患者さんの行動を観察する

患者さんは自分の行動をすべて意識しながらやっているわけではありませんし、すべての行動を細かく覚えているわけでもありません。また、人間は環境に順応する力があるので、初めはやりにくくて困っていても、やがてやりにくさに慣れてしまって、それを問題だと感じなくなってしまいます。人間が語れることと実際の行動には大きな差があるため、アンケートやインタビューだけで患者さんの行動を理解しようとするのではなく、実際に観察を通じて患者さんの行動を理解することが重要になります。
患者さんの行動を観察する上で気をつけるべきポイントは、以前にもご紹介した「慣れ」の問題です。わたしたち人間は、「誰が」「何を、どのように」行動しているのかを見た瞬間に、自動的に「なぜ」そのような行動をしているのか解釈しようとする癖があります。この問題を避けるために、観察をする際に人類学者が身につけている作法があります。現場では、「誰が」「何を、どのように」を観察することに焦点を当て、「なぜ」そうなっているのかという解釈は、観察を終えてから様々な可能性を検討するようにするのです。
そうした時に有効なのが「観察のフレームワーク」の活用です。実際に書き込んだ形の図1を示します。また、A(活動)、E(環境)、I(やりとり)、O(もの)、U(人) に分けて記入する「AEIOUのフレームワーク」を図2に示します。 観察と解釈の作業を意識的に分けることで、現場で都合のいい解釈が浮かんでしまっても、その解釈に固執しながら観察を続けることを避けるようにします。

【図:1】観察のフレームワーク(記入例)

【図:1】観察のフレームワークの図

観察には、個々の患者さんの後を影のようについていきながら行動を観察するシャドーイングと、「診察を待つ」「検査する」といった患者さんのそれぞれの行動が行われる場所に留まり、定点的に数多くの患者さんを観察する方法があります。患者さんの行動を立体的に理解する上では、両方のアプローチを併用するのがいいでしょう。

  1. 「AEIOUのフレームワーク」を使って抜け漏れなく観察し、記録する
    • 「診察を待つ」など、患者さんの「活動(A)」
    • 空間や音、温度、光、匂いなど、それぞれの活動が行われている「環境(E)」
    • 患者さんと他の人、患者さんとモノ、患者さんと環境との「やりとり(I)」
    • それぞれの活動が行われている場にある「モノ(O)」
    • それぞれの活動が行われている場にいる「人(U)」
  2. 記録したデータを使って患者さんの体験をマップ化する
  3. 活動(A)、環境(E)/やりとり(I)/モノ(O)/人(U)の関係に注目し、顕在的/潜在的な問題を洗い出す
  4. 患者さんの体験全体を俯瞰し、体験の中に隠れている大きなパターンや、重要なタッチポイントを特定する

【図:2】「AEIOUのフレームワーク」(記入例)

【図:2】「AEIOUのフレームワーク」

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