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第12回 急性期と休息期に特化した2つの病院で短期集中治療と生活支援、そしてCOVID-19対応を
右手の建物が医療法人秀峰会「北辰」、左が同「楽山」
出演・監修
佐々木直先生(心療内科病院「楽山」院長)
仲條龍太郎先生(精神科急性期病院「北辰」副院長)
中村保喜先生(医療法人秀峰会 理事長)
本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針などをお伺いします。今回は、丁寧な地域医療に取り組んでおられる医療法人秀峰会(埼玉県越谷市)の佐々木直先生(心療内科病院「楽山」院長)と仲條龍太郎先生(精神科急性期病院「北辰」副院長)、中村保喜先生(同法人理事長)の御三方に、病院の機能特化とCOVID-19への対応などについてご解説いただきます。
法人の理念を象徴する2つの病院
佐々木:私たちの法人には「北辰(ほくしん)」と「楽山(らくざん)」という2つの病院があります。
法人創立以来、「今、困っている人のために」と「思いやり」を理念に掲げてきました。2つの病院はその理念のもと、機能を急性期と休息期で完全に分けており、それぞれの専門スタッフが工夫を凝らして対応にあたっています。
佐々木 直先生
「北辰」は精神科救急で、「今、困っている人のために」
仲條 龍太郎先生
仲條:そのひとつである「北辰」は精神科救急・急性期に対応する短期集中治療型の病院です。178床のうちスーパー救急が102床を占め、自殺企図などとにかく「今、困っている人」に応えるべく、24時間365日の受け入れ態勢を整えています。県外からの入院依頼も少なくありません。
入院している患者さんは過半数が統合失調症で、双極性障害が1〜2割、ほかに重度うつ病や認知症、パーソナリティ障害、不安障害、適応障害などです。
平均在院日数は40〜60日で、在院45日を超えた段階で「退院促進会議」を開き、医師や看護師、ケースワーカーらが治療や支援について検討しています。
よりよい入院環境を目指し、病棟は患者さんひとり当たりの床面積を広く取って、作業療法室なども広々としています。テレビを観られる保護室もあるんですよ。保護室は27床ありますが、同じフロアに窓を広く取った明るいデイルームがあり、患者さんの回復状況に応じてそこで過ごすこともできます。中には「一般病棟の大部屋より保護室のほうがいい」なんておっしゃる患者さんもいるんですよ。
退院後も手厚い支援を継続
仲條:退院後の支援にも力を入れており、病院の徒歩圏内にはデイケアや訪問看護ステーションなど、10軒の社会復帰施設が点在しています。よくあるのは訪問看護につなげるケースでしょうか。法人内だけでなく、地域の訪問看護ステーションとも連携し、病識のない患者さんが治療を中断してしまうことのないよう、服薬管理や通院を促すなどのフォローをしています。
COVID-19拡大、精神科単科病院でもコロナ病棟を!
中村:2020年春、「北辰」の療養病棟ひとつ(全34床)を「コロナ病棟」に転換しました。COVID-19の軽症〜中等症で酸素吸入の必要な方を夜間・休日問わず受け入れています。県内各地から感染者が運ばれ、これまで201名が入院しました(2020年7月20日〜2021年8月24日)。もちろん通常の外来と入院機能は縮小することなく維持しています。
コロナ病棟の立ち上げが決定したのは2020年2月です。まずは満床だった療養病棟の退院促進に努め、退院の困難な方は転院、施設入所、病棟移動をしてもらいました。
病棟を丸々空けることも運営上ハイリスクでしたが、その原動力には日頃の精神科救急医療の積み重ねや被災地支援の経験があり、そして何よりもスタッフの使命感、心意気とともに、さらなる成長への期待もありました。
当時はCOVID-19の情報も物資も人手もすべてが今より圧倒的に少なく、私たち医療従事者も少なからず恐怖心がありました。それでも「精神科の患者さんが感染したら、受け入れてくれる病院はどこもないだろう」、「今、困っている人たちのために立ち上がろう」と、スタッフみんなで結束したのです。
中村 保喜先生
コロナ病棟の運営が関係者で話題に
中村:コロナ病棟は4月からいつでも入院できる状態にして、最初の患者さんが入院したのは7月20日です。感染拡大にともなって、精神疾患(認知症、精神遅滞含む)のある感染者だけでなく一般の方も本人同意のもと入院するようになりました。他の病院や施設でクラスターが発生し、転院を受けたケースもあります。中には措置入院の方もいました。
スタッフは「自分が感染しても、誰かに感染させてもいけない」という重圧の中で、各方面の協力をいただきながら、手探り状態から試行錯誤を繰り返しました。病棟立ち上げ時はもちろん、継続する難しさもありました。多職種が交代で勤務し、それぞれの持ち味を活かしています。スタッフが積極的になり、個人、法人ともに大きく成長していることや、日々の努力の結果として、COVID-19の患者さん受け入れにともなう2次的な感染が起きていないことも誇りです。
今では「精神科単科病院がコロナ病棟を立ち上げた」と、各地から医療関係者が見学・視察に訪れるまでになりました。微力ながら社会貢献できたのではないかと感じています。
「楽山」では「思いやり」を持った休息環境を
佐々木:「北辰」の隣にある心療内科病院「楽山(60床)」はストレス関連性疾患の治療を行っています。入院しているのはうつ病や心身症、不安症や適応障害、摂食障害、身体表現性障害などの方で、軽症段階での休息入院も受け入れています。患者さんの年齢層は10代〜80代と幅広いのですが、多いのは40代〜50代で、最近はコロナ禍で心身の調子を崩してしまう方も増えてきました。遠く離れた県外から入院する方もいます。
平均在院日数は2〜3週間で、紹介を受けて入院された方はもとの通院先へ戻っていただきますので、入院時から退院後を見据えて診療しています。
病気の治療というよりは患者さん一人ひとりがゆっくり休めるよう、60床は全個室にして各所に生花や緑を配置するなど、さまざまな工夫を凝らしました。差額ベッド代もリーズナブルに抑えています。
心療内科病院「楽山」
病棟の各階にフルオープンのスタッフステーションを置き、患者さんは24時間いつでもスタッフと話をすることが可能です。心理職によるカウンセリング体制も充実させました。スタッフのユニフォームも白衣でなくアロハシャツに白いスラックスとし、リゾートホテルのような雰囲気を目指しました。
また、楽山では職場復帰のために、認知行動療法などさまざまなメニューから成る「リターンプログラム」を実施しています。いずれも画一的な内容にせず、患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドプログラムを提案しています。
病でなく「人」を診る
佐々木:病気でなく、患者さん個人を診るようにしています。その方の考え方や物の見方を理解し、そこから治療につながる何かが見えればと思うのです。できるだけこの診療スタイルを追い求めたいですね。「患者さんの役に立ちたい」、その思いこそが私の原動力ですから。
患者さんに必要な薬を飲んでいただくために
佐々木:多剤大量処方は論外ですが、最近は逆に抗うつ薬や抗精神病薬が中途半端な少量で出され、状態が改善せず転院してきたケースをよく診ます。まずはしっかりと効く量を飲んでいただくことが肝心ですね。
仲條:病識の欠如は地域移行の妨げになりますので、当院は薬剤師が病棟で「お薬教室」を開いています。すべての患者さんを対象に質疑応答も積極的に行い、理解が深まるよう工夫しています。
中村:主症状がよくなっても肥満やアカシジアなどの副作用が気になって断薬してしまう患者さんはいますので、そうした方々も飲みやすい薬がいいですね。
佐々木 直先生
臨床話題として、ロナセンテープについて
仲條 龍太郎先生
仲條:任意入院でない場合、入院当初に拒薬する患者さんが2〜4割います。初発や興奮状態のケースなどですね。薬を飲めず注射をするとなると、興奮状態の患者さんに針を刺すのはご本人もつらいですし私たちも大変ですが、ロナセンテープなら興奮に対しても有効ですし、患者さんの恐怖心も少なく、医師一人で対応しています。
中村:ロナセンテープは経口服薬や点滴が難しい統合失調症患者さんに適していると思います。
今、注目を集めているラツーダ
精神科急性期病院「北辰」
仲條:当院でもラツーダを処方するケースが少しずつ増えています。2021年6月より投薬期間制限が解除となったこともあり、処方しやすくなりました。統合失調症と、双極性障害のうつ症状に使っていますが、単剤使用だけでなく、他剤の単剤で効果不十分なときにラツーダを追加した方もいます。ラツーダは忍容性の観点から併用薬としても使いやすいと感じています。
初発の統合失調症や、服薬中断して再発した軽症例にも処方していますが、実際に処方して忍容性の高さを感じています。抗精神病薬の中では眠気が少なく、錐体外路症状もさほど出ない印象です。たとえば日中活動をしている患者さんは「朝に薬を飲んで、眠くなると困る」と言う方もいますので、そうした際も眠気の少ない薬のほうがいいですね。
ラツーダは双極性障害にも使っていますが、統合失調症においても気分に少し波のあるケースにいいのではないかと考えています。また、女性など体重の変化を気にされる方にも使いやすいですね。
中村:ラツーダは特に双極性障害のうつ症状で糖尿病を併発している方や、他の薬剤で薬疹が出てしまった方に使っています。
佐々木:双極性障害のうつ症状に関して、ラツーダの感触は今のところいいですね。双極性障害は自殺率が高く、うつ症状をそのままにしておくのは危険です。ラツーダは最初に20mgから始めて増やしていきますが、躁が悪化することもなく使い続けられる印象です。先日、なかなか改善しない双極性障害の入院患者にラツーダを使ってみたところ好感触でした。これからおそらく処方することが増えていくでしょう。
中村 保喜先生
ELEVATE試験
ここから、本邦において双極性障害うつ症状の改善の適応症を 取得する根拠となった第3相試験、ELEVATE試験をご紹介いたします。
試験概要
本試験の対象は、双極Ⅰ型障害患者(大うつ病エピソード)525例です。対象をプラセボ群、ラツーダ20-60mg群、ラツーダ80-120mg*群に無作為に分け、治験薬を1日1回夕食後に6週間経口投与しました。
*ラツーダ80-120mgは承認外用量です。
有効性の主たる解析はITT集団を対象として実施しました。有効性の主要評価項目は治療群、評価時期、実施医療機関、MADRS合計スコアのベースライン値、および治療群と評価時期の交互作用を含むMMRM法を用いて解析し、検定の多重性はHochberg法で調整しました。
安全性の解析は安全性解析対象集団を対象として実施しました。
有効性
主要評価項目である6週時のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−10.6、ラツーダ20-60mg群−13.6、投与群間の差−2.9と、ラツーダ20-60mgはプラセボに比べてMADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。
また、副次評価項目であるベースラインからの変化量は、ラツーダ20-60mg群では投与開始2週目よりプラセボと比べ有意な改善が認められました。
MADRS項目別スコアのベースラインからの変化量をお示しします。うつ症状の中核症状である「外見に表出される悲しみ」や「言葉で表現された悲しみ」など、各項目のスコア変化量はこちらに示すとおりです。
反応率は、MADRS合計スコアがベースラインから50%以上低下した患者さんの割合と定義され、6週時(LOCF)における反応率は、プラセボ群31.0%、ラツーダ20-60mg群46.2%でした。ラツーダ20-60mg群のプラセボ群に対するオッズ比は2.0、p値は0.01未満であり、ラツーダ20-60mg群のMADRS合計スコア反応率は、プラセボ群に比べて有意に高いことが示されました。なお、NNTは7でした。
安全性
副作用発現頻度は、プラセボ群55例(32.0%)、ラツーダ20-60mg群71例(38.6%)、ラツーダ80-120mg群87例(51.5%)でした。
発現頻度5%以上の副作用は、プラセボ群ではアカシジア11例(6.4%)、悪心8例(4.7%)、ラツーダ20-60mg群ではそれぞれ24例(13.0%)、12例(6.5%)、ラツーダ80-120mg群ではそれぞれ38例(22.5%)、18例(10.7%)でした。
重篤な有害事象は、プラセボ群1例1件[躁病1件]、ラツーダ20-60mg群0例、ラツーダ80-120mg群2例2件[自殺企図、パニック発作各1件]に認められました。
投与中止にいたった有害事象は、プラセボ群7例[好中球減少症、急性心筋梗塞、胃炎、悪心、嘔吐、疾患進行、アカシジア各1例]、ラツーダ20-60mg群6例[嘔吐、機能性胃腸障害、肝障害、アカシジア、躁病、自殺念慮各1例]、ラツーダ80-120mg群16例[悪心4例、疾患進行、アカシジア各3例、嘔吐、腱断裂、筋骨格硬直、ジストニア、不眠症、呼吸困難各1例]に認められました。
試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。
本試験では臨床検査値への影響も検討されています。6週時の体重のベースラインからの変化量は、プラセボ群−0.22kg、ラツーダ20-60mg群0.23kg、ラツーダ80-120mg群0.22kgでした。血糖に関しては、HbA1cが、プラセボ群−0.01%、ラツーダ20-60mg群0.02%、ラツーダ80-120mg群0.02%でした。
ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)
ロナセンテープ20mg/テープ30mg/テープ40mgの製品基本情報(適正使用情報など)
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