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【第3回】がん患者の苦痛の理解
下川 友香理氏総合メディカル株式会社 上席執行役員 薬局事業本部長 学術情報部長
そうごう薬局 天神中央店では「がん対話カフェin天神」と称し、2013年3月から、毎月1回土曜日14時から16時まで、がん患者の方々の気持ちに寄り添い、不安や疑問を解消する場として、薬局の相談スペースで薬剤師と1対1で2時間お茶を飲みながら会話する取り組みを実施しています。事前申込み制ですが、特に会話のテーマを決めることなどはせず、その時に患者が不安に思っていることを自由に話してもらいます。
私たち薬剤師が通常応対するのは薬学的管理ですが、がん患者さんの多くに心理面が治療に影響を与えている様子をお見受けします。そこで、がん対話カフェでは、がんと診断されショックを受けた時から、治療の経過や現在の悩みなど思っていることを吐き出していただきます。私たちは同意したり理解を示したり寄り添いながらその話をじっくりと傾聴します。患者さんは思いを吐き出し、自身の気持ちの整理が出来てくるのか、1時間ほどお話を伺うと、満足したような表情を見せてくれます。その後は治療方法や副作用、医療費、家族との関係などについても質問が出てきますので、真摯にお答えしていきます。医師から提示された治療方法の選択についても相談されることもありますが、その時は一般的な情報として副作用やスケジュールの違いを説明するなど、知識面での手助けをしています。私たちがいつでもお話を聞き、受け入れるという態勢を示すことで、安心した表情で帰られます。
がん対話カフェでは様々な相談が寄せられます。心理面では、がんになったことへの苦しみや過去への後悔、治療に対する不安、家族への想い、再発への不安、死に向き合う方法、自分自身の生き方、同じ疾患を持つ他の患者のこと、医師や病院に対する不満などがあります。治療面では、治療方法や副作用(種類、対処法)、緩和医療、治療を拒否する選択などが相談されます。生活面では、経済的な問題、仕事に関すること、生活上の困難、家族との関係、健康食品についてなどがあります。
がん対話カフェで寄せられた相談の例
相談を受ける薬剤師にとって、2時間傾聴を続けることは、患者との関わりが深くなる反面、受け止める事が辛くなることもあります。しかし、何度もがん対話カフェの開催を続けることで、通常の短い服薬指導の時間で十分に把握しきれなかった患者の悩みや苦しみを理解し寄り添えるようになりました。
キューブラー・ロスの「悲嘆の5段階」をご紹介します。これは、がんなどの衝撃的な診断を受けた場合に適応される、死を受け入れていく悲しみのプロセスを、否認・怒り・取引・抑うつ・受容の5段階でモデル化したものです。私たちはがん対話カフェや薬局の窓口で服薬指導する際、この「悲嘆の5段階」を意識して対応しています。治療が進むにつれて、このプロセスが必ずしも順番通りに進んで受容へ至るわけではなく、逆戻りすることもあります。患者さんが現在どの段階にいるのかを常に意識することを心掛けることで、その時の応対を変えるようにしています。
保険薬局において私たち薬剤師は積極的に治療に向き合う患者と共に歩み、支援する準備を整えることが求められていますが、その前に医療者として、その方の命に関わることに感謝し、真剣に向き合う覚悟を持つことが必要であると思います。