【POINT.1】医師と患者との“治療契約”が壊れないよう、常に共感と傾聴を心掛ける

鈴木 弘道 氏アルテ薬局/管理薬剤師

病院勤務での経験を活かし、処方医の治療プランを想定して患者対応に反映

私は大学卒業後、茨城県内の地元チェーン薬局、総合病院で勤務した後に、水戸市やひたちなか市を含め広く地域住民の精神医療サービスを担う栗田病院(茨城県那珂市)に15年ほど勤務しました。外来処方箋はほとんどが院外処方でしたので、主に病棟業務を担当していました。2019年10月に、栗田病院グループの「こころのクリニック水戸」がオープンするのに合わせて独立し、アルテ薬局を開設しました。クリニックの院長は栗田病院で10年ほど一緒に勤務し、親しくしています。クリニックには常勤医師の院長、副院長のほか非常勤を含め5人体制で、診療は完全予約制となります。

総合病院から栗田病院に移るときに、日本病院薬剤師会の精神科薬物療法認定薬剤師制度が創設されるというタイミングでしたので、将来的な研修認定施設の指定なども想定して、精神科専門薬剤師認定を取得しました。

いまは保険薬局で日々、外来患者さんに接していますが、服薬指導の際も「きっとこういう治療プランなんだろうな」と、処方医の治療意図を想定して、患者さんの話を聴いています。そのためか保険薬局でも患者さんとのコミュニケーションを苦にしたことはありません。病院での経験が生かされているのだろうと思っています。

良好なアドヒアランスの維持を念頭に、患者さんに寄り添っていく

患者さんと接する上での留意点としては、説明しすぎない。無理に説明しないということは心掛けています。一般の薬局においては、薬剤師が何も説明しないということになってしまうかもしれませんが、30分くらい患者さんの話を聴いていることも少なくありません。私は「そうなんだ・・」というくらいしか言いませんが、それでも話していかれます。

病院薬剤師のころは、入院患者さんが中心で、積極的に治療に関わり、いわば患者教育的な立場で接していたと思います。

保険薬剤師になってからは、アドヒアランスを良好に保つよう患者さんに寄り添っていくという感じです。勿論、服薬指導も大事ですが、話を聴きながら「辛いね・・・」と共感し、傾聴し、その患者さんと主治医との「治療契約」が崩れないように心掛けています。

病院時代の患者層としては統合失調症の方が多く、いまも薬局に外来で来られますが、新規の患者さんとしては、うつ病や双極性障害の方が多くいらっしゃいます。そういうなかで、処方医がなかなか患者さんの思うような処方変更をしてくれない時もあります。その時は「先生は考えてくれてるよ」「今回は、体調の変化の様子をもう少し診たいんだね」と、処方医のフォローとまではいきませんが、治療契約を意識して患者さんに寄り添うことが大事かなと思っています。

処方変更がされても、その患者さんが想定していたような感じではなかった場合にも、「先生もいろいろと考えてくれて、良かったね」というように、治療契約の維持・継続を重視した対応をしています。

副作用がなければ「良かったです」の一言から、変わる患者さんとの関係性

患者対応のなかで副作用を確認することは大事です。そこで、「○○の症状はありましたか?」と聞くと、患者さんが「無かったです」と答えたとします。「そうですか。分かりました」と返すことが多いように思いますが、私は、「一般的に○○のような副作用があるので心配していました。副作用が無くて良かったです」と、その患者さんに対する自分の気持ち、思いを伝えるようにしています。

そうすると患者さんの表情は和らぐのです。副作用に限らず、何か話を聴いて、「はい、わかりました」というように、一方的というか業務的に、いわば調剤報酬算定上の項目を聞きとっていくだけでは、ずっと表情はこわばったままです。

「良かったです」と、思いを一言伝えるだけで、患者さんの表情は和らぎ、そして次の一言が出てきます。その一言から、私が想定していた副作用ではなく、別の副作用をこの患者さんは感じているのではないかと、薬学的評価につながりやすくなります。

もし患者さんが何か感じていたとしても、「何もない」と言われれば、何もないことになってしまいます。明らかに手が震える錐体外路症状など、表に現れる症状がなければ、実際のところはよく分かりません。恐らく一般の薬局薬剤師さんは、あまり関わりたくないのかも知れませんが、副作用が出なかったとしたら、きっと心の中で良かったと思うはずです。その良かったという思いを是非、声に出して伝えてあげればいいと思います。そうすることでコミュニケーションが取りやすくなると思います。