第7回 統合失調症治療におけるラツーダの使い方のポイント

吉永 陽子先生

出演・監修

吉永 陽子先生(長谷川病院 院長)

本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針、ラツーダへの期待などをお伺いします。
今回は、前回に引き続き長谷川病院 院長の吉永 陽子先生に、統合失調症治療におけるラツーダの使い方のポイントについてご解説いただきます。

急性期の統合失調症治療における薬物療法のポイント

吉永 陽子先生

 急性期の統合失調症治療では、維持期を見据えて、副作用を来しにくく長期で使用できる薬剤を単剤で使用することを基本としています。興奮を呈している患者さんであっても、基本的には単剤治療です。興奮している患者さんに対しては、「なぜ興奮しているのか」を探索した上でアプローチを行います。患者さんが大声を上げたり、暴れたりしているのには、原因があるのです。この興奮の原因として多いのが、恐怖や不安です。これらの興奮の原因を探り、説明をして取り除き、その上で薬物療法を開始することが重要です。
 患者さんは、興奮期のことも覚えておられることが多いです。興奮を呈している急性期の患者さんにも、しっかりと説明してから薬剤を開始することで、「あのとき、先生は一生懸命話しかけてくれた」、「先生は僕を助けようとしてくれていた」などのように感じてくれ、その後の治療もやりやすくなります。

ラツーダへの評価

 急性期における主要なターゲットである陽性症状に対して十分な有効性を発揮する薬剤だと評価しています。加えて、JEWEL試験でも示された通り、陰性症状、不安/抑うつ、認知障害などについてもメリットをもたらすと考えています。
 また、過鎮静を来しにくいことや、安全性の観点から、長期にわたる服薬が必要となる患者さんに適した選択肢になると考えています。
 ラツーダがようやく日本で使用できるようになったことは、多くの患者さんの福音になるのではないでしょうか。

吉永 陽子先生

ラツーダの投与が適した患者像

吉永 陽子先生

 急性期の、特に注察妄想や被愛妄想を呈している患者さんに適した選択肢になるのではないかと考えています。いまのコロナ禍では、統合失調症患者さんのなかにも、「私はすでにコロナにかかっています」とおっしゃる方がいます。そういった妄想を呈している方に実際に使用しています。また、陰性症状にも有効という印象なので、慢性期の不安や抑うつ症状を呈している患者さんの選択肢にもなると思います。
 統合失調症の興奮は、不安が原因になっていることが多いので、陽性症状と陰性症状の両方にアプローチすることが大切です。しかし、これら両方の症状に効かせようとすると、多剤併用になってしまうこともあります。ラツーダは、陽性症状と陰性症状の改善を単剤で目指せる統合失調症治療薬だと考えています。

ラツーダの服薬説明

 ラツーダには服薬説明用の資材がありますので、この資材を用いて患者さんに説明しています。この資材は心理教育の一環としても役立っています。
 統合失調症には、陽性症状、陰性症状、不安・抑うつ、認知機能障害の主に4つの症状があります。周囲の人はどうしても幻覚・妄想などの陽性症状に目を向けがちなのですが、実は患者さんはこれらの症状には困っていないこともあります。陰性症状、不安・抑うつ、認知機能障害など、日常生活で患者さんが本当に困っている症状を、この資材を見せながら見つけ出し、お薬でその症状を取り除いていきましょうと説明しています。

JEWEL試験

ここから、本邦において統合失調症の適応症を取得する根拠となった第3相試験、JEWEL試験をご紹介いたします。

試験概要

有効性

 主要評価項目である6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−12.7、ラツーダ40mg群−19.3、投与群間の差−6.6と、統計学的に有意であり、ラツーダ40mgのプラセボに対する優越性が検証されました。また、effect sizeは0.410でした。
 副次評価項目である各来院時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ40mg群で投与2週目よりプラセボ群と有意差が認められ、その効果は6週時点まで継続しました。


 PANSS 5因子モデル別スコアのベースラインからの変化量については、急性期で特に問題となる陽性症状をはじめ、興奮、陰性症状、不安/抑うつ、認知障害のいずれの項目においても、ラツーダはプラセボに比べてスコアを有意に低下させることが示されました。

安全性

 副作用発現頻度は、プラセボ群57例(24.3%)、ラツーダ40mg群69例(27.9%)でした。発現頻度が2%以上の副作用は、プラセボ群では不眠症12例(5.1%)、統合失調症11例(4.7%)、不安9例(3.8%)などで、ラツーダ40mg群では頭痛、アカシジア、統合失調症が各10例(4.0%)などでした。
 重篤な副作用は、プラセボ群2例2件[統合失調症、自殺企図各1件]、ラツーダ40mg群1例1件[統合失調症1件]に認められました。投与中止に至った有害事象は、プラセボ群15例[統合失調症11例、手骨折、精神病性障害、敵意、自殺企図各1例]、ラツーダ40mg群14例[統合失調症7例、房室ブロック、肺結核、体重増加、不安、カタトニー、妄想、精神病性障害各1例]に認められました。
 試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。


 本試験では、臨床検査値への影響も検討されています。6週時点での体重、BMIの変化量や、HbA1c、コレステロールなど糖脂質代謝への影響、プロラクチンへの影響はこちらに示すとおりです

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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