末延 竜哉氏株式会社サンキュードラッグ コミュニティケア事業部在宅支援在宅マネージャー


今回紹介させていただく症例はサービス付き高齢者住宅に入居中の方となります。薬剤師による居宅療養管理指導が開始した後、管理栄養士が続けて介入することになりました。新型コロナウイルスが流行する以前のことであったので、ご家族と定期的に顔を合わせることができていました。薬剤師はケアマネージャーと共に医師の訪問診察に同行しており、施設職員との連携を密に行っていました。

訪問薬剤指導での支援が開始となった直後、食事介助を行っている施設職員の方から食事量が低下しており体重が減少していると相談がありました。経腸栄養剤が開始となりましたが意欲の低下、血中アルブミン値の低値が見られたため管理栄養士に協力を依頼しました。

初回介入では食の嗜好聞き取り調査、体重測定、簡易栄養状態評価表による状態確認を実施しました。低栄養状態であると判断され訪問計画を策定し、ご家族に対し効率的で美味しく栄養が摂れる商品の紹介・提供等サポートを行い、患者訪問では食事状況や体重推移を確認し多職種へ共有することになりました。

実際の食事支援では、出身地のご当地グルメについてお話している中で「懐かしいね」と興味を示されたものについて栄養価を高めたレシピを検討し提供しました。また、食事にプラスする食品としてMCT(中鎖脂肪酸)含有の商品を紹介しました。MCTは効率よくエネルギー摂取できる点と、グレリン(食欲増進ホルモン)を活性化することが示唆されており食欲が回復することを期待して追加されました。

また、同時期に認知症治療薬の検討が行われました。食欲不振が続いていたことを考慮し、内服薬の増加を避け貼付剤での治療を医師に提案しました。開始となった薬剤はブチリルコリンエステラーゼの阻害作用を有しており、これはグレリンの分解を抑制する作用も示します。

管理栄養士と薬剤師の介入後、徐々に食事量が増えていき体重の増加がみられました(図)。

今回の例では、MCTによるグレリンの活性化と薬剤による分解の抑制の異なるアプローチが相乗効果を生んだ可能性があります。また、介助する周囲の方々の食への理解が深まり、食事状況と低栄養状態が改善した時点で管理栄養士の支援は終了となりました。

食事量が増えると意欲が増し、運動量が増えることで食欲が増す好循環が生まれフレイル予防となります。食生活の基礎が整うと薬物治療のコンプライアンスも向上します。在宅高齢者の低栄養状態では複数の疾患を併発している例が多いとされています。疾患の治療にあたる上で、食事状況や栄養状態に目を向け専門家である管理栄養士と共同して生活を支援する機会と制度が増えることを期待しています。