統合失調症治療における服薬アドヒアランス向上のためのTips

統合失調症治療における服薬アドヒアランス向上のためのTips

【監修】

山梨大学医学部 精神神経医学講座
教授 鈴木 健文 先生

鈴木 健文先生

統合失調症は再発・再燃、そして再入院を繰り返してしまうことがある疾患で、そうした再発・再燃の最たる要因には、服薬アドヒアランス不良があることが知られています。そこで本コンテンツでは、「統合失調症治療における服薬アドヒアランス向上のためのTips」をテーマに、山梨大学医学部 精神神経医学講座 教授 鈴木 健文先生よりご解説いただきました。

山梨大学医学部附属病院 精神科の特徴と地域における役割

鈴木先生

当科は、40床の精神科病床を有しています。伝統的には気分障害を中心に診療を行っていましたが、近年では難治性を含めた様々な精神疾患を診察しています。修正型電気けいれん療法(mECT)などの専門性が高い治療の提供、近隣の精神科単科病院などでは対応がなかなか難しい、身体合併症を併存する精神疾患の診療も行っています。

統合失調症患者さんは、全体の約2-3割を占めています。病期は急性期から慢性期まで、また、年齢層は若年から高齢の方まで幅広くいらっしゃいます。ただし、大学病院という性質上、初回エピソードの未治療患者さんはほとんどおらず、治療がうまくいっていないなどの何らかの理由から、当科を受診しているケースが大部分を占めています。

鈴木 健文先生

統合失調症患者さんの治療目標

鈴木 健文先生
鈴木先生

幻覚・妄想などの陽性症状を改善させることは比較的難しくなく、評価もしやすいのですが、問題はその先です。例えば、社会機能、QOL、認知機能などは評価がなかなか一筋縄とはいかず、社会復帰などのように治療目標を一律に設定することが必ずしも現実的とは限りません。もちろん、就労をしながら、一般の方と変わらない生活を送ることが理想ですが、個々の患者さんに合わせた治療目標、つまりパーソナルリカバリーを目指すことが重要だと考えています。

外来統合失調症患者さんが再発・再燃する要因

鈴木先生

再発・再燃する要因としてもっとも多いのは、服薬アドヒアランス不良です。服薬アドヒアランス不良となる要因はさまざまありますが、病識の欠如、薬剤による副作用などが挙げられます。また、いくつかの要因が重なっていることもあります。服薬アドヒアランス不良の要因となる副作用もさまざまで、体重増加などの見た目でわかるものもあれば、性機能障害などの自分からは言いにくい副作用で、勝手に服薬を自己調整してしまう方もいます。

服薬アドヒアランス不良以外の要因には、心理社会的なストレスなどがあります。

鈴木 健文先生

服薬アドヒアランス向上のためのTips

鈴木 健文先生
鈴木先生

大きく4つのポイントがあります。

1つ目は、投与回数を簡素化することです。1日2-3回の薬剤よりは、1日1回の薬剤を選択したほうが、患者さんの負担が減り、服薬アドヒアランスの向上が期待できます。また、忘れにくい投与頻度の薬剤を選択することも重要です。例えば、毎日服薬する薬剤の方が、1日おきに服薬する薬剤よりも、患者さんの飲み忘れが少ないという印象を持っています。

2つ目は、副作用が少ない薬剤を選択することです。薬物療法の原則は「Do No Harm(害を及ぼさないこと)」だと考えていますので、体重増加、高プロラクチン血症、過鎮静などの患者さんの服薬アドヒアランスに影響するような副作用を来しにくい薬剤を選択します。

3つ目は、患者さんが「この薬は効く」、「自分に合っている」と実感するような薬剤を選択することです。患者さんご自身が気に入った薬剤は、自発的に継続してくれることが期待されます。

4つ目は、患者さんとの治療同盟を確立することです。服薬アドヒアランス向上のためには、これがもっとも重要かもしれません。「この先生がすすめる薬なら、きちんと飲もうかな」と思ってもらえることを目指します。そのために、私は、診察室で患者さんが笑顔になるよう、病気や治療以外の日常の会話をするよう心掛けています。精神科を受診される患者さんは、普段、笑う体験を忘れていることが多いので、せめて診察室では、笑ってもらえるように心がけています。

4つのポイント

投与回数を簡素化する 副作用が少ない薬剤を選択する
患者さんご自身が気に入った薬剤を選択する 患者さんとの治療同盟を確立する

統合失調症治療における貼付剤の位置付け

鈴木先生

われわれは、「口に入れて飲み込む」という行為を日常的にやっていますが、それを目隠しして、かつ何が入るかわからない状況を想像してみてください。何かわからずに口を開けて、飲み込むという行為は、実はものすごく不気味なことだと思いませんか。

それは患者さんも似ていて、例えば、急性期で病識がないままに入院した患者さんに、「この薬を飲みなさい」と、口に入れて飲み込む行為をさせることは、屈辱感や、得体の知れない不安感を抱かせる可能性があると思います。

一方、貼付剤は、飲み込むというハードルがないので、患者さんは抵抗感が少ないようです。また、目で確認できる安心感もあるようです。さらに、貼付剤は、何かあったらいつでも剥がすことができます。このことは、医師と患者さんの両者に安心感をもたらすのではないかと考えています。

鈴木 健文先生

ロナセンテープを評価しているポイント

「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください 。

鈴木 健文先生
鈴木先生

ロナセンテープの薬物動態をみると、定常状態でのブロナンセリン濃度の日内変動は小さく、最終貼付時のブロナンセリン濃度の最大値と最小値の比は平均1.25であり、別の報告では1.10とされ1)、安定した血中濃度推移を示しました<図1>。

一般的に、経皮吸収型製剤などの血中濃度推移が安定する薬剤は、効果が安定することに加え、経口剤のように有効投与量域の投与であっても一過性の血中濃度上昇により、有効血中濃度上限を超えて副作用発現域まで血中濃度が上昇する可能性は少なく、血中濃度依存的な副作用が出にくいと考えられています。したがって、副作用が原因で服薬アドヒアランスが不良となった患者さんにおいても、有用な選択肢になるかもしれません。

先生方のなかには、「貼付剤は効くまでが遅い」、「効果が弱い」といったイメージを抱いている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ロナセンテープは、急性期の統合失調症患者さんに対する有効性が示されています。

実際、ロナセンテープの国際共同第3相試験(検証的試験)では、有効性の主要評価項目である「6週時でのベースラインからのPANSS合計スコアの変化量」は、40mg群では-16.4、80mg群では-21.3であり、いずれの群もプラセボ群に対する優越性が検証されました。<図2、図3、図4、図5>。

また、ベースラインからのPANSS合計スコアの変化量を各測定時点でみると、80mg群では1週時から、40mg群では2週時から多重性の調整をしない探索的な検定でプラセボ群との有意差が認められました<図2、図3、図4、図5>。

なお、ロナセンテープは通常40㎎/日スタートですが、患者さんの状態に応じて承認最高用量の80mg/日から開始することができ、それでも線条体ドパミンD2受容体遮断が過度となりにくい特徴があります2)

これらの結果から、初発を含む急性期から維持期まで、幅広い病期の統合失調症患者さんに、ロナセンテープは有用な選択肢のひとつになると考えています。

1)Kitamura A, Takagaki T, et al. J Clin Pharmacol. 2021; 61(8):1069–1080
本論文の著者の6名は住友ファーマ株式会社の社員である。
2)Tomita Y, Takagaki T, et al. J Clin Psychopharmacol. 2022;42:260–269.
本論文の著者のうち5名は住友ファーマ株式会社の社員である。

血漿中濃度ー反復貼付(健康成人)
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<図1>

PANSS合計スコアの変化量と推移〔主要評価項目/副次評価項目〕
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<図2>

試験概要①
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<図3>

試験概要②
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<図4>

副作用 二重盲検治療期
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<図5>

私がロナセンテープの使用を検討するケース

鈴木先生

基本的に幅広い患者さんに使用を検討すると思いますが、特に、初発の患者さんには有用性が期待できると考えています。

初発の患者さんは薬物治療に抵抗感がある方もいますが、貼付剤による治療では口に入れて飲み込む必要がなく、治療導入がスムーズであると感じています。これは、「経口薬服用と異なり、何かあったら剥がせる、直ちに投与を中止できる」ことに患者さんが安心感を持っているからだと考えています。

加えて、血中濃度推移を安定させたい、薬物相互作用のリスクが高い、または消化管からの薬物吸収に不安がある患者さんにもロナセンテープの使用を検討します。これらの強みはLAIも同様ですので、「侵襲性」や「利便性」などを踏まえて、患者さんが続けやすい治療を選択するようにしています。

鈴木 健文先生

私がロナセンテープの使用を検討するケース 初発
血中濃度推移を安定させたい
薬物相互作用のリスクが高い
消化管からの薬物吸収に不安がある

急性期統合失調症治療におけるロナセンテープの有効性と安全性:国際共同第3相試験(検証的試験)

急性期統合失調症治療におけるロナセンテープの有効性と安全性:国際共同第3相試験(検証的試験)

急性期統合失調症患者さんに対する、ロナセンテープの国際共同第3相試験:検証的試験の結果はこちらからご覧ください。

ロナセンテープ20mg/テープ30mg/テープ40mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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