外来統合失調症患者の再発・再燃時における「貼る」選択肢の意義

【監修】

医療法人青仁会 青南病院
病院長 深澤 隆 先生

深澤 隆

統合失調症は再発・再燃、そして再入院を繰り返す疾患として知られています。そこで本コンテンツでは、「外来統合失調症患者の再発・再燃時における『貼る』選択肢の意義」をテーマに、医療法人青仁会 青南病院 病院長 深澤 隆 先生よりご解説いただきました。

青南病院の特徴と地域における役割

深澤先生

 青南病院は、青森県八戸市に位置する精神科病院(199床)です。地域に密着した病院を目指しており、多様な精神疾患の患者さんの受け入れはもちろんのこと、地域の医療や福祉、行政からのさまざまな精神科医療ニーズに応えるべく、関係機関との連携を深めつつ、啓発活動も積極的に取り組んでいます。

また、当院は、以前から入院患者さんの地域移行を積極的に進めており、長期に入院している患者さんが少ないことも特徴のひとつです。これは、患者さんが安心して地域生活を送れるように、精神科リハビリテーションや訪問看護、各種のサービスなどを積極的に導入していることや、グループウェアを活用し外来通院中の患者さんに関する様々な情報を適宜共有し、患者さん視点の精神科多職種チームの実践を心掛けていることが背景にあると考えています。

深澤隆先生

統合失調症治療における薬剤選択で重視していること

深澤隆先生
深澤先生

 長期予後を見据えた治療を急性期から実践するように心掛けています。急性期で使用した薬剤をそのまま維持期でも継続することが一般的ですが、そのためには、急性期の症状をしっかりと改善させつつも、治療開始時から副作用や薬物相互作用が少なく、患者さんが長期的に安心して使用できる薬剤を選択することが重要だと考えています。特に急性期は、患者さんにとってつらい時期です。この時期を、患者さんがなるべく早く乗り越えられるよう、陽性症状に速やかに効果を発揮する薬剤を選択することも重要です。

ロナセンテープは、急性期では症状に応じて最大承認用量である80mgから開始することが可能であり、陽性症状の改善を重視した統合失調症の治療における有用な選択肢のひとつだと考えています。さらに維持期においても貼付剤の製剤の特徴や薬理学的な特性から精神症状の安定を図るためにも有用であると考えています。

統合失調症の再発・再燃の前兆(サイン)

深澤先生

 患者さん視点での良好な長期予後を達成するためには、再発・再燃の前兆症状を捉え、適切に治療介入することが重要です。この再発・再燃の前兆(サイン)は患者さんによりさまざまですが、今までとは異なる症状が認められた場合には、非薬物療法的な支援に加え、抗精神病薬による治療介入を検討すべきタイミングです。例えば、不眠、不安、倦怠感などが続いている患者さんに、ひきこもりや緊張、非協調性、行動の変化などを認めた場合は、再発や再燃の可能性を考慮すべきです。

実際、統合失調症で再発が認められた患者33例を対象に再発の前駆症状を後ろ向きに評価した調査では、再発した日本人統合失調症患者の半数以上にみられた前兆期の症状は、再発前1週時では「不眠症」、「不安」、「食欲減退」、「倦怠感」、「心気症」などの他、「非協調性」、「猜疑心」、「興奮」、「幻覚による行動」といった急性期にもみられる症状が確認されました<図1>。

これらの再発・再燃の前兆(サイン)は、限られた診察時間のなかでは、医師は気がつかないことがあります。そのため、私は、外来看護師や訪問看護師、精神保健福祉士などのコメディカルスタッフに時間をかけて症状の観察や聴取をしてもらい、再発・再燃の前兆(サイン)を見逃さないようにしています。また、グループウェアや電子カルテのメール機能なども活用して、些細な変化についてもできる限り把握するように努めています。

深澤隆先生
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<図1>

外来統合失調症患者さんの再発・再燃時における治療方針

深澤隆先生
深澤先生

 外来患者さんに再発・再燃の前兆(サイン)がみられた場合は、症状がさらに悪化しないよう適切に治療介入することが重要です。その際、抗精神病薬の増量や切り替え、併用が必要になることもありますが、さらなる精神症状の変動や悪化を最小限にし、これまでの就労や生活を継続していただくために、個々の患者さんに合わせて抗精神病薬を選択します。

薬剤選択で考慮すべきポイントは、4つあります。1つ目は、ターゲットとする症状への効果発現が速いことです。特に、幻覚や妄想など陽性症状へ確実な効果を示す薬剤が求められます。2つ目は、ご本人が薬剤の有効性を実感できることです。そのためには、患者さんの視点に立ち、改善を希望する症状を特定した上で薬剤選択することが重要です。3つ目は、投与方法が非侵襲的で簡便であることです。患者さんが経口剤を希望する場合は液剤やOD錠を、一方、経口剤に抵抗がある場合もしくは他の剤形を希望する場合などには貼付剤を検討します。4つ目は、薬剤の変更や併用に対する抵抗感が少ないことです。そのためには、新たな副作用や薬物相互作用のリスクの発現が少ない薬剤を選択することも重要です。

これらのことに加えて、薬物の血中濃度推移が安定する(変動が少ない)薬剤は、精神症状の安定と血中濃度の変動による副作用の軽減が期待できますので、就労や生活を継続することを目指した長期の使用にも適していると考えています。

外来患者さんに再発・再燃の前兆(サイン)がみられた場合に考慮すべき薬剤選択のポイント

①ターゲットとする症状への効果発現が速い
②ご本人が有効性を実感できる
③投与方法が非侵襲的で簡便である
④薬剤の変更や併用に対する抵抗感が少ない

外来統合失調症患者さんの再発・再燃時における薬物療法の個別化

深澤先生

 まず再発・再燃時には患者さんの服薬アドヒアランスをできる限り正確に把握することが重要です。その上で服薬アドヒアランスの不良が原因で症状が悪化した場合は、患者さんごとにその要因を確認し、LAIや貼付剤の導入をはじめ、投与方法や投与経路を単純にする、忍容性の高い薬剤へ変更するなど、薬物療法の個別化を検討します。また、複数の要因が重なり服薬アドヒアランスが不良となっている患者さんに「しっかり薬を飲んでください」と服薬の重要性に関する説明を繰り返すだけでは、服薬アドヒアランスの向上が期待できないことがあります。そのため個々の患者さんのニーズや病状、理解力、嗜好、生活環境、支援体制などを考慮した上で、選択可能な薬剤に関する情報を提供します。その後に患者さんの立場に立って最も有益な薬剤を共に探り、決定することも有用な方法のひとつだと思います。また、薬剤選択後も有効性や副作用のモニタリングを継続し、さらに多職種でコンプライアンス支援を強化することも重要です。

服薬アドヒアランスが良好であっても症状が悪化した場合は、内服中の薬剤が有効用量まで使われているかを確認します。様々な理由で維持期では薬剤を減量する場合がありますが、減量しすぎると症状が再燃することがあります。したがって、精神症状と用量、忍容性のバランスを確認し、現在の薬剤に増量する余地があれば先ずは増量して症状をコントロールします。最大承認用量まで増量しても反応が乏しければ、剤形や薬力学的な特徴の異なる他剤に置換し、忍容性を確認しつつ最大限まで増量します。その際に経口薬への反応が乏しい場合には、消化管からの吸収や消化管の運動などの影響を受けない薬物動態的な特徴を有する貼付剤の導入を検討することもあります。また、ドパミンD2受容体への親和性を考慮し、より陽性症状への効果を期待して薬剤を選択することもあります。

深澤隆先生

再発・再燃時におけるロナセンテープの有用性

「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください 。

深澤隆先生
深澤先生

 再発・再燃した外来統合失調症患者さんの薬剤選択肢のひとつが、ロナセンテープです。

ロナセンテープは、薬物血中濃度推移が安定し、日内変動が小さいことが示されています<図2>。
加えて、脳内においてはドパミンD2受容体占有率の日内変動がロナセン錠と比べて小さいことが示唆されています<図3>。

ロナセンテープは、国際共同第3相試験(検証的試験)において、有効性の主要評価項目である「6週時でのベースラインからのPANSS合計スコアの変化量」は、40mg群では-16.4、80mg群では-21.3であり、いずれの群もプラセボ群に対する優越性が検証されました<図4、図5、図6、図7>。

また、ベースラインからのPANSS合計スコアの変化量を各時点でみると、80mg群では1週時から、40mg群では2週時から多重性の調整をしない探索的な検定でプラセボ群との有意差が認められました<図4、図5、図6、図7>。

本試験の結果から、私は、外来患者さんが再発・再燃した際は、上記の「ターゲット症状への効果発現の時期」、「本人が有効性を実感できる」という観点から、忍容性を考慮し精神症状に応じてロナセンテープ40~80mgを適切に選択します。例えば、外来通院で、陽性症状が動揺したり残存したりしている場合で、症状の安定やさらなる改善を目指したい患者さんには、40mg/日で開始し、効果が不十分であれば速やかに80mg/日へ増量するようにしています。一方、急性期に入院となった場合には、幻覚や妄想などの陽性症状が顕著で隔離などの行動制限が必要な患者さんや、精神運動興奮や陽性症状に影響を受けた言動を認める患者さんには、ロナセンテープを80mg/日で開始します。

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<図2>

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<図3>

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<図4>

試験概要①
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<図5>

試験概要②
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<図6>

副作用 二重盲検治療期
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<図7>

剤形特性から考えるロナセンテープの有用性

深澤先生

 ロナセンテープが発売された当初は、実は、患者さんやご家族に受け入れてもらえないのではないかと考えていました。しかし、実際に処方してみると、患者さんやご家族からの受け入れは良好でした。

その理由は大きく2つ考えられます。1つは、「貼る」という行為により、患者さんが「自ら治療に積極的に参加している」という感覚が持てるからだと思います。日常生活の中でまたは診察や看護師の訪問の際などに、ご家族や医師をはじめとする医療従事者と一緒になって治療をしているという印象を患者さんに感じていただくことで、服薬アドヒアランスの向上にもつながると考えています。

もう1つは、経皮吸収型製剤であるが故の貼る、貼って貰う安心感があることです。ロナセンテープは注射剤に比べ痛みを伴わず、視覚的に服薬アドヒアランスを確認できることから、上記の「投与方法が非侵襲的で簡便である」といった理由から選択していただいていると思います。また、いつでも剥がして投与中止することができることから、上記の「薬剤の変更や併用に対する抵抗感が少ない」という薬剤選択のポイントに合致し、患者さんの安心感につながっているようです。

これらのことより、ロナセンテープはより高く確実なリカバリーを達成するための治療の選択肢として患者さんにも安心して選択して頂けるものと考えており、実臨床では積極的に勧めています。

深澤隆先生

私がロナセンテープの使用を検討するケース

・外来通院で陽性症状が動揺したり残存し、症状の安定やさらなる改善を目指したい患者さん
・投与回数や錠数が多く、服薬方法が煩雑で負担を感じている患者さん
・視覚的に服薬アドヒアランスを確認したい患者さん
・消化管の状態の影響で薬物吸収に不安がある患者さん

急性期統合失調症治療におけるロナセンテープの有効性と安全性:国際共同第3相試験(検証的試験)

急性期統合失調症治療におけるロナセンテープの有効性と安全性:国際共同第3相試験(検証的試験)

急性期統合失調症患者さんに対する、ロナセンテープの国際共同第3相試験:検証的試験の結果はこちらからご覧ください。

ロナセンテープ20mg/テープ30mg/テープ40mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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