双極Ⅱ型障害について、高江洲先生のご自身の研究結果や加藤先生が治験調整医師をつとめた臨床試験の背景を踏まえ活発にディスカッションされました。

 まず、図1に『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』(以下、本ガイドライン)における第3章 抑うつエピソードのCQ一覧を示します。
 このうち、CQ 3-8.4双極Ⅱ型の抑うつエピソードに対して有効な治療はなにかについて、高江洲先生よりご解説頂いています。

高江洲先生
 CQ 3-8.4については、『双極Ⅱ型障害に特化した臨床試験が乏しく、十分なエビデンスは存在しない。治療選択は限られるが、クエチアピン(普通錠は適応外)、リチウム(適応外)、ラモトリギン(適応外)の使用を提案する』としました。ルラシドンについては、実臨床では使われていることが多いと思いますが、臨床試験の結果がなく、本ガイドラインでは記載することができませんでした。

加藤先生
 双極Ⅱ型の抑うつエピソードについて、エビデンスが乏しいということで、ルラシドンの提案の記載はありませんでした。この双極Ⅱ型の抑うつエピソードに対するルラシドンのエビデンスが乏しいということについて、どのようにお考えでしょうか。

高江洲先生
 われわれは、最近、66例の双極性障害患者を対象にルラシドンの有効性と安全性をレトロスペクティブに検討した研究の結果を報告しましたが2)、対象患者のうち42例が双極Ⅱ型でした。これは、実臨床では、双極Ⅰ型よりもⅡ型の患者にルラシドンを選択するケースが多いということだと示唆されます。本研究では、双極Ⅰ型・Ⅱ型いずれも効果があり、双極Ⅰ型でもⅡ型でも安全性に統計的な有意差は認められませんでした。この結果をRCTなどのエビデンスと比較することはできませんが、本ガイドラインの推奨のみをみて、「ルラシドンは双極Ⅱ型には効かない薬なんだな」と誤解をしていただきたくないと思います。

加藤先生
 ELEVATE試験について(後述のELEVATE試験を参照)、私が治験調整医師をつとめましたルラシドンの臨床試験で対象を双極Ⅰ型だけとしたのは、対象に双極Ⅱ型を含めると診断が難しくなってしまうからです。決して双極Ⅱ型に効かないからというわけではありません。高江洲先生の研究のような発売後の調査をとおして、「ルラシドンは双極Ⅱ型にも効くのだな」というエビデンスが今後増えていくことを期待しています。

 引き続きまして、周産期についてです。本ガイドラインでは、薬物療法として主に気分安定薬を取り上げており、抗精神病薬については『統合失調症薬物治療ガイドライン』3)を参照しています。周産期のパートについて、菊地先生お願いします。

菊地先生
 図2に周産期のCQ一覧を示します。周産期において、RCTはほとんどないため、観察研究も含めた論文から、再発や入院の減少といった益と、児への影響に関する害についてまとめています。特に授乳期に関しては文献が限られており、症例報告や症例報告による系統的レビューを参考に、児への影響と乳汁移行のパラメーターなどを盛り込みながら作成しました。

 それではCQ 6-1について解説していきます。治療計画をShared Decision Making(SDM)で決めることや、妊娠前から服薬の調整などプレコンセプションケアを行うことを提案しています。プレコンセプションケアについては実践例を掲載しておりますので、こちらを患者さんにお見せしながら説明すると、説明しやすいのではないかと思います(図3)。

 続いて、妊娠中の薬物療法について、妊娠中は、一部の気分安定薬が使用しにくいため、病像に応じて第2世代抗精神病薬を使用します。国内で双極性障害に対して使用する気分安定薬と抗精神病薬の添付文書やオーストラリア基準についてまとめたものを示します(図4)。周産期に第2世代抗精神病薬をどう使うかですが、妊娠以前はプロラクチンへの影響を、妊娠中は妊娠糖尿病のリスクを、産後は乳汁移行を考慮して選択します。自施設の双極性障害の周産期管理を振り返ると、当科初診以前に服薬を中断し、再発した方がいらっしゃったので、やはりプレコンセプションケアが重要だと考えます。また、6割程度の患者が、周産期に何らかの病状悪化をきたしている印象を持っていますし、実際、双極性障害で通院が中断しており、産直後に再発した症例も経験しています。そのため、産科への双極性障害の啓発や、当事者への診断時からの情報提供や相談しやすい体制を構築することが重要だと考えています。

 効能又は効果が双極性障害の保険適用となっている薬剤一覧(2023年5月現在の電子添文をもとに作成(薬剤は一般名))は、図5の通りです。

「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください。

国際共同第3相試験(ELEVATE試験):検証的試験

ラツーダの検証的試験である「ELEVATE試験」については、こちらをご覧ください。

国際共同第3相試験(ELEVATE試験):検証的試験

 今回は、座談会記録集から、『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』における双極Ⅱ型障害の治療方針および「第6章 周産期」のポイントをご紹介いたしました。
 本座談会では、この他に、「改訂ガイドライン Introduction ―改訂の経緯と特徴―」、「躁病エピソード」、「抑うつエピソード」、「維持療法」、「心理社会的支援」、「副作用とモニタリング」、「当事者・多職種の観点から」などについて、幅広くご解説いただきました。
 本資材はお届け可能です。ご興味のある先生は、担当MRへお申し付けください。
 本日の内容が、先生のご診療の参考になれば幸いです。

Reference

  1. 日本うつ病学会:日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023, 2023年3月1日作成
  2. Takaesu Y, et al. J Clin Psychopharmacol. 2022; 42(5): 485-488.※1
  3. 日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会:統合失調症薬物治療ガイドライン2022, 2022年5月20日発行
  1. 本研究は大日本住友製薬株式会社(現:住友ファーマ株式会社)の資金により行われた。

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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