統合失調症治療薬 ラツーダの有用性 精神科救急におけるリアル・ノウハウ ー急性期から維持期・寛解期までー 第2回


参加医師の皆様

【5】ラツーダは単剤での使用あるいは他の抗精神病薬との併用のどちらがよいか?

八田先生

 エビデンスとしては、JAST studyの結果として、併用は1年間の治療失敗リスクを有意に17%低減するということが示されていますので1)、藤田先生もおっしゃっていましたが、必ずしも併用が悪いことではないということです。

藤田先生

 統合失調症は治り方に順番があり、最初に幻覚妄想が治らなければなりません。もし、最初の単剤で幻覚妄想が治れば、それに越したことはありません。しかし、最初の段階で、幻覚妄想状態や精神運動興奮が治まらなければ、単剤にこだわる必要はないのではないでしょうか。一時的に、ある程度の静穏効果が期待できる薬剤を併用して、それで乗り切ることが必要です。気分安定薬の中には衝動に対して、効果が期待できるものがあるので、幻覚妄想状態を抑えると、急に興奮したりとか、急に他罰的になったりするようなケースには、気分安定薬の併用を検討します。一時的に上手に併用薬を用いながら、ラツーダの長期使用で期待できるアウトカムを、単剤治療に求めていけばよいのではないかと思います。

八田先生

 ありがとうございます。山下先生はいかがでしょうか。

福島先生

 もちろん単剤が理想的なことは重々承知していますが、先生方もご存知のとおり実臨床ではそうはいかないこともしばしばあります。もし2剤を併用するのであれば、少なくとも1剤は、副作用が少ない薬剤であるほうが、安全に使用できますので、併用する際は、忍容性・安全性を考慮して薬剤選択しています。

八田先生

 ありがとうございます。福島先生、お願いします。

福島先生

 急性期で、不安や興奮が激しい場合は、オランザピンの併用は、施設によっては仕方がないと思います。ただし、社会機能などの長期的なアウトカムを考えますと、ラツーダを単剤で使用するのが望ましいと考えています。

社会機能などの長期的なアウトカムを考えると、ラツーダを単剤で使用するのが望ましい。
単剤が理想的であるが、必ずしも併用が悪いことではない。
<他の抗精神病薬との併用する場合>

・一時的に上手に併用薬を用いながら、ラツーダの長期使用で期待できるアウトカムを、単剤治療に求めていく
・2剤を併用するのであれば、少なくとも1剤は、副作用が少ない薬剤を選択する

【6】ラツーダを投与して効果があまり感じられないときはどうすればよいのか?

伊豫先生

 クロザピンが適応になるような、治療抵抗性の患者さんについては、他剤へ切り替えざるを得ない、または、他剤を追加することも選択肢になると思います。それから、救急急性期の興奮が少し長引く場合には、ラツーダに気分安定薬を併用することが多いです。躁状態のような症状が併存していると、抗精神病薬の増量だけではなかなか対処できません。そういう場合は、気分安定薬を併用すると、症状が改善することがあります。したがって、ラツーダに気分安定薬を併用することもひとつの方法だと考えています。

八田先生

 ありがとうございます。山下先生、いかがですか。

山下先生

 精神運動興奮や易怒性の高さが目立つ場合、また、気分障害様の症状が伴い、脱抑制や気分の高揚などを認める場合、私は、一時的にゾテピンを併用することがあります。用量が増えてくると、抗てんかん薬の併用が必要になることがあるので、その場合には、気分安定化作用を示す抗てんかん薬を選択します。ただし、ゾテピンについては、可能な限り入院中に漸減中止するように心がけています。

八田先生

 ありがとうございます。福島先生、いかがですか。

福島先生

 私は、効果不十分な場合は、当たり前のことですが診断をもう一度考え直すということをしています。そして、ラツーダが最大用量である80mgまで投与されていることを確認します。その上で、先ほど伊豫先生がおっしゃったように、気分安定薬を併用します。短期的なベンゾジアゼピン系薬剤の使用で対処ができないような場合には、長期的に、気分安定薬を積極的に使っています。
 ラツーダは、非鎮静系の抗精神病薬ですので、鎮静系抗精神病薬と同じような効果の出方を期待すると「効果が感じられない」、ということがあるかもしれません。必要に応じ補助薬なども使いながら非鎮静系の薬剤を上手に使っていくことが重要だと思います。

<他の抗精神病薬との併用を検討するケース>
●クロザピンが適応になるような、治療抵抗性の患者さん:
・他剤へ切り替えざるを得ない、または、他剤を追加することも選択肢になる
●救急急性期の興奮が少し長引く場合:
・ラツーダに気分安定薬の併用を検討する
●精神運動興奮や易怒性の高さが目立つ場合、また、気分障害様の症状が伴い、脱抑制や気分の高揚などを認める場合:
・一時的にゾテピンを併用する(可能な限り入院中に漸減中止)
●効果不十分な場合:
・診断をもう一度考え直す
・ラツーダが最大用量である80mgまで投与されていることを確認する

【7】ラツーダの副作用で注意すべきことは?

伊豫先生

 基本的に抗精神病薬は、クロザピンを除いては、どの薬剤でもドパミンD2遮断作用がありますので、アカシジア、錐体外路症状、パーキンソン症候群には注意が必要です。

八田先生

 ありがとうございます。山下先生は、現場で実際にどのように対処されていますか。

山下先生

 当院では、今までラツーダを統合失調症例に65例使用しましたが、副作用で中断に至ったのは7例でした。内訳は、アカシジア、頭痛、嘔気でした。中断、継続にかかわらず、ラツーダ投与後に認めた嘔気は、SSRI投与初期の嘔気によく似ている印象で、しばらくすると慣れた方が多く、特に吐き気止めは必要としませんでした。当院の使用状況からは、臨床試験と同様の有害事象が発現したという印象です。

八田先生

 ありがとうございます。福島先生はいかがでしょうか。

福島先生

 当院で実施したスーパー救急病棟におけるラツーダの使用実態調査2)で示されたように(図1-3)、下痢、便秘、嘔気・嘔吐、食欲低下、胃部不快など胃腸系の副作用が少し多く出現したという印象ですが、ラツーダの投与中止に至る副作用はありませんでした注)アカシジアや錐体外路症状は、本使用実態調査では認められませんでした。

注)検証的試験「JEWEL試験」はコンテンツ後方に掲載しておりますので、ご確認ください。

【8】ラツーダを投与していて拒食や拒薬となった場合はどうすればよいのか?

八田先生

 ガイドライン上では、拒薬されてしまう場合は、やむを得ず胃管を使って投与していくということもひとつの方法といった内容の記載があります3)ので、胃管を挿入して薬剤を投与することも選択肢になるかもしれません。また、catatonicな状況になっている場合は、ロラゼパム、あるいは電気けいれん療法(ECT)といった選択もあると思います。福島先生はいかがでしょうか。

福島先生

 スーパー救急病棟におけるラツーダの使用実態調査2)では、8例の中止のうち、拒食・拒薬による中止が6例と、最も多い中止理由になりました。拒食・拒薬でラツーダを中止した6例は全例、ロナセンテープに切り替えました。本6例は、ラツーダの副作用や飲み心地が問題となり、拒食・拒薬になったわけではありませんでしたので、全例、服薬と食事摂取が可能となった時点で、患者さんご自身と、共同意思決定(SDM:Shared Decision Making)を行い、再度ラツーダに切り替えて、良好な経過を認めました。忍容性や安全性に問題がなく、拒食・拒薬によりラツーダの治療を中止する場合、いったんはロナセンテープに切り替えて、服薬や食事摂取が可能になった時点で、さらなる社会的職業的機能障害の改善効果を期待して、患者さんのニーズがあれば、再度ラツーダに切り替えるということも、ひとつの治療戦略となるのではないかと考えています。

伊豫先生

 ガイドライン上、経鼻胃管や静脈注射、点滴は以前から使用されていました。しかし、これらは侵襲性が高いです。一方、貼付剤は、うまく使えば、患者さんの負担の軽減が期待できます。また、鎮静をかけようとして、抗コリン作用や抗ヒスタミン作用がある薬剤を使ってしまうと、なかなか抜きにくくなってしまうという現実もあるので、その辺りを考慮すると、貼付剤を使うという福島先生のやり方は、スマートなのかなと思います。

<拒食・拒薬となった場合の対処法>
・やむを得ず胃管を使って投与していく
・catatonicな状況になっている場合は、ロラゼパム、あるいは電気けいれん療法(ECT)を検討する
・貼付剤を使う
・患者さんのニーズに応じて、服薬と食事摂取が可能となった時点で、患者さんご自身と、共同意思決定(SDM:Shared Decision Making)を行う

先生がお持ちの臨床疑問は解決されましたでしょうか?
今後とも、ラツーダを先生の急性期統合失調症治療にぜひお役立てください。

Reference

1)Hatta K, et al. Asian J Psychiatr. 2022;67:102917.
2)福島端, 他. 精神科. 2022;40(4):555-566.※
3)日本精神科救急学会 監修:精神科救急医療ガイドライン 2015年版,2015年12月10日発行, p108-110.
※本論文の著者に大日本住友製薬株式会社(現:住友ファーマ株式会社)より、講演料、コンサルタント料などを受領しているものが含まれている。

JEWEL試験

関連情報

統合失調症/ラツーダについてもっと知る