第6回 統合失調症治療における精神科病院の役割と診療の工夫

吉永 陽子先生

出演・監修

吉永 陽子先生(長谷川病院 院長)

本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針、ラツーダへの期待などをお伺いします。
 今回は、長谷川病院院長の吉永 陽子先生に、統合失調症治療における精神科病院の役割と診療の工夫についてご解説いただきます。

長谷川病院の特徴と治療実績

 当院は精神科病院(551床)ですが、内科病棟(39床)も併設しています。一般の精神科外来の他に、精神科の緊急入院には24時間365日体制で取り組んでおり、原則いつでも入院を受け入れています。実際、令和元年は入院1,285名、退院1,284名の診療実績があり、精神科救急医療に尽力しています。
 疾患は、約50%が統合失調症の患者さんです。その他に、感情障害、アルコール依存症、認知症などを診療しています。また、女性用の精神科救急病棟を有していることもあり、摂食障害、パーソナリティー障害、発達障害の患者さんも多く診療していることも特徴です。
 また、治療抵抗性統合失調症の患者さんも受け入れており、大学病院からご紹介いただいた患者さんを当院で継続して診療しております。他院では症状が改善せず、半ば諦めて当院を受診された患者さんのご家族が、「長谷川病院を受診してから、こんなによくなった」と感謝されることも多いです。

地域における 長谷川病院の役割

吉永 陽子先生

精神科救急の第一線の病院として、患者さんを24時間365日受け入れています。東京都には、「救急医療の東京ルール」があります。救急隊が2次救急レベル以下と判断した患者さんで、医療機関への受け入れ照会を複数回行ったが、搬送先選定に20分以上かかったケース、いわゆる搬送先選定困難例が多くあります。この搬送先選定困難例については、東京ルールにより、当番病院に順次運び込まれることになっています。
 東京ルール発生事案となる理由には、アルコールの問題、要介護者、精神疾患などがあります。当院は、これらをすべてカバーすることが可能ですので、東京都の搬送先選定困難例を速やかに受け入れています。これは、精神科救急だけでなく、東京都民の命を守ることにもつながっていると自負しています。
 しかし、現在、診療報酬の改定を通じて、病床削減が推し進められています。当院の病床数が減ってしまったら、救える都民の命が救えなくなってしまうのではないかと、大いに危惧しています。

多職種連携やチーム医療における工夫

 当院では創立以来「力動的治療チーム」によるチーム医療を目指してきました。力動的とは、患者さんの対人関係に注目し、それに合わせたアプローチをしようとする取り組みです。この力動的チーム医療を実現するために、医師がトップに君臨するピラミッド型ではなく、それぞれの職種が独立して専門性を持ちながら、患者さんとご家族に関わるチームを作っています。
 そして、この多職種によるチーム医療は、3層構造をとっています。第1層は、患者さんが中心にいて、その患者さんに関わる医師や看護師やメディカルスタッフがいる構造です。ひとりひとりが患者さんを理解する個別のチーム医療です。第2層は、病棟単位のチーム医療です。病棟全体で患者さんに適切な治療は何かを考えます。第3層は、病院全体のチーム医療です。「みんなで悩んで、みんなで解決する。それが長谷川病院の力です」というキャッチコピーの通り、各病棟で解決しきれない問題について、病院全体で検討しています。

統合失調症患者の変遷

 精神科救急を担う病院という性質上、重症の統合失調症患者さんを多く診療してきました。しかし、最近の傾向のひとつとして、atrisk mentalstateのような、これから発病しそうな方が外来を受診されるようにもなりました。これは、SNSなどでみて、ご自身の症状が統合失調症に該当するのではないかと心配して受診される方が増えたからです。また、従来は、家族がなんとか受診させるということが多かったように思いますが、最近は、患者さんがおひとりで受診されることもあります。患者さんにとって、精神科病院の敷居が低くなっているのかもしれません。

吉永 陽子先生

統合失調症患者さんに 服薬説明する際のポイント

吉永 陽子先生

 服薬する薬剤は、最終的に患者さんが決定することが重要だと考えています。患者さんがご自身で選んで服薬するとアドヒアランスが良好になりますし、何より、患者さんには薬剤を選ぶ権利があるからです。したがって、患者さんに各薬剤の剤形や投与経路、メリットやデメリットを説明して、その上で選んでいただいています。
 新しい薬剤に関しては、患者さん全員にご紹介します。医学の恩恵を受けるのは患者さんやご家族だと考えていますので、「この患者さんには新薬について説明して、この患者さんには説明しない」ということはしません。もちろん、強引に勧めるということではなく、興味をもった患者さんに対しては、より詳しく説明するというようにしています。
 また、統合失調症患者さんは、集中力が続かず、話を継続して聞くことが苦手なこともあります。そのため、視覚的に理解できるように、イラストの入った薬剤の小冊子などを利用して疾患や服薬説明しています。今後、動画を作成して、活用していければよいなとも考えています。

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