第15回 地域移行を見据えた精神科診療とラツーダへの期待 -後編-

堀越 翔先生 (ほりこし心身クリニック 院長) 保科 輝之先生 (ほりこし心身クリニック 副院長/ほりこしメンタルスクール 校長)


出演・監修

堀越 翔先生(ほりこし心身クリニック 院長)
保科 輝之先生(ほりこし心身クリニック 副院長/ほりこしメンタルスクール 校長)

 本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針、ラツーダへの期待などをお伺いします。
 今回は、前回に引き続き、ほりこし心身クリニック 院長の堀越 翔先生と、副院長の保科 輝之先生に、地域移行を見据えた精神科診療とラツーダへの期待についてご解説いただきます。

精神科救急の治療と長期的な地域医療を実現する工夫

 堀越先生:当クリニックの患者さんが精神科救急病院に入院し、退院後に当クリニックに戻ってくるケースは十分に想定できます。このような患者さんを長期的に地域で診ていくために重要なのは、訪問看護を導入し、その患者さんの生活を把握し、デイケアにつなげ、再入院させないようにすることだと考えます。
 また、再入院させないようにするためには、患者さんに疾患や薬剤に対して理解してもらったり、自己対処能力を上げてもらう必要があります。外来でお薬を処方するだけでは自己対処スキルを上げることはできませんので、当クリニックでは、訪問看護のなかでWRAP(Wellness Recovery Action Plan)と呼ばれる自己対処スキルを上げるような取り組みを始めています。この取り組みでは、『クライシス・プラン』の冊子を用いて、患者さんの安定した状態の維持を目指し、悪化の早期発見のための対応や病状悪化時の円滑な対処について、患者さんと相談しながら決めていこうと検討しています。

堀越 翔先生

『クライシス・プラン』はこちらからお申込みいただけます

※患者さん向け資材・指導箋ページに遷移しますので「統合失調症の資材の一覧を開く」をクリックして『クライシス・プラン』を選択してください

 保科先生:『クライシス・プラン』や『KIZUNAノート』などは、患者さんの自己対処スキルを上げるだけでなく、診察、デイケア、訪問看護間で情報を共有するためのツールにもなっています。また、医療従事者間だけでなく、患者さんと家族をもつなぐツールにもなっていると感じています。
 患者さんが地域で生活できるようになるためには、型にはめるのではなく、患者さん本人の「自分はどうしたいか」という意向を引き出して、なるべくその意向に沿うようなサポートをすることが重要だと考えています。訪問看護でも、今後、『クライシス・プラン』を用いながら自立支援を促し、患者さんが地域に移行できるように取り組んでいくつもりです。

保科 輝之先生

患者さんが自分を守るために必要な疾患・薬剤の知識

 堀越先生:患者さんのなかには、自分の病気のことがわからずに日々困惑した生活をされている方が多くいらっしゃいます。自分の病気や薬について、わからなければ怖いのは当たり前です。そのため、私たちは、患者さんが自分を守るための知識を提供しています。そうすることで、患者さんが少しずつでも“楽しい”を感じられるようになると考えています。
 また、薬剤について患者さんから聞かれることが多いのは、「いつまで薬を飲み続けるのか」といった不安です。そういう不安を訴える患者さんには、疾患や状態によって個人差はありますが、一般的には長期的に飲み続けてもらう必要があることを説明するようにしています。

精神科疾患に対する薬物療法に求めること

 堀越先生:精神科疾患治療に用いる薬剤の副作用で課題と感じているのは、体重増加や眠気です。これらの副作用をきたす薬剤は、患者さんが離脱してしまうケースが多いです。患者さんに継続して服用してもらうためには、体重増加や眠気をきたさない薬剤を選択することが重要だと考えています。
 また、最近患者さんを診療していて難しいと感じているのが、社会機能を下げる要因が“不安”であるケースです。例えば、訪問看護からデイケアへ移行しようと思っても、人前に出るのが怖いという不安があると、デイケアに通えないのです。そうすると、社会機能を改善させることが難しくなってしまいます。したがって、精神科疾患治療には、興奮などの陽性症状だけでなく、不安を改善し、社会機能を高めてくれる薬剤が必要だと感じています。

ラツーダへの期待

 堀越先生:ELEVATE試験の結果をみると、MADRSで評価されるうつの中核的症状だけでなく、HAM-Aでは、不安症状への影響も認められています。したがって、ラツーダはさまざまなタイプの双極性障害の抑うつエピソードへの効果が期待されると考えています。
 また、実際にラツーダを使用してみて、効果発現の速さを実感しています。ELEVATE試験ではMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ20-60mg群では投与開始2週目よりプラセボと比べ有意な改善が認められましたが、実臨床でも同様に、1~2週間ほどで速やかな有効性が期待できる印象です。
 以上のことから、ラツーダは、不安で社会機能が低下しているような患者さんに適した選択肢のひとつになるのではないかと考えています。

堀越 翔先生

ELEVATE試験

ここから本邦において双極性障害うつ症状の改善の適応症を取得する根拠となった第3相試験、ELEVATE試験をご紹介します。

試験概要

 本試験の対象は、双極Ⅰ型障害患者(大うつ病エピソード)525例です。対象をプラセボ群、ラツーダ20-60mg群、ラツーダ80-120mg*群に無作為に分け、治験薬を1日1回夕食後に6週間経口投与しました。

*ラツーダ80-120mgは承認外用量です。

 有効性の主たる解析はITT集団を対象として実施しました。有効性の主要評価項目は治療群、評価時期、実施医療機関、MADRS合計スコアのベースライン値、及び治療群と評価時期の交互作用を含むMMRM法を用いて解析し、検定の多重性はHochberg法で調整しました。
 安全性の解析は安全性解析対象集団を対象として実施しました。

有効性

 主要評価項目である6週時のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−10.6、ラツーダ20-60mg群−13.6、投与群間の差−2.9と、ラツーダ20-60mgはプラセボに比べてMADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。
 また、副次評価項目である、各評価時点のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ20-60mg群では投与開始2週目よりプラセボと比べ有意な改善が認められました。


 MADRS項目別スコアのベースラインからの変化量をお示しします。うつ症状の中核症状である「外見に表出される悲しみ」や「言葉で表現された悲しみ」など、各項目のスコア変化量はこちらに示すとおりです。

安全性

 副作用発現頻度は、プラセボ群55例(32.0%)、ラツーダ20-60mg群71例(38.6%)、ラツーダ80-120mg群87例(51.5%)でした。
 発現頻度5%以上の副作用は、プラセボ群ではアカシジア11例(6.4%)、悪心8例(4.7%)、ラツーダ20-60mg群ではそれぞれ24例(13.0%)、12例(6.5%)、ラツーダ80-120mg群ではそれぞれ38例(22.5%)、18例(10.7%)などでした。
 重篤な副作用は、プラセボ群1例1件[躁病1件]、ラツーダ20-60mg群0例、ラツーダ80-120mg群2例2件[自殺企図、パニック発作各1件]に認められました。
 投与中止に至った有害事象は、プラセボ群7例[好中球減少症、急性心筋梗塞、胃炎、悪心、嘔吐、疾患進行、アカシジア各1例]、ラツーダ20-60mg群6例[嘔吐、機能性胃腸障害、肝障害、アカシジア、躁病、自殺念慮各1例]、ラツーダ80-120mg群16例[悪心4例、疾患進行、アカシジア各3例、嘔吐、腱断裂、筋骨格硬直、ジストニア、不眠症、呼吸困難各1例]に認められました。
 試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。


 本試験では臨床検査値への影響も検討されています。6週時の体重のベースラインからの変化量は、プラセボ群−0.22kg、ラツーダ20-60mg群0.23kg、ラツーダ80-120mg群0.22kgでした。血糖に関しては、HbA1cが、プラセボ群−0.01%、ラツーダ20-60mg群0.02%、ラツーダ80-120mg群0.02%でした。

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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