統合失調症治療薬 ラツーダの有用性 精神科救急におけるリアル・ノウハウ ー急性期から維持期・寛解期までー 第1回


参加医師の皆様

【1】ラツーダの治療を検討する統合失調症の患者さん、ラツーダの治療に注意が必要な統合失調症の患者さんについて

八田先生

 伊豫先生、薬物動態や臨床試験の結果なども含めてご回答いただけますでしょうか。

伊豫先生

 ラツーダの薬物動態からいえることは、食後と空腹時で、血中濃度のピークがだいぶ異なるということです(図1)。例えば、空腹時に40mgを投与すると、血中濃度のピークは食後投与のピークの半分以下になってしまう可能性があります。したがって、食後に服用していただくことが重要で、食事が摂取できない方は、ラツーダの使用は難しいと考えています。では、どのぐらいの食事が摂れればラツーダを使用できるのかというと、食事で摂取するカロリーの目安は最低350kcalでよいとされています1)。食パン約2枚、カップ麺1杯が大体350kcalのようですので、この程度の食事が摂れるような方であれば、ラツーダの投与は可能だと考えています。
 もうひとつ注意を要する症例としては、福島先生からの報告や、私たちの臨床試験でもそうだったように、クロザピンが適応になるような治療抵抗性の症例や、多剤大量投与の症例です(図2)。ラツーダに限ったことではないのですが、これらの症例は薬剤の有効性を示すことが難しいと思います。

八田先生

 ありがとうございます。福島先生はいかがでしょうか。

福島先生

 私が実施したスーパー救急病棟における使用実態調査2)からも、臨床試験と同じことがいえるのではないかと考えています。ラツーダの使用中止理由は、拒食・拒薬と、クロザピンが適応となるような治療抵抗性の患者さんにおける効果不十分でしたので、このような患者さんには注意が必要だと思います。一方、それ以外の急性期の統合失調症患者さんに対しては、症候学的にも機能学的にもラツーダの治療がうまくいったという印象があります。SOFAS(SOFAS:Social and Occupational Functioning Assessment Scale)で評価した社会的職業的機能障害は、ラツーダの治療前と比較して有意に改善しました2)ので、復学や復職を目指す若年の方や、リカバリーを目指す患者さんに、よい選択肢になるといった印象を持っています。

八田先生

 ありがとうございます。藤田先生、いかがですか。

藤田先生

 基本的に、ラツーダは、患者像を選ぶということはないと考えています。ただし、食事の影響がありますので、食生活が乱れやすい若い方には注意が必要です。特に、若い女性はダイエットと称して食事を抜くケースが結構ありますので、食事のタイミングをしっかりと確認してから処方しないといけません。ラツーダの投与は1日1回でよいので、1日のうちで350kcal程度の食事量は摂っている時間帯を確認してから処方することが重要です。また、他のSDAでアカシジアが出やすい人は、ラツーダでも出る可能性はあるかもしれません。

八田先生

 ありがとうございます。山下先生、いかがですか。

山下先生

 ラツーダは比較的副作用が少ないという印象がありますので、第一選択薬のひとつになると考えています。

【2】急性期統合失調症治療における、ラツーダの適切な用法及び用量とは?

伊豫先生

 臨床試験でお示ししたラツーダ40mg/日が統合失調症の最小有効用量となります(図3-5)。この用量は、国内第2相後期試験で、20mg/日は有効性が確認できなかったばかりか、原疾患の悪化による中止が増えてしまうといった報告3)があったために設定されました。用量が足りないから、切り替えれば原疾患が悪化するのは当たり前ですよね。

 したがって、急性期の統合失調症患者さんには40mgを2~3日使ってみて、忍容性・安全性に問題がなく、手応えが乏しいようであれば80mgに増量し、80mgで副作用に問題がなければ、そのまましばらく様子を見る、といった使い方がよろしいのではないでしょうか。もし、錐体外路系などの副作用が出たら減量を検討すればよいと思います。JEWEL継続試験でも、40mgで効果不十分であった患者さんの中に80mgで効果を示した患者さんがいましたので、そういった使い方をすることが重要だと考えています(図6-7)。

八田先生

 ありがとうございます。山下先生、用法及び用量という点からお話しいただけますでしょうか。

山下先生

 40mgが開始用量となりますが、病状や体調によっては、翌日から80mgに増量することもあります。添付文書上、初期量の40mgを使用する期間の規定はありませんので、効果不十分で忍容性・安全性に問題がない場合には速やかな増量が可能です。
 また、用法に関しまして、ラツーダは食事の影響を受けますので、基本的には夕食後に服用いただくことが多いです。外来患者さんや、入院から外来に移行した患者さんについては、「夕食後、お箸を置いたらすぐに飲んでください」というように説明しています。

八田先生

 ありがとうございます。山下先生、いかがですか。

藤田先生

 先ほど伊豫先生のお話にもありましたが、JEWEL試験では、40mgだとプラセボと有意差がつくのに2週間かかっていました。したがって、私は、忍容性・安全性に問題がなく、効果不十分の場合は、数日単位で80mgに増量するほうがよいのではないかと考えています(図8)。実際、私は、翌日には80mgに増量することが多いです。それでも興奮が治まらなければ、オランザピンの筋注を併用することもあります。ロナセンテープを一時的に、オランザピン筋注のように使う方法もひとつの選択肢だと思います。このほうが侵襲がありませんので、患者さんの負担は軽減すると思います。

八田先生

 ありがとうございます。効果不十分で、忍容性・安全性の問題がなければ、80mgへ早めに増量するということが、皆さん共通の見解ということがよくわかりました。

【3】他の抗精神病薬からのラツーダへの切り替え方法について

八田先生

 基本的には2週間程度で抗精神病薬の治療反応を判断し、効果不十分な場合は切り替えると思いますが、前薬からラツーダに切り替える際の注意点について、藤田先生、お話しいただけますか。

藤田先生

 MARTA系の抗コリン作用の強い薬剤に関しては、時間をかけて切り替えることが重要です。忍容性・安全性に問題がなく効果不十分の場合、まず80mgまでラツーダを増やして、それから徐々に2ヵ月ぐらいかけて、前薬を切っていく必要があると思います。ただし、SDAから切り替える場合は、比較的早く、1ヵ月ぐらいでの切り替えも可能だと考えています。

八田先生

 ありがとうございます。山下先生はいかがですか。

山下先生

 前薬の用量、種類にもよりますが、抗コリン作用が強い薬剤については、ゆっくり時間をかけて減量します。例えばオランザピンでしたら1週間に1mgぐらいのペースで漸減していくこともあります。また、追加したラツーダの副作用と思われた症状が、実は前薬の離脱症状のこともありますので、その辺りの見極めを間違えないように心がけています。

八田先生

 ありがとうございます。他にこの点について、付け加えることはございますか。

伊豫先生

 山下先生と藤田先生に教えていただきたいのですが、基本的に上乗せして、ゆっくり前薬を減らしていくわけですが、減らすときの目安は何かありますか。例えば、臨床的なきっかけなどがあれば教えていただけますか。

山下先生

 忍容性・安全性に問題がなく効果不十分の場合、ラツーダを80mgまで増量し、前薬を減らしていきますが、時には症状が一過性に悪くなることもあります。その際は、前薬減量の中止、あるいは少し量を戻します。その結果、そのまま2剤併用になってしまうこともあります。しかし、新たにラツーダの治療が開始でき、変更や追加薬が必要であった前薬を一定程度減量できただけでも、十分価値はあるのではないかと考えています。

藤田先生

 私は、各抗精神病薬の薬理学的受容体結合特性を考慮して選択するのであれば、2剤併用がそこまで悪いとは思っていないです。もちろん、なるべく単剤にするために、前薬を減らすことは心がけますが、あまり無理には減らしません。

MARTA系の抗コリン作用の強い薬剤からラツーダへの切り替え:
ゆっくり時間をかけて切り替える
〇忍容性・安全性に問題がなく効果不十分の場合、ラツーダを80mgまで増量し、前薬を減らしていく
〇症状が一過性に悪くなった場合、前薬減量の中止、あるいは少し量を戻すことも検討する
〇追加したラツーダの副作用か、前薬の離脱症状かの見極めを間違えない

【4】急性期の興奮が激しいときのレスキューセラピーについて

福島先生

 私は、ベンゾジアゼピン系、特にロラゼパムを興奮の激しい治療初期に、短期間、使用するようにしています(図8)。ただし、基本的に当院は、保護室や隔離室などの個室を完備しており、他の患者さんの迷惑にならずに、ゆっくりと治療反応を待つことができる環境が整っています。そういったことで、抗精神病薬は単剤で治療することが可能になっているのかもしれません。ですから、治療環境によって、単剤では難しい場合には、先ほど藤田先生がおっしゃったように、オランザピンやロナセンテープの併用も検討する必要があるのではないかと思います。

藤田先生

 保護室に入っていただき、刺激が少ない環境にするだけで症状が改善することはあります。それでも興奮が激しいときは、オランザピンの筋注かロナセンテープで対応します。

山下先生

 当院も、救急入院科病棟は保護室が充実しておりますので、あまり困ることはないのですが、レスキューにベンゾジアゼピン系薬剤を使う習慣はありません。患者さんが経口剤を飲んでくれない状況では、オランザピンを3日間筋注することが多いです。大抵の場合、3日以内に食事も摂れるようになり、経口剤の内服にも応じてくれるようになります。その間、ラツーダを含めた経口剤を併用するか否かは、ケース・バイ・ケースです。

先生がお持ちの臨床疑問は解決されましたでしょうか?
今後とも、ラツーダを先生の急性期統合失調症治療にぜひお役立てください。

Reference

1) 社内資料:海外食事の影響試験【承認時評価資料】
2) 福島端, 他. 精神科. 2022;40(4). (in press)
(本論文の著者に大日本住友製薬株式会社(現:住友ファーマ株式会社)より、講演料、コンサルタント料などを受領しているものが含まれている。)
3) 社内資料:国内P2b試験(P2-J001)【承認時評価資料】

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