第14回 “楽しい”を大切にして取り組む精神科診療と多彩なデイケアプログラムの実践 -前編-

堀越 翔先生 (ほりこし心身クリニック 院長) 保科 輝之先生 (ほりこし心身クリニック 副院長/ほりこしメンタルスクール 校長)


出演・監修

堀越 翔先生(ほりこし心身クリニック 院長)
保科 輝之先生(ほりこし心身クリニック 副院長/ほりこしメンタルスクール 校長)

 本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針、ラツーダへの期待などをお伺いします。
 今回は、ほりこし心身クリニックの堀越 翔先生と保科 輝之先生に、施設の理念である「“楽しい”を大切にして取り組む精神科診療と多彩なデイケアプログラムの実践」についてご解説いただきます。

ほりこし心身クリニックの理念

 堀越先生:当クリニックでは、“楽しい”と感じることを大切にしています。しかし、多くの患者さんが病状からその気持ちを持てずに過ごされていると思います。そのような患者さんに“楽しい”といった感覚を取り戻せる支援をしていきたいと常に考えています。
 また、「いつも心に太陽を」という言葉をクリニック全体の価値観として持っており、その価値観のなかで、私たちは、「自分を守る知識」、「充実した人生」、「偏見のない社会」を提供することを目標としています。「自分を守る知識」とは、患者さんがご自身の病気や薬剤について知り、不安や辛さに対処できるようになることを意味し、「充実した人生」とは、思春期に精神疾患を発症し、学生時代には謳歌できなかった楽しいことを経験し、充実した人生を送って欲しいという思いを込めています。また、当クリニックを卒業した患者さんが、地域で安定して生活していることを通して、「偏見のない社会」を理解してもらいたいと考えています。

堀越 翔先生

ほりこし心身クリニックの特徴と地域における役割

 堀越先生:当クリニックは、外来、デイケアのほりこしメンタルスクール(以下、ほりメン)、訪問診療・看護、カウンセリング・心理検査部門で構成されています。ほりメンは、さまざまな体験をし、友人を作り、生活を生き抜く力を身につける“学校”のような場所と位置付けていることや、患者さんや家族が呼びやすいことを考慮して、デイケアではなくスクールという名称としました。一般的に、デイケアには、そこ自体が居場所になってしまい、ずっと居続けてしまう患者さんがいらっしゃいます。しかし、ほりメンでは、居続けるのではなく、卒業して、地域に戻って生活して欲しいと考えていますし、それを実現するためのプログラムを用意しています。

多彩なデイケアプログラムの提供

 堀越先生:ほりメンのプログラムには、「生活力スキルアップ系プログラム」、「問題解決・コミュニケーション系プログラム」、「知識習得系プログラム」、「体力系プログラム」、「個別型援助付き雇用」があります。
 このなかの「問題解決・コミュニケーション系プログラム」では、『KIZUNAノート』を活用しています。夢や希望、悩みについてみんなで語り合うプログラムで、『KIZUNAノート』に、自分の夢や月ごとの悩み、良かったことを書き込みます。その内容に対して医師、スタッフ、友人、家族などからコメントをもらいます。それらについて発表できる人はみんなの前で今月の悩み、良かったことを発表し、みんなでその悩みを考えます。このプログラムに参加することで、問題解決スキルが向上するだけでなく目標設定が明確になり治療への意欲も高まります。

※『KIZUNAノート』をご入用の際は、弊社MRへお申しつけください

 保科先生:プログラムは、バランスを考えながら、かつマンネリ化しないように組んでいます。たとえば、「充実した人生を提供する」ためのプログラムのひとつとして、体育祭を行ったこともあります。体育祭を盛り上げるためにTシャツをみんなで作ったりして、学生時代に経験できなかった楽しいことを、経験してもらえたのではないかと思っています。また、運動が苦手な方のために美術部を立ち上げて、絵画を描いてもらったりもしています。
 これらの新しいプログラムを作成するにあたり、現在はスタッフ主導で考えておりますが、今後は患者さんの主体性を促すために、企画の段階から患者さんに入ってもらい、プログラムを作成していこうと考えています。

訪問診療・看護の導入からデイケアへ

 堀越先生:訪問診療は、当クリニックまで足を運べない方や、通院が途絶えてしまい引きこもりになり、家族から通院を再開させて欲しいと要望があった方などを対象にしています。後者のような方などは、訪問診療からほりメンにつなげるようにしています。

 保科先生: つい先日も、内服薬を自己中断し、引きこもりになって家族が困っている患者さんの訪問診療・看護に伺いましたね。
引きこもっている状態だと、生活のリズムが整わず、ネガティブな考えが取れないことが多いですので、訪問看護では、患者さんの状態に応じて外出を促したり、本人が興味を持つことを聞き出しています。そのうえで、ほりメンのプログラムで該当するものを提案し、ほりメンにつなげます。最近は、訪問看護利用中の患者さんにオンラインデイケアという取り組みを始めまして、まだ外出は難しいという患者さんに、実際のほりメンの様子を知ってもらうために、Zoomでほりメンとつなぎ、雰囲気を見てもらったり、参加しているメンバーと会話してもらったりしています。

 堀越先生:また、Zoomのほか、Instagramも活用しています。Instagramにほりメンの活動内容などをアップしているのですが、ご家族が「うちの子どもはデイケアでこんなことを楽しんでいるんだな」と思って見てくれるようで、大変好評です。

堀越 翔先生

訪問看護導入で印象に残ったエピソード

 保科先生:30歳代で、数十年間引きこもりだったのに、訪問看護を導入することで就労を実現できた患者さんが印象に残っています。訪問看護を導入した当初は、段階を踏んで、ほりメンにつなげていこうと考えていましたが、患者さんと話をしていくうちに、在宅での就労が向いているのではないかと考え、就労移行支援施設とつなぎました。そして、そこでの利用者との交流や経験がその患者さんのエンパワメント向上につながり、最終的には配達パートナーとして就労し、頑張っています。患者さんに合わせた対応をすることで回復した成功例だと実感しています。
 今後は、訪問看護の卒業へ向けて、『クライシス · プラン』に移行していくつもりです。『クライシス · プラン』とは、精神的な病気を抱えている方と医療スタッフなどの支援者が協力して、安定した状態の維持を目指し、悪化の早期発見のための対応や病状悪化時の円滑な対処についてあらかじめ計画しておくことです。冊子を用いて、患者さんと相談しながら作成していこうと考えています。

保科 輝之先生

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