【POINT.1】誤った情報を含め情報過多の患者さんに、知識・知見に基づいた適切な情報を伝える

林 一美 氏株式会社ナカジマ薬局 西円山店 / 店長

精神科薬物療法の変革期を経て、外来服薬指導の重要性に着目し薬局へ

私が務めた病院は100%院外処方で、門前薬局さんとは親しく、毎回、病院の勉強会に出てもらうなどの連携をしていました。病院での10年間は、ちょうど非定型抗精神病薬が次々と発売され、ダイナミックに精神科薬物療法が動いた時期でした。当初は朝から晩まで、眼鏡も真っ白になるくらい粉まみれで調剤をしていました。その後、新たな薬が出てくると、追加処方ばかりでCP換算値は増え、何とか減らしたいとの思いから、医師への処方提案や家族会への介入など、チーム医療に関りました。いわば精神科薬物療法の過渡期だったと思います。

次第に入院期間は短縮し、精神疾患の患者を地域で見守るという流れになりました。今後は外来での服薬支援がますます重要になると考え、外来患者さんのことを知りたい、病院薬剤師としての経験を伝えたいと思い、そして定年という節目もあり、ナカジマ薬局に転職しました。

副作用が先行する領域だけに、過不足のない個別最適な情報提供が望まれる

お薬受取口はプライバシーに配慮し、パーティションを設けたブース型のほか、完全個室が用意されている

当薬局では精神科病院と異なり統合失調症や認知症など症状が重めの方はあまりおらず、パニック障害や不安障害、睡眠障害といった神経症圏の患者さんがほとんどです。最近では若い方の適応障害、社会不安障害が多くなっています。一般的にも精神科に対する偏見も薄らぎ、気軽に受診するようで、メンタルクリニック自体は増加傾向にありますが、予約もなかなか取れないという状況です。私たち薬剤師も、昔は精神科の処方に身構えてしまうことがありましたが、大分薄れたと思います。それでも、経験がなかったり、経験が浅ければ、緊張してしまうかもしれません。過剰に身構えていると、患者さんに伝わり、コミュニケーションが取りづらくなります。

副作用のことも、つい話したくなりますが、全部言ってはいけません。精神科の場合、どうしても副作用が先行するので、ドクターとしてはアドヒアランスに影響するため、「言ってくれるな!」というのが本音だと思います。

しかし、いまは患者さん自身が積極的に情報収集し、誤った情報も含め、いわば情報過多になっています。必要以上のこと、不安になるようなことは言いませんが、隠すことは得策ではありません。薬情など紙に残る情報はスリム化し、患者さんの上を行く知識、知見をお伝えしています。

「いま、どこまで話すべきか?」を熟考しつつ、必ず今後の見通しを伝える

抗精神病薬の適応拡大により薬局では病院と違い処方箋だけでは病名も分かりづらく、近しくドクターと話す機会も少ないため、治療方針を共有しづらい状況にあります。したがってドクターがどこまで話しているのかは分かりません。患者さんとの対話で探りつつ、「現状では、どこまで話すのがよいか」と必ず考えています。

患者さんも情報収集しているので、「本当に、この薬でいいんだろうか?」と思っていたり、「実はこれを飲んでみたかった」「自分には○○が良いに違いない。でも、これが出ちゃった」などと思っている場合もあります。また、薬を飲むとどうしてもだるい、眠い、ムカムカするなどの症状を訴える患者さんもいらっしゃいます。私は、「一過性の症状で、あとから効果は付いてきます」など、その時の会話の中でタイミングを見計らいながら、今後の見通しを必ず伝えるようにしています。そのためには適正な知識は必須です。

クリニックは予約制ですので、話をする時間もあり、来られる患者さんのことは全員知っていますので、“かかりつけ”のような形になりますが、距離感を大事にしています。患者さんは、どうしても様々な相談をしたがりますが、そうすると依存してしまう可能性があります。こちらも病態を知る手がかりを掴もうと悩みを聞きがちになりますが、意識して深く踏み込み過ぎないようにしています。勿論、全部受け止めますという態度で傾聴することは大事にしています。