第3回 双極性障害の治療課題と今後を考える-ラツーダへの期待も含めて-

双極性障害の治療課題と今後を考える

『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』1)(以下、本ガイドライン)が2023年3月1日に公開されました。
本コンテンツでは、双極性障害診療ガイドライン改訂ワーキンググループのメンバーとなっている5名の先生にお集まりいただき開催した座談会(開催日:2023年3月10日)の様子をまとめた記録集の内容を、3回にわたりダイジェストでご紹介します。
第3回の今回は、日本の双極性障害の疫学と診断およびラツーダへの期待について取り上げます。

開催日:2023年3月10日 ラツーダの双極性障害治療に関する座談会(会場:住友ファーマ株式会社 東京本社)

本座談会の後半パートでは、「双極性障害の治療課題と今後を考える」というテーマでディスカッションされ、最後にラツーダへの期待についてもお話しいただきました。

加藤先生
 まず、日本の双極性障害の疫学と診断について私からお話しします。『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』(以下、本ガイドライン)では、日本における双極性障害の有病率は0.1~0.4%程度と推定されると記載されています2)。また、約3万人を対象とした最近のインターネット調査では、0.6%と推定されています3)。また、図1の渡邊先生の論文では、初診時に双極性障害と診断された患者は、約4人に1人であり、65%の方がうつ病/うつ状態と診断されていることが示されており4)、双極性障害は診断が非常に難しい疾患であることがわかります。また、双極性障害の診断が遅れる理由としては、「躁症状を病気とは思わず、医師には話さなかった」「自身が双極性障害について知らなかった」が上位を占めており、早期に診断するためには、双極性障害という疾患を患者に広く知っていただく必要があることがうかがえます。

 住友ファーマは『こころ・シェア』という疾患啓発サイト5)を作成してくれていますし、日本うつ病学会のサイト6)では一般の方向けの資材がダウンロードできるようになっています。私自身は、このサイトの『妊娠・出産を体験した双極性障害患者さんの事例紹介』などをこれから妊娠・出産する患者へお渡しし、読んでもらったりしています。こういったサイトや資材を活用しながら、患者に疾患啓発をしていただきたいと考えています。

加藤先生
 続いて、双極性障害がなかなか良くならないケースについて議論していきたいと思います。図2は順天堂大学で実施している双極性障害治療立て直し入院を受診された患者を調査した結果です。双極性障害が良くならない原因の約40%が、実際には双極性障害ではないなどの診断の問題で、次いで、治療不十分などの薬物療法の問題、疾患を受容できないなどの対処法の問題が約30%を占めました。本ガイドラインでは、CQ 4-6治療抵抗性双極性障害に対して、「診断を再考する、服薬アドヒアランスを確認するなど、見かけ上の治療抵抗性双極性障害の可能性について検討することが必要である」と記載されています。

私自身は、双極性障害が良くならない場合、以下のことを考えるようにしています。

  1. 診断はあっているか
  2. 脳やホルモンの病気ではないか
  3. その症状は双極性障害のせいなのか
  4. ガイドラインに従った治療をしているのか
  5. 有効な薬をすぐ諦めていないか
  6. 悪化させる薬(BZP系抗不安薬、抗うつ薬など)を使っていないか
  7. 経過を不安定化させる生活習慣はないか
  8. 病気を受け入れて主体的に治療しているか
  9. 軽躁こそが良い状態と思っていないか
  10. 適切な薬の組み合わせを探しているか

何か他にご追加頂けるものがありますでしょうか。

渡邊先生
 双極性障害の患者さんは、疲れとうつを一緒にしがちですよね。単なる疲れを「これはうつだ、再発だ」と深刻に捉える傾向があるように思います。こういった方には、「うつではないから、慌てないでいいですよ」と声をかけると、持ち直すことが多いです。

加藤先生
 双極性障害の薬物療法のTipsをご紹介します。

  1. まずは何よりも正確な診断を(双極性障害、と一度診断してしまうと、他の面を見落としがち)
  2. 病相期から予防を念頭に置いた治療を行う
  3. ガイドラインに従った治療を(e.g. 理由なくエビデンスのない治療を行うことはNG)
  4. 双極性障害(特にうつ症状)に有効な薬剤は限られているので、副作用が出たからとすぐに諦めず、副作用を減らして服用できる方法を考える
  5. 抗うつ薬は不安症の併発などの特別な理由がない限り使わない
  6. BZPの使用や抗精神病薬の漫然とした併用は避ける

松尾先生
 加藤先生の意図と同じだと思いますが、ガイドラインに従うというよりは、ガイドラインをベースとして、あとは個別の患者に合わせて治療を選択することが重要だと考えています。

加藤先生
 最後に、双極性障害治療におけるラツーダへの期待についてコメント頂けますでしょうか。

渡邊先生
 ラツーダが双極性障害におけるうつの治療薬として登場したことで、Shared Decision Making(SDM)がやりやすくなったのではないかと思います。SDMでは、患者さんに治療方針を選んでいただくわけですから、さまざまなタイプの薬剤が必要になります。ラツーダは、今後患者さんに選ばれる選択肢になっていくのではないかと思います。

松尾先生
 今までは双極性障害におけるうつ症状に使用できる薬剤が非常に限られていましたし、使える薬剤も副作用などの課題がありました。そういったアンメットニーズがある中でラツーダが登場して、治療選択肢が広がったことは、大変喜ばしいことだと思います。ラツーダは、幅広い双極性障害におけるうつ症状の患者に使用できる薬剤だと考えています。

菊地先生
 女性のライフサイクルを考えると、ラツーダは月経への影響や、妊娠中に懸念される妊娠糖尿病のリスクが少ないことが予測されるプロフィールだという印象を持っています。

高江洲先生
 個人的には、ラツーダはまだ過小評価されていると思っています。有効性に関してはエビデンスで示されているとおりですが、長期的な安全性に関しては、まだ十分なエビデンスがありません。今後安全性のエビデンスが蓄積されてくれば、さらに評価が上がっていく薬剤だと考えています。

加藤先生
 ラツーダへの期待は、先生方がおっしゃったとおりだと思います。双極性障害治療では、エビデンスがないような薬が使われていたり、当事者に効いていないのに、その薬が漫然と処方されているといった現状があります。そのような中、臨床試験で有効性と安全性が示されたラツーダが登場したことは意義があると感じています。今後、ラツーダに対するポジティブなイメージが広がっていくことを期待しています。

「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください。

国際共同第3相試験(ELEVATE試験):検証的試験

ラツーダの検証的試験である「ELEVATE試験」については、こちらをご覧ください。

国際共同第3相試験(ELEVATE試験):検証的試験

 今回は、座談会記録集から、日本の双極性障害の疫学と診断およびラツーダへの期待をご紹介しました。
 本座談会では、この他にも、『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』における「改訂ガイドライン Introduction ―改訂の経緯と特徴―」、「躁病エピソード」、「抑うつエピソード」、「維持療法」、「周産期」、「心理社会的支援」、「副作用とモニタリング」、「当事者・多職種の観点から」などについて、幅広くご解説いただきました。
 本資材はお届け可能です。ご興味のある先生は、担当MRへお申し付けください。
 本日の内容が、先生のご診療の参考になれば幸いです。

Reference

  1. 日本うつ病学会:日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023, 2023年3月1日作成
  2. 日本うつ病学会:日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023, 2023年3月1日作成, p17-19.
  3. Kato T, et al. J Affect Disord. 2021; 295: 203-214.※1,※2,※3
  4. Watanabe K, et al. Neuropsychiatr Dis Treat. 2016; 12: 2981-2987.※1
  5. 住友ファーマ株式会社:こころ・シェア(https://kokoro-share.jp/
  6. 日本うつ病学会:一般の方へ 資料(https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/ippan/shiryo.html
  1. 本研究は大日本住友製薬株式会社(現:住友ファーマ株式会社)の資金により行われた。
  2. 本論文の著者に大日本住友製薬株式会社(現:住友ファーマ株式会社)より、講演料、コンサルタント料などを受領しているものが含まれている。
  3. 本論文の著者には大日本住友製薬株式会社(現:住友ファーマ株式会社)の社員が含まれている。

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