第18回 手厚い急性期治療を行う、地域に密着した都市型病院

大泉病院外観


出演・監修


半田 貴士先生(大泉病院 院長)
冨田 真幸先生(大泉病院 副院長)
鹿島 美納子先生(大泉病院 精神科医局長)

 本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針などをお伺いします。今回は都市型精神科病院として、急性期治療と早期退院に力を入れている医療法人財団厚生協会大泉病院(東京都練馬区)の半田 貴士先生(院長)と冨田 真幸先生(副院長)、鹿島 美納子先生(精神科医局長)の御三方に、お話を伺いました。

急性期治療に注力し、早期退院を目指す

半田 貴士先生

半田 貴士先生

 半田先生:当院は急性期医療に力を入れている都市型の精神科病院です。武蔵野の面影を残す閑静な住宅街に位置していますが、ここ練馬区は23区で2番目に人口が多いんですよ(74万人)。
 私たちは2010年頃より旧来の療養型病院から脱却を図るため380床あったベッドの減床を進め、現在は240床(うちスーパー救急96床)で短期集中治療と早期退院を実践しています。
 入院患者の疾患割合は統合失調症が約4割、双極性障害やうつ病などの気分障害が3割で、残りの3割は認知症や発達障害、知的障害などです。外来は軽い神経症圏の方がもう少し多いですが、ほぼ同じ割合です。

入院を長期化させないために

 半田先生:病院全体の平均在院日数は86日と短く、スーパー救急病棟に至っては47〜48日です。入院を長期化させないためには「退院を試みること」が重要で、ご家族との同居が難しければグループホームを探して訪問看護や訪問診療を導入するなど、職員みんなでさまざまな工夫を凝らしています。

いつでも入院できる安心感と、患者主治医制による信頼関係を

 半田先生:当院を選んでくれた患者さんやご家族からよく言われるのは「安心感がある」ということです。
 具体的にはまず、当直医がいて夜間休日も救急対応できることが挙げられるでしょう。当院と2つのサテライトクリニックに通っている患者さんが体調を崩したときは、いつでも入院可能な態勢にしています。
 さらに「患者主治医制」を原則としていますので、外来で担当している主治医が入院時も病棟で診るため、信頼関係が継続できることも患者さんの安心感につながっているのではないでしょうか。

大泉病院外観

大泉病院外観

これからも地域に頼られる病院として

 半田先生:地域包括ケアも含め、世の中の流れは「地域医療」にシフトしていますから、時代に取り残されることのないよう先手を打っていきたいと考えています。
 その一環として地域のさまざまな機関との連携に力を入れています。たとえば当院の職員を保健所や福祉事務所に嘱託として派遣し、月に1回の相談業務などを行っていますし、コロナ禍以前は地域の医療従事者を招いて合同勉強会を開いていました。
 これからも地域密着型の病院として、私たちのほうから地域にどんどん出向いていこうと考えています。訪問看護や訪問診療、アウトリーチにはますます力を入れていきたいですね。

クリニカルパスで早期退院を目指す

 冨田先生:当院は急性期中心の治療を行っていますから、入院患者の4割がまず隔離室に入室し、拘束が必要になるケースも1割強あります。
こうした厳しい状態から治療を開始していますが、多くの患者さんは3か月以内に退院しているんですよ。
 そのためにはまず退院日を想定して逆算し、隔離室での治療、閉鎖病棟での治療、そして地域に出ていくための準備期間と、段階を区切って考えたクリニカルパスを用意し、それに沿って治療と退院準備を進めています。
 また、ご家族が同居を拒否されたり、退院に対して地域の反対があった場合は、グループホームなどの退院先を考える等々の調整も行わなければなりません。ご家族や地域の保健師、生活保護担当者などを招いて合同カンファレンスを行う時間も必要です。
 クリニカルパスに乗らないケースに関しては毎週必ず、各医師と看護師とがディスカッションする時間を設けています。主治医が担当患者全員について病棟看護師と現在の状況や今後の予定などを話し合うことは、早期退院にかなり有効だと思っています。

冨田 真幸先生

冨田 真幸先生

ECTが平均在院日数の短縮化に寄与

冨田 真幸先生

 冨田先生:入院日数の短縮にはECT(電気けいれん療法)も大きく寄与していると思います。コロナ禍以前、当院のECTは年間最大で1,100件ほど実施していました。現在はコロナ禍で少し減ってしまいましたが年間800件以上、実人数150〜160人に実施しています。

COVID-19の影響と対策

 冨田先生:COVID-19は院内体制に大きな影響を及ぼしました。まずはクラスター発生を防ぐため職員の感染対策を徹底し、新規入院患者は全例に抗原検査や胸部CTを実施した上で、発熱の有無に限らず個室入院から始める対策を講じました。ベッドコントロールには苦心しましたが、看護師と会議を重ねながら何とか対応できています。
 また、外来においても通院間隔をできるだけ空けたため、通院へのモチベーションが下がってしまい通院中断となった患者さんも出てしまいました。当院は訪問看護だけでなく訪問診療を少しずつ始めているので、今後はさらに広げていけないかと考えています。

スーパー救急で心掛けていること

 鹿島先生:スーパー救急は措置入院などの非自発的入院が大半ですから、治療に同意してもらえないこともこれまで多々ありました。ですからまずは患者さんに「早くよくなって退院しましょう」と声を掛け、治療の必要性をご本人とご家族に時間をかけて説明するよう心掛けています。

鹿島 美納子先生

鹿島 美納子先生

丁寧な退院調整を

鹿島 美納子先生

 鹿島先生:早期退院にあたっては可能な限り時間をかけて、患者さんと対話しながら「今後の生活を見据えて、何が必要で、どうしたら治療が継続できるか」を一緒に考えていきます。
 まずは患者さんに心理教育を行い、病気についての知識を得てもらいますが、それ以外にもその方に必要な社会資源を導入するよう各所と連携を取りながら、地域の施設関係者らとの合同カンファレンスで意見交換を行っています。
 急性期病棟では心理教育以外にも作業療法などの社会復帰プログラムを用意していますので、退院後の生活につながるスキルを身につけてもらっています。プログラムを行うのは隔離室を出てからですが、入院時の毎週の回診は作業療法士や公認心理師も参加していますので、患者さんが少しでもよくなったときにどんなプログラムを導入できるかを主治医とスタッフみんなで考えることができるんです。
 そして退院後にまた必要な支援が出てくればスタッフみんなで考えていきますが、その際も患者さんと一緒に歩みを進めていくことを大切にしたいと思っています。

臨床話題として、ロナセンテープについて

 鹿島先生:怠薬は再入院の要因になりますので、服薬継続は大きな課題です。
 半田先生:ロナセンテープでアドヒアランスが非常によくなった方がいます。
 冨田先生:患者さんの中には「毒を盛られる」という被毒妄想のある方もいますので、湿布薬のように貼る行為のほうが抵抗感は少ないようです。
 鹿島先生:患者さんやご家族にとって、「これだったら続けられるかな」と思える剤形が増えるのはいいことですね。
 冨田先生:私たちも患者さんに「薬を飲むか、飲まないか」の2択を突き付けるのではなく、選択肢を提示できますから。
 半田先生:薬を飲んでくれないご高齢の患者さんにも使いやすいですね。副作用が比較的少なく、患者さんご本人も貼っていることを忘れてしまうことがあるようです。
 冨田先生:若い統合失調症の患者さんにもSDM(Shared Decision Making)の場でテープ剤を選ぶ方が一定数います。現在は統合失調症の慢性期に使うことが多いのですが、急性期にも効果が期待できると思います。今後は急性期の拘束と点滴治療を減らすためのツールのひとつとしても重要になっていくのではないでしょうか。

ラツーダの使いどころとは

 半田先生:ラツーダは双極性障害のうつ症状に有用性が期待できますね。
 冨田先生:気分安定薬でなかなか改善しない方に使うことが多いです。
 半田先生:統合失調症においても過鎮静やpost psychotic depressionになりにくいと考えています。
 鹿島先生:眠気も出にくいようですね。
 冨田先生:統合失調症の慢性期と急性期両方にも使っていますが、たとえばD2の遮断をしっかりしたくてMARTA系ではコントロール不良な場合にひとつの選択肢になると思います。気分安定に作用する薬は比較的MARTA系が多いので、SDAでそうした作用を持っている点がポイントでしょうね。

JEWEL試験

ここから、本邦において統合失調症の適応症を取得する根拠となった第3相試験、JEWEL試験をご紹介いたします。

試験概要

 本試験の対象は、急性増悪期の統合失調症患者483例です。対象をプラセボ群またはラツーダ40mg群に無作為に分け、治験薬を1日1回、夕食時*または夕食後に6週間経口投与しました。
 有効性の主たる解析は、ITT集団を対象として実施しました。有効性の主要評価項目である6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、併合した実施医療機関、評価時期、治療群、治療群と評価時期の交互作用および、ベースラインのPANSS合計スコアを共変量とする反復測定のための混合モデル(MMRM)法を用いて解析し、最終評価時(LOCF)に治療効果(反応)が認められた患者の割合をLogistic regressionで評価しました。
 安全性解析対象集団は、無作為化され二重盲検治療期に少なくとも1回治験薬を投与された患者として実施しました。

*本邦での承認用法は食後経口投与

有効性

 主要評価項目である6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−12.7、ラツーダ40mg群−19.3、投与群間の差−6.6と、統計学的に有意であり、ラツーダ40mgのプラセボに対する優越性が検証されました。また、effect sizeは0.410でした。
 副次評価項目である各来院時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ40mg群で投与2週目よりプラセボ群と有意差が認められ、その効果は6週時点まで継続しました。


 6週時のPANSS 5因子モデル別スコアのベースラインからの変化量については、急性期で特に問題となる陽性症状をはじめ、興奮、陰性症状、不安/抑うつ、認知障害のいずれの項目においても、ラツーダはプラセボに比べてスコアを有意に低下させることが示されました。

安全性

 副作用発現頻度は、プラセボ群57例(24.3%)、ラツーダ40mg群69例(27.9%)でした。発現頻度が2%以上の副作用は、プラセボ群では不眠症12例(5.1%)、統合失調症11例(4.7%)、不安9例(3.8%)などで、ラツーダ40mg群では頭痛、アカシジア、統合失調症が各10例(4.0%)などでした。
 重篤な副作用は、プラセボ群2例2件[統合失調症、自殺企図各1件]、ラツーダ40mg群1例1件[統合失調症1件]に認められました。
 投与中止に至った有害事象は、プラセボ群15例[統合失調症11例、手骨折、精神病性障害、敵意、自殺企図各1例]、ラツーダ40mg群14例[統合失調症7例、房室ブロック、肺結核、体重増加、不安、カタトニー、妄想、精神病性障害各1例]に認められました。
 試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。


 本試験では、臨床検査値への影響も検討されています。6週時点での体重、BMIの変化量や、HbA1c、コレステロールなど糖脂質代謝への影響、プロラクチンへの影響はこちらに示すとおりです。

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

ロナセンテープ20mg/テープ30mg/テープ40mgの製品基本情報(適正使用情報など)

関連情報

統合失調症/ラツーダ、ロナセンテープについてもっと知る