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長期予後を見据えた外来統合失調症患者の再発・再燃時の治療方針
【監修】
医療法人社団青木末次郎記念会 相州病院
副院長 西本 雅彦 先生
統合失調症は再発・再燃、そして再入院を繰り返してしまう疾患として知られています。そこで本コンテンツでは、「長期予後を見据えた外来統合失調症患者の再発・再燃時の治療方針」をテーマに、医療法人社団青木末次郎記念会 相州病院 副院長の西本 雅彦 先生よりご解説いただきました。
相州病院の特徴と地域における役割
西本先生
相州病院は、神奈川県厚木市に位置しており、神奈川県県央地区の地域精神科医療の中核病院としての役割を担っています。また、精神療養病棟、認知症治療病棟のほかに、60床の精神科急性期治療病棟を有しており、急性期患者さんの入院を積極的に受け入れています。
また、本厚木駅、相模大野駅などの駅前に6つのサテライトクリニックを有しています。これらの関連クリニックからの紹介を受け入れたり、逆紹介するなどをして、地域の医療ニーズに対応しています。
私自身は、以前は急性期治療病棟を担当していましたが、最近は慢性期病棟を主に担当していますので、慢性期の統合失調症患者さんを多く診療しています。入院歴が長く、症状がなかなか改善しない患者さんでも、患者さん自身が望む生活に向けた治療を病院全体で提供するようにしています。
統合失調症患者さんの治療目標
西本先生
患者さん自身がどのような人生を送りたいか、それに寄り添うように治療目標を決めます。たとえば、若年で仕事をしている方は、社会復帰を目標とします。ただし、治療期間が長く続く可能性があることから、無理をせずに、ゆっくりと治療することが重要だと考えています。患者さんにも、「焦らずに、ゆっくり治していきましょう」とお伝えし、治療共同体に基づくアプローチを実践しています。こういった無理のないペースで治療を進めることは、患者さんがリラックスして治療を受けることにつながるのではないかと考えています。
統合失調症治療における薬剤選択の基本方針
西本先生
急性期の統合失調症薬物治療では、幻覚・妄想などの陽性症状をしっかりと抑えつつも、過鎮静を来さない薬剤を選択するようにしています。また、長期予後を見据えて、錐体外路症状(EPS)、高プロラクチン血症などの副作用を来しにくい薬剤であることも重要です。
さらに、認知機能に悪影響を与えない薬剤を選択することも重要です。統合失調症は、疾患自体による認知機能の低下がみられることもありますが、薬剤により認知機能が低下するリスクもあります。認知機能が低下すると、注意力が散漫となったり、物事を順序立てて考えることが難しくなったりするなど、社会との関わりに必要な能力に影響します。
また、患者さんが服薬を続けやすいよう、薬物治療を開始する際は、SDM(Shared Decision Making)を実践しています。各薬剤の特徴を患者さんや家族に説明し、納得いただいたうえで、患者さんに選んでもらいます。患者さんは、医師から、「これを飲みなさい」と強要されるよりも、自身で選んで、納得して服薬したほうが、継続してくれることが多いように感じています。
幻覚・妄想などの陽性症状をしっかりと抑えつつも、過鎮静を来さない | 長期予後を見据えて、錐体外路症状(EPS)、高プロラクチン血症などの副作用を来しにくい |
認知機能に悪影響を与えない | SDMを通して、患者さんが納得する |
外来統合失調症患者さんが再発・再燃する要因とその治療方針
西本先生
統合失調症が再発・再燃する要因として最も多いのは、服薬アドヒアランスの不良です。服薬アドヒアランスが不良となる要因はさまざまです。たとえば、「自分は本当は薬を飲まなくてもよい」と心のどこかで思っているような、病識の欠如が要因で、いつの間にか服薬を止める患者さんもいらっしゃいますし、過鎮静、体重増加、EPSなどの副作用が要因で自己中断してしまう患者さんもいらっしゃいます。
こういった服薬アドヒアランスが不良な患者さんには、SDMを実践して継続しやすい薬剤への変更を検討します。患者さんが継続しやすい薬剤は、「1日1回投与」、「効果を実感しやすい」、「眠気や体重増加などの副作用が出にくい」、「使い心地が良い」といった要素を備えている必要があります。
また、「薬物吸収に食事の影響を受けにくい」薬剤も、患者さんが継続しやすい薬剤だと考えます。患者さんの中には、食事が不規則で、そのために薬剤を飲み忘れてしまったり、飲んだのか飲んでいないのかを忘れてしまう方もいます。
そういった患者さんには、貼付剤のような血中濃度推移が安定し、薬物吸収に食事の影響を受けない投与経路の薬剤は、有用な選択肢になると考えます。一般的に経皮吸収型製剤は、血中濃度推移が安定するため、効果が安定することに加え、血中濃度上昇に伴う副作用が出にくいと考えられています。また、薬剤は皮膚から直接吸収され、全身血行、脳へ移行するため、食事の影響を受けることはありません<図1、図2>。
服薬アドヒアランス不良の要因 | 患者さん自身が薬を飲まなくてよいと判断して服薬を止める |
---|---|
副作用がつらくて自己中断してしまう | |
継続しやすい薬剤への変更を検討 | 「1日1回投与」、「効果を実感しやすい」、「眠気や体重増加などの副作用が出にくい」、「使い心地が良い」、「薬物吸収に食事の影響を受けにくい」 |
ロナセンテープを評価しているポイント
「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください 。
西本先生
ロナセンテープの薬物動態を見ると、定常状態でのブロナンセリン濃度の日内変動は小さく、最終貼付時のブロナンセリン濃度の最大値と最小値の比は平均1.25であり、安定した血中濃度推移を示しました<図3>。
また、ロナセンテープはロナセン錠と違い薬物吸収に食事の影響を受けません。そのため、1日の中で、毎日貼りかえやすい時間を決めて貼ることができます。そして、通常は1日1回40mgから開始しますが、患者さんの状態に応じて最大承認用量の80mgから使用開始が可能です。私は、症状を早期に改善したい患者さんには1日1回80mgから開始しています<図4>。
ロナセンテープの国際共同第3相試験(検証的試験)では、有効性の主要評価項目である「6週時でのベースラインからのPANSS合計スコア変化量」は、40mg群では-16.4、80mg群では-21.3であり、いずれの群もプラセボ群に対する優越性が検証されました<図5、図6、図7、図8>。
また、ベースラインからのPANSS合計スコア変化量を各時点で見ると、80mg群では1週時から、40mg群では2週時から多重性の調整をしない探索的な検定でプラセボ群との有意差が認められました<図5、図6、図7、図8>。
これらの結果から、服薬アドヒアランスが不良となり、再発・再燃してしまった際の選択肢として、ロナセンテープは有用な選択肢のひとつになると考えています。
ロナセンテープは、何かあったらいつでもはがすことができます。このことは患者さんにとってメリットであり、「治療に対する安心感」につながっていると感じています。
また、患者さんだけでなく、患者さんの家族にも喜んでもらえる薬剤だと感じています。服薬アドヒアランスが不良な患者さんの場合、ロナセンテープなら家族が目視で服薬アドヒアランスを確認できます。患者さんと家族の間で、薬を飲んだ、飲んでいないなどのちょっとしたことで関係がこじれることがあります。ロナセンテープの使用は、そういった、服薬アドヒアランスに関するもめ事が原因で起こる家族間のストレスを回避することにもつながるかもしれません。
また、患者さん自身でも服薬状況を確認できる点も飲んだのか飲んでいないのかを忘れてしまうような患者さんにはメリットだと思います。
一方、ロナセンテープは、紅斑やかゆみなどの皮膚症状が出ることがありますので、その対処法と予防法を講じる必要があります。
患者さんにとってのメリット | 何かあったらいつでもはがすことができる |
---|---|
「治療に対する安心感」につながる | |
患者さんの家族にとってのメリット | 家族が目視で服薬アドヒアランスを確認できる |
服薬アドヒアランスに関するもめ事が原因で起こる家族間のストレスを回避することにもつながる | |
デメリット | テープ剤による皮膚症状が出ることがある |
ロナセンテープを使用するうえでの注意点
西本先生
ロナセンテープは、紅斑やかゆみなどの皮膚症状が出ることがありますので、注意が必要です。そのため、ロナセンテープを処方する際は、患者さんや家族にロナセンテープの正しい使い方とあわせて、皮膚症状が出る可能性があること、皮膚症状の予防について、また皮膚症状が出た場合の対処方法について説明することが重要です。
皮膚症状の予防のためには、こちらの図に示すような方法があります<図9、図10>。私は特に「前回とは異なる場所に貼る」、「テープをはがす時は、折り返してゆっくりていねいにはがす」、「テープをはがした後にしっかりと保湿剤を塗る」という指導をしています。
また、もし皮膚症状が出た場合は、基本的にはステロイド外用剤で対処します。一般的に、経皮吸収型製剤の皮膚症状に対しては、ストロングクラスの薬剤が推奨されています。
急性期統合失調症治療におけるロナセンテープの有効性と安全性:国際共同第3相試験(検証的試験)
急性期統合失調症患者さんに対する、ロナセンテープの国際共同第3相試験:検証的試験の結果はこちらからご覧ください。