第1回 都市型クリニックにおける精神科医療の役割と治療について

仮屋 暢聡先生

出演・監修:仮屋 暢聡先生
(まいんずたわーメンタルクリニック 院長)

本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針、ラツーダへの期待などをお伺いします。
今回は、東京の都心に位置しているまいんずたわーメンタルクリニック 院長の仮屋 暢聡先生に、都市型メンタルクリニックの役割や、双極性障害治療のポイントをご解説いただきます。

まいんずたわーメンタルクリニック の特徴と役割

 当クリニックは、新宿駅から程近い場所に位置しています。アクセスがよく、夜の8時まで診療しているため、近隣で働いている社会人や学生などの患者さんが多く受診されます。疾患の特徴としては、軽症のうつ、不眠症、不安障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の方が比較的多いです。

 このように働き世代の患者さんが多いため、当クリニックでは、復職へ向けたリワークプログラムを実施しています。リワークプログラムでは、10名程度の小集団による6ヵ月のプログラムを通じて、生活リズムの安定、作業遂行能力の回復、コミュニケーション能力の向上などを図ります。当クリニックには作業療法士と臨床心理士が常勤していますので、主に彼らがプログラムを担当してくれます。このプログラムで、患者さんが疾患や治療についての知識を身につけ、自己理解を深めることで、再発が少なくなるように感じています。また、東京都立大学や電気通信大学と共同でウェアラブルデバイスを用いた研究を行っており、リワークプログラムに参加された患者さんの回復度を可視化できるように試みているところです。

仮屋 暢聡先生

リワークプログラム

平日の週5日、10:00~16:30が活動時間となっております。原則週2日からの開始となります。
その後、出席率や回復状態に合わせて参加日数を増やしていきます。

                                         
午前 ・ストレス
 マネジメント
・個別活動
・心理教育
  (第2・4)
・個別活動   ・グループワーク
・個別活動
・散歩
・個別活動
・職場復帰準備性
 評価
  (第1・3)
午後 ・SST
・散歩
・散歩
・個別活動
・健康管理の話
  (第1・3)
・散歩
・個別活動
 (第1水:休)
・散歩
・個別活動
・ミーティング
  (第3)
・集団活動
  (第4)
・要約課題
・個別活動

 また、当クリニックでは、将来よりよい医療を提供するために必要な臨床試験にも積極的に取り組んでおり、患者さんのご協力を得て、薬剤承認申請に必要となる試験データを提供しています。後ほど詳しく説明しますが、最近、日本で双極性障害と統合失調症の治療薬として承認された薬剤の審査データにも使われました。

双極性障害診断の課題

Q 仮屋先生のクリニックでは、双極性障害の臨床試験を多数実施されており、双極性障害の治療経験も豊富にあると聞いています。双極性障害の現状と課題についてお聞かせ下さい。

 双極性障害は、他の疾患と区別しにくいため、他の診断がついてしまっているケースなどがあります。特に、双極性障害におけるうつ症状と単極性うつ病の症状は類似しており、鑑別が難しく、誤診されてしまっているケースが少なくありません。この理由のひとつとして、診断する医師がもっている双極性障害に対するイメージが挙げられるかもしれません。精神科医の経験から言うと「興奮している躁状態、重篤なうつで自殺企図を起こしたとかで、入院している状況」の双極性障害の患者さんを診ている人が多いんです。しかし、クリニックなどに来院される双極性障害うつの患者さんの症状は、軽度なうつや不安です。そこから双極性障害をあぶり出さなければなりません。診断のポイントは、大きくふたつあります。ひとつは、目の前の患者さんが双極性障害の可能性がある、ということを常に念頭に置くことです。日本でも双極性障害患者さんは想像以上に多く潜在していますが、見逃されています。軽度なうつや不安であっても、双極性障害を疑い、鑑別することが重要です。もうひとつのポイントは、必ず過去の躁病や軽躁病エピソードを確認することです。本人は、調子がよかったときのことは覚えていないこと多いですので、当クリニックでは、問診票に過去の仕事や学業について記載する欄を設け、過去のエピソードを時間をかけ把握するようにしています。そうすると、つじつまの合わない、どう考えても「何でここで転職をするんだろう」、というような部分がみえてきます。そこをうまく紐解くと、実は、躁や軽躁状態であったということが判明することがあります。

双極性障害診断の2つのポイント

目の前の患者さんが双極性障害の可能性がある、ということを常に念頭に置くこと

必ず過去の躁病や軽躁病エピソードを確認すること

双極性障害治療の課題

 双極性障害におけるうつ症状は難治性で、治療選択肢が限られていることが大きな課題です。そこで、苦肉の策として、双極性障害におけるうつ症状に効果があるというエビデンスは定かではない抗精神病薬や抗うつ薬が使用されるケースがあります。特に、クリニックなどでは、「目の前の患者さんの症状をとにかく取り除いてあげたい」、「患者さんの満足度を上げたい」、「患者さんに寄り添いたい」という気持ちが強すぎるために、抗うつ薬を処方しているケースが散見されます。さらに、症状がよくならないので薬剤をどんどん足していってしまい、多剤併用療法に陥ってしまっているケースもあります。

仮屋 暢聡先生

双極性障害におけるうつ症状 に対するラツーダの位置づけ

仮屋 暢聡先生

 このような治療にアンメットメディカルニーズが存在する状況のなかで登場したのが、ラツーダです。
 私は、双極性障害におけるうつ症状を対象にラツーダの効果、安全性を評価した臨床試験(ELEVATE試験)に治験責任医師として参加しました。この試験は、特に質にこだわった試験で、双極性障害の診断と薬効評価を治験担当医師と第三者機関のダブルで確認することで、多数の施設が参加する臨床試験の診断、評価の水準を保つようにデザインされた試験でした。その質にこだわった信頼性の高い試験で、難治性といわれる双極性障害のうつ症状に対する有効性が検証されたことは、大いに評価できるものであると考えています。この試験結果から、ラツーダは、双極性障害うつ症状治療の第一選択薬のひとつだと、私は思います

ELEVATE試験は質にこだわった試験

双極性障害の診断と薬効評価を治験担当医師と第三者機関のダブルで確認することで、多数の施設が参加する臨床試験の診断、評価の水準を保つようにデザインされた

実臨床におけるラツーダの使い方

 双極性障害のうつ症状で困っているすべての患者さんがラツーダの対象になると思います。つまり、新たに診断された患者さんはもちろん、他の治療薬を使っていても十分な改善が得られない双極性障害におけるうつ症状を呈する患者さんにも使っていただくのがよいのではないでしょうか。また、体重増加やプロラクチンに対する影響が懸念される若い女性への選択肢にもなり得ると考えています。
 双極性障害におけるうつ症状の改善としての効能又は効果で、承認されているラツーダの用量は20mg-60mg/日です。私は、20mg/日から開始し、無理に増量せず、しばらくの間、効果と忍容性を確認します。2-3週間で効果を実感される患者さんもいらっしゃいますが、双極性障害うつ症状の回復のイメージとしては、3ヵ月から6ヵ月のスパンでみて、「そういえばこの症状がなくなっていた」、「〇〇ができるようになっていた」などのような緩やかなものです。焦らずにじっくり治療することが大事だと思います。患者さんが効果に気がついていないこともありますので、その場合は、具体的に改善点をフィードバックしてあげることも、治療を継続し、回復につなげるために重要なことだと思います。

仮屋 暢聡先生

ラツーダへの期待

仮屋 暢聡先生

 ラツーダは、日本より先行して発売されている米国において、ブロックバスターとして認知され、海外では推計200万人以上(2019年10月末現在)の患者さんに使用されています。このたび、日本人を含んだ臨床試験であるELEVATE試験で有効性と安全性が検証され、日本でも使用できるようになりました。ラツーダは、つらい双極性障害のうつ症状に苦しむ患者さんの福音になると考えています。

ELEVATE試験

 本試験の対象は、双極Ⅰ型障害患者(大うつ病エピソード)525例です。対象をプラセボ群、ラツーダ20-60mg群、ラツーダ80-120mg群に無作為に分け、治験薬を1日1回夕食後に6週間経口投与しました。
 有効性の主たる解析はITT集団を対象として実施しました。有効性の主要評価項目は治療群、評価時期、実施医療機関、MADRS合計スコアのベースライン値、および治療群と評価時期の交互作用を含むMMRM法を用いて解析し、検定の多重性はHochberg法で調整しました。
 安全性の解析は安全性解析対象集団を対象として実施しました。

注)ラツーダ80-120mgは承認外用量です。

 主要評価項目である6週時のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−10.6、ラツーダ20-60mg群−13.6、投与群間の差−2.9と、ラツーダ20-60mgはプラセボに比べてMADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。
 また、副次評価項目であるベースラインからの変化量は、ラツーダ20-60mg群では投与開始2週目よりプラセボと比べ有意な改善が認められました。

注)最大承認用量の60mg/日までの結果を示します。

 MADRS項目別スコアのベースラインからの変化量をお示しします。うつ症状の中核症状である「外見に表出される悲しみ」や「言葉で表現された悲しみ」など、各項目のスコア変化量はこちらに示すとおりです。

 副作用発現率は、プラセボ群55例(32.0%)、ラツーダ20-60mg群71例(38.6%)、ラツーダ80-120mg群87例(51.5%)でした。
 発現頻度5%以上の副作用は、プラセボ群ではアカシジア11例(6.4%)、悪心8例(4.7%)、ラツーダ20-60mg群ではそれぞれ24例(13.0%)、12例(6.5%)、ラツーダ80-120mg群ではそれぞれ38例(22.5%)、18例(10.7%)などでした。
 重篤な副作用は、プラセボ群1例1件[躁病1件]、ラツーダ20-60mg群0例、ラツーダ80-120mg群2例2件[自殺企図、パニック発作各1件]に認められました。
 投与中止に至った有害事象は、プラセボ群7例[好中球減少症、急性心筋梗塞、胃炎、悪心、嘔吐、疾患進行、アカシジア各1例]、ラツーダ20-60mg群6例[嘔吐、機能性胃腸障害、肝障害、アカシジア、躁病、自殺念慮各1例]、ラツーダ80-120mg群16例[悪心4例、疾患進行、アカシジア各3例、嘔吐、腱断裂、筋骨格硬直、ジストニア、不眠症、呼吸困難各1例]に認められました。
 試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。

 本試験では臨床検査値への影響も検討されています。6週時の体重のベースラインからの変化量は、プラセボ群−0.22kg、ラツーダ20-60mg群0.23kg、ラツーダ80-120mg群0.22kgでした。血糖に関しては、HbA1cが、プラセボ群−0.01%、ラツーダ20-60mg群0.02%、ラツーダ80-120mg群0.02%でした。

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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