【POINT.2】管理栄養士と協働し食事指導と運動指導で、切実な「肥満問題」に対応

林 一美 氏株式会社ナカジマ薬局 西円山店 / 店長

処方箋では読めない院内注射の存在を見出すコミュニケーション力が大切

精神科の場合、薬剤の影響による肥満は少なくありません。体重増加は皆さん切実な問題です。

例えば、精神科の処方内容を見る限り、特に問題なく、「これほど太るのはなぜだろう?」という患者さんがいらっしゃいました。よくよく話を聞くと、持続性注射剤、いわゆるデポ剤を打っていました。処方箋情報だけでは、院内で注射を打っているかどうか分かりませんので、必ず確認するようにしています。飲んでいる薬との関係性から、注射剤が推測されることはありますが、精神科の場合は分かりづらいので注意が必要です。

当社では、複数人の管理栄養士がいますので、連携して積極的な栄養相談・指導並びに運動指導を行っています。大体、女性が8割を占めますが、当薬局では何らかの形で、栄養相談を受ける方は少なくありません。

その中でも現在、積極的に定期相談を受けている方は4人ほどいらっしゃいます。毎日のように食事の写真をLINEで送り、管理栄養士が、「これは何キロカロリーで、何が足りない」などの対応をするほか、簡単調理のメニュー紹介などをしています。栄養指導といっても、調理が苦手な方にはコンビニの食べ物では、こういう点に気を付けましょう、といったアドバイスもしています。さらに、運動指導ではタオルを使った運動、立ったままの腹筋など、気軽な運動の動画をYouTubeなどで送り、役立ててもらっています。管理栄養士からは、必要に応じて栄養相談の内容が、薬歴の中に入ってきますので、その情報も踏まえた処方提案等、医師にフィードバックしています。

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栄養相談等の内容を反映したドクターへのフィードバック例

どんなに患者さんに合った薬剤でも、体重が増えてしまうと、継続できなくなります。直近の患者さんの事例ですが、症状は良くなったけど20㎏太ったという方がいます。20㎏も増えると、外に出なくなるだけでなく、昼夜逆転もあり得ます。何もしなくなり、食べ物にも興味が無くなり、太る物しか食べなくなります。なお、その患者さんは今では体重が戻り表情も明るくなりました。精神科において、体重が減るということは、「少し外に出てみようか⁉」という気持ちにもなり、生活にリズムが出るなど、その効果は幅広いものがあります。

患者さんが安心して服薬継続できるように、適宜テレフォンサポートを実践

栄養相談の結果や、他院の処方との関係で、減量してもらいたいという時などにフィードバックレポート(服薬情報提供書)を用いて、ドクターに報告しています。クリニックには基本的には持っていきますが、急ぐときはFAXで送るときもあります。他の医療機関については、お手紙で送るようにしています。

また、投薬後のテレフォンサポートもしています。例えば、新たに服薬を開始される方や、手技の理解度の確認、あるいは処方が変更された時に副作用を見極める時期に電話を入れるなどし、患者さんが安心して服薬継続ができるようにお手伝いしています。ただ、精神科については、どうしても必要なケースに絞って行っています。本来は必要時には毎回した方がいいので、先生と連携しつつ、少しずつ頻度を増やすことができればなと思っています。

「一度に全て聞き取らない・説明しない」「カウンセラーではない」が留意点

現在は新人研修に携わっています。そのなかでいくつか重視していることがあります。

これは精神科に限りませんが、処方箋だけでは病名が分かりません。そのため処方内容から考えられる臨床症状を推察しながら、確認を進めていく必要があります。ただ、「一度に全てを聞き取ろうとしないこと」を心掛ける、逆に薬の説明も一度に全部しないように気を付ける必要があります。特に精神科では病気のことをあまり話したがりません。しかし信頼関係が構築されると自然と困っていることなどを話してくれるようになります。

そこで気をつけなければならないことは、「薬剤師はカウンセラーではない」ということを自覚することです。繰り返しになりますが、適度な距離感を保つことが大事です。ただ、患者さんは家に籠りがちの場合もありますので、いつでも受け止めますという気持ち、構えで向き合うことも大事です。

私たち薬剤師の心配りが服薬に対する姿勢に少なからず関わっているということを伝えていきたいと思っています。元々、若い薬剤師さんに精神科医療の実際を伝えられればなという思いもあって、薬局に勤めたので、その機会をいただきありがたく思っています。